第6話 接敵
「ほれ!これもやろう!」
「あははは… ありがとうございます…。」
コーレルさんのその勢いに押されつつも、笑顔を崩さずポーチから出てきた飴玉をもらうハル。まるで孫をお菓子で甘やかすお爺ちゃんの様だ。
ちなみに索敵に出ていてここに居ないウカも、周囲の報告の為一度戻ってきた際にこんもりと貰っていた。
「ほれお前さんも!」
「あ、いただきます。」
どうやら孫には俺も含まれるらしい。
めちゃくちゃ緩く見える道中だが至ってそんなことはなく、目的が拠点移動から護衛任務へと変わった事実はかなり大きい。 …と言っても先ほどまでと各々の役割は変わらないのだが。強いて言えば俺が非戦闘員かつ護衛対象あるコーレルさんもカバーする分、攻撃をハルにある程度任せているところだろうか。
常に気を張っていなくともモンスターからの攻撃には気づけ、後方から来ると予想される裏切り者達はウカが見てくれている為、こののんびりとした会話空間が成立するのだ。ウカ様々である。
コーレルさんから貰ったよく分からない味の飴玉をからころと口の中で転がしつつ、懲りずに突進してきた鳥の群れを斬って落としながら進んでいると、避けられないだろうとは思いつつ、でも心のどこかで避けられたらいいな、なんて淡い期待を抱いていた事態が起こった。
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「トーマ、 いた。」
それは何度目かもう分からないモンスターとの戦闘を終えてすぐの事。
索敵に出ていたウカが戻ってきて報告してくれる。
「コーレルさん狙いの冒険者か?」
「ん、とてもおこ。 多分あれで間違いない。」
なんでも事前にコーレルさんから聞いていた外見情報と一致しているらしく、人数も一緒のようだ。
リーダー格らしき男が特にキレており、仲間を連れ一直線に街道を突っ走っているらしく、このまま行けば接敵するとの事。
ツイてない事に辺りには身を隠せそうな岩場も草むらもなく、ウカの話通りならこのまま接敵することになるだろう。
俺やウカはさておき、ハルにとっては初めての対人戦だ。コーレルさん曰く「君達なら制圧できるだろう。」とのことだが舐めて掛かって良い訳がないし、相手は4人。頭数で負けている為、多少は危ない道を通らないと行けないかもしれない。
接敵までそう時間もない。俺は3人を集めてそれぞれの動きについて打ち合わせる。
「その作戦で先輩は大丈夫なんですか…? その、特にそこに持っていくまでの…。」
ハルが歯切れ悪くも心配の声を掛けてくれる。確かに俺もその一点が1番不安ではあるが、相手の心理状況的に多少粗くても大丈夫なんじゃないだろうか。
「わしは刺さると思うぞ。 少しの間しか奴らとは時間を共有してないが、リーダーの奴はかなり弱いと見た。」
コーレルさんの後押しと、これが1番コーレルさんに危険が及ばない策という事を伝え、納得してもらった。…どちらかというと俺のメンタルを案じてくれており、俺が良いと言っているから納得してくれた様だが。
後方から向かってくる事が分かっているのだ、わざわざ背を向ける必要もないので正面から迎え撃つ。
暫く待って、街道を走ってくる集団が見えてきた。
「…見つけた!!!」
戦闘を走る男が怒気を帯びた叫びを上げる。彼がリーダー格の男だろうか、装備しているものはここら辺を活動している者にしては上物であり、背には装飾の凝った大剣を背負っており、全体的なイメージとして見栄えを気にする性格のような印象を受けた。
またそれに続いて3人の男が駆けてくる。リーダー格の男含め全員バテている様には見えない為、ずっとこの距離を駆けて来ていたとすればスタミナポーション等を服用してから追いかけて来たと推測される。つまりそれだけ今回の標的を逃すわけには行かないか、本気でキレているか。若しくはそのどちらもの理由だろう。
「クソジジィてめぇ! 俺達をハメやがったな!?」
「ハメるもなにも小僧が先に裏切ったのだろう?」
「ンだとぉ!? 俺達を舐めてんのか!? NPCの分際で!」
自分達から裏切った事を棚に上げ、顔を真っ赤にしながらブチ切れるリーダー格の男。コーレルさんの言うとおりだがここで煽ってヘイトを集められてしまうと予定していた計画が破綻してしまうのでやめて欲しい。
そしてここである事実に気づいた。可能性はあると思っていたが確信に辿り着けるヒントが出た。
…いやもう答えだろうか。
「NPCね…。あんたらプレイヤーか?」
「は?お前ら何?」
「質問に質問で返すのかよ? 最近のガキは人に聞く前にまず自分から名乗る、ってのを習ってないのか?」
「誰がガキだって!? お前も俺達を舐めてんのか!?」
…乗ってきた。
どうやら
「俺達ってどこの誰だよ。お遊戯会の仲間達か?」
なるべく相手が腹立つように、慣れない態度で相手を嘲笑う。
「ンだとぉぉぉ!? 雑魚が調子に乗りやがって! 漆黒の闇ギルドを舐めてっとマジで後悔すんぞ!?」
「ちょ…! シュバルツさん!? それ言っちゃって良いんですか!?」
めちゃくちゃ簡単に情報が出てきた。こんなに簡単で良いのだろうか?煽りのチュートリアルだったりしないか…?
さておき【漆黒の闇ギルド】の【シュバルツ】くんね…。
所々名前がイタい気がするがそこは今気にする箇所ではない。問題は闇ギルドという点。
「シュバルツて! イタい名前してるなぁ…。 ボクくん達はその闇ギルドから依頼されてのこのこハメられに来たのか?」
気にする箇所ではなかったが、せっかくなので使わせてもらう事にした。こういう人間はネーミングセンスを貶されると…
「雑魚が俺をバカにしてんじゃねぇ! あぁそうだよ…俺達を巻けても第2第3の刺客がギルドからやってくるだけだぞ? 分かったら俺をバカにするのをやめろ!!!」
「おいシュバルツ! 言い過ぎだ馬鹿!」
仲間に止められるも頭に血が上ったシュバルツくんはもう止まらなかった。
しかし血管が切れて血が吹き出してしまうんじゃ無いかというほどに顔を紅潮させている事に感心する。ここまで表現するとはAVOも中々やるなぁ。
「お前もボコボコにしてやる…!」
「お前1人じゃ話にならないぞ? 全員で掛かってきてやっとじゃないか?」
「その言葉後で後悔しても知らないからな! …お前ら行くぞ!」
こうして、予定通り全てのヘイトを集めてから戦いの火蓋が切られた。
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自我コーナー
苦手と言いつつ煽り枠が増えました。拙い…。
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