第7話 しっこくのやみぎるどさん

煽りに煽った結果、本来の目的である敵全員のヘイトを買うに留まらず、敵リーダーであるだろうシュバルツくんの思考まで怒りで鈍らせる事に成功していた。


その証拠に4人がかりであるにも関わらず連携のの字もないバラバラの攻撃。偶に仲間同士で接触しそうになっているほどにの動きをしている。そりゃリーダーがこうなら統率も取れなくて当然ではあるのだが。



先頭にいたシュバルツくんの、大振りの振り下ろしを余裕を持って横に躱す。それによって後続の片手剣が道を塞がれてしまい、こちらまで攻撃は届かない。


後の2人もそれを追って攻撃してくる。先の2人と比べてまだ連携が取れているように見えるが、それでも拙い。片手槍とメイスが左右から挟撃してくるものの、メイス使いが近接慣れしていないからか隙が大きい連携だ。刀を鞘のまま、メイスの手元目掛けて力の向きを変えるようにいなしてあげれば、着ていたローブに足を引っ掛け、勝手に片手槍と絡み合って転がっていってしまった。


余りにもお粗末な戦いに、ハルは一周回って困惑の表情。コーレルさんに至っては腹を抱えて爆笑していた。



「…クソ! お前らちゃんとやれよ!」


「お前が邪魔したからこうなってるんだろ!?」


「てかなんでヒーラーが前でてきてんだよ!」


「シュバルツさんが行くぞって言うからじゃないですか!」


コーレルさんの笑い声が耳に入り気に障ったのか、自分達の遊ばれている現状に腹が立ったのか。挙げ句の果てに仲間内で揉め始めてしまった。



これは… やっちゃっていいのだろうか…?

こちらに対してとしか捉えられない様な言い合いを始めた4人。これがブラフで仕掛けた所を攻撃するなり、こちらの動揺を誘うなりならまだ分かるのだが、どうにもそうには見えなかった。つまるところガチ喧嘩である。


彼らへの対応に困っていると、彼等がヒーラーと呼んでいた、ローブを着たメイスくんがいきなり地面に豪快な音を立て倒れ伏した。

突然の出来事に当然彼等【しっこくのやみぎるど】さんは困惑。俺達もの存在を知っていなければ困惑していたかも知れない。



そう、我らが慈悲無しウカさんが犯人だった。

周囲を警戒すらしていないのだ、戦闘慣れしていないヒーラーを落とすなど赤子の手を捻るよりも簡単なのだろう。


斯くして、回復リソースの大部分を占めて居たであろうヒーラーを失った彼等は、困惑から復帰したハルによって遠距離から体力を削られ、ウカによる麻痺毒とモンスター用捕獲縄によって捕縛されるのであった。



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「その縄ってプレイヤーにも使えたんだな。」


「ん。モンスター用とは書いてあるけどこの世界は自由。」


それもそうだ、ポーションを打ち水だと言い張ってぶち撒ける事もできるこの世界。何にだって利用する事は出来るのだろう。



「てめぇら…にゃにしひゃがる…」


まだ麻痺毒が効いているのか、呂律の回って居ないシュバルツくん。



「いや、折角だし色々聞こうと思って。」


シンプルに要件を伝えてみる。

ここまでボコボコにされては、煽られて激上し情報を漏らすなんて事には期待できないだろう。



「ハッ! お前らプレイヤーに対してそんな事して運営が黙ってると思うのか!? これはやり過ぎだろ!」


麻痺毒が効き過ぎているのはどうもシュバルツくんだけな様で、先ほどからシュバルツくんのポロリを咎めていた片手剣くんが流暢にそんな事を訴え始めた。



「運営に助けてもらえると期待している所済まないが、AVOではPKプレイヤーキルを仕掛けた方が捕まろうがやられようが運営は動かないよ。自業自得だ、って言ってね。」


「んなっ…」


現実を教えてあげたところ、絶望の表情を顔に覗かせ俯いてしまった。

悲しいがこれが現実だ。自分達から襲っておいて、返り討ちに合ったから助けてくれ! なんて誰が助けてくれるというのだろうか。



「で、でも! 俺達が口を割らなければお前達は時間を浪費するだけだぞ!」


先ほどから呂律の回らないリーダーシュバルツくんに代わって、攻撃手を代わる代わる口論を持ち掛けてくる。

確かに口を開いて貰えなければこちらとしては成果無し、時間の無駄になってしまうだろう。

君達がPK側でなければ、の話だが。



「確かに情報は得られないかもな。でもPKされた側がPKを撃退した場合…、 つまりPKKプレイヤーキラーキリングした場合、相手の装備を剥ぎ取るかどうか選ぶ権利があるんだよ。」


「…は!?」


「つまりここで情報を吐かなければ装備全ロスト、一から集め直しだね。」


この情報を聞くや否や、先ほどまで呂律が回っていなかった為話に参加してこなかったシュバルツくんが暴れ出した。



「ま、まっへくれ! この装備をとらへるのは困る! なんでもひゃべるから!」


「おい! 良いのかよ!」


「取られてもまた取り返せば良いじゃないですか!」


「分かっていない様だが今のレベル帯だとPKしてもアイテムはドロップしないぞ。PK側が返り討ちに合わない限りは取られない。」


みるみる絶望に落ちていく表情。あと一押しか…。



「ついでに言わせてもらえばリスポーン地点は最後にポータルに触れた街になるし、PK側は72時間リスポーン出来ないぞ。その間に俺達はどこまで足を進められると思っているんだ?」


その言葉で遂に観念し心が折れたようで、彼等は口を開き出すのであった。



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自我コーナー




お恥ずかしい話ではありますが、最近ランキング上昇通知も無ければPV数も落ちてきてまして… 私自身の執筆力と言いますか、面白い話が書けていればこうはなっていないと分かっていつつ、力技の1日複数話投稿に踏み切りました。情けない。


AVOの仕様を一気紹介!みたいな話にしたくなかったのですが… 設定後出しみたいですいません。


また、1章12話にてリスポーンタイムについて触れていましたが、


レッドネームの詳細を

【他プレイヤーをPKした】から

【他プレイヤーをPKしようとした】

に変更いたしました。


見切り発車で申し訳ないです。

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