第5話 炎

「おぉそうか! やってくれるか!」


同行の了承を伝えたところ顔のしわを一層深くし、眩しいくらいの笑顔で喜んでくれるコーレルさん。このくらい喜んで貰えると報酬を抜きにしても受けて良かったと思えるものだ。…貰える物は貰いますけども。



「荷物の方はどうします?」


「目的の物が見つかってないんだ、もしかしたらまだ周辺を探し回ってるかもしれん。…戻るのは悪手だろうな。 大事な商売道具を置いてきてしまった事は心苦しいが諦めよう。」


NPCからのクエストなのだから取り返しに行くルートも考えたが、本人から諦める言葉が出るとは思わなかった。感情を抜きにこういうリスク換算ができる辺りも会頭たる所以なのだろうか。



ともかく本人が戻らなくても良いと言っているのだ、俺達が戻るべきだの四の五の言う必要はないだろう。

問題があるとすればその裏切った冒険者達だ。その積荷に目的の物がないと分かれば次に行動に移すならば本人であるコーレルさん自身を狙うだろう。誰だってそうする筈だ。


奴らが来るならば後方。

背後からの襲撃に気を掛ける必要が出てきた以上、先程までと同様の立ち回りでは後手に回される事になる。少しでも奇襲を警戒する為に、ウカに索敵をお願いする。彼女ならばまぁ見落とす事はないだろう。



こうして俺達のグリンまでの道のりは、盗賊と魔物に襲われたお爺さんが加わるのであった。



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side ???



「なぁ… ほんとに何も聞いてねぇのか?」


「見りゃ分かるって言われたんだよ! 口開く暇があったら黙って手を動かしてくれ!」


見つからない焦りで口調が荒くなる。


倒れ、ズタボロになった馬車の積荷を4人がかりで片っ端からひっくり返して中身を漁る。馬はおまけで貰って帰って質屋に売り飛ばそうと考えたが、暴れてうるさいからもう手にかけた後だった。


積荷をひっくり返せどひっくり返せど出てくるのは果実や書物、稀に質の良さそうに見える衣類が出てくるが、そこまで特別な物にはとても思えない。これをわざわざ聖国から取り寄せましたと言われてはいそうですか、と頷けるような代物ではなかった。


あのオッサンを見逃してやったのは間違いだったか。簡単な仕事だと聞いていたから少し気が抜けていたのかもしれない、まさかあんな抵抗をされるとは思ってもみなかった。逃していなければ本人に聞いてすぐに見つけられた筈なのに。余計に時間が掛かってるじゃないか。



「まさかとは思うけどこのオッサンじゃなかった… とか?」


「な訳ねぇだろ、確かに依頼主はって言ったんだぞ!」


とある筋から発生したこの【仕事人ルート】、では聞いたこともなかった為新要素… 若しくは秘匿性の高いルートか、報酬が美味すぎて誰にも教えたくなかったか、…なんなら誰にも見つけられなかっただけかもしれない。


運良くこのルートを見つけられた俺は、初心者組だった友達や後輩を連れて闇ギルドへと登録した。中身はNPCやプレイヤーの妨害なり暗殺なりと、公には言えないような、しかし表で受けられるようなモノと比べれば雲泥の報酬な仕事の数々。


元よりこういった、じみたモノに年甲斐もなく憧れていた俺には天職だった。 …仲間のこいつらはどうか知らないが報酬には満足しているようだ。



「でもこんだけ探しても無いってさぁ、本当にここに無いんじゃねえの?」


「じゃあなんでこんなクエストがあったんだよ!」


「もしかしてだけどさ、あのオッサンが持ってったとかはないの?」


持ってった………?

言葉が脳裏で反芻する。思い返してみれば思い当たる点は少なくない。


そもそもの話、見れば分かると言われただけで、それが何でできているのか、そもそも固形なのかどうかも分からない。さえも。

なぜあのオッサンは大事な商売道具である馬車を簡単に手放した? 積荷を手放す気であればなぜ命乞いする事もなく全力の抵抗をした? もしこの積荷が全て囮で目当ての物はあのオッサンが身に付けていたら?


その考えがもし当たっているならば、俺達はまんまとここに釘付けられ、目当ての物を取り逃したという事になる。わざわざ襲うために道を外して休憩させた時点である程度は勘付かれていた…? それともただの用心…? 思考は堂々巡りの迷路に迷い込み、答えという出口に辿り着けない。



しかしこれだけは分かる、俺達はと。


薄々思っていた事実に思考は沸き立つ。あのクソジジイ俺達をハメたのか? 逃げている最中も「馬鹿なことをしている」と嘲笑っていたんじゃないのか?



「なぁ…?」


「…てやる…。」


「なぁ?」


「後悔させてやる…!」



本来の目的はもう彼の頭の中では燃えカスだ。

俺達をハメた事を後悔させてやると、復讐の炎に燃やされてしまったのである。



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自我コーナー




こんにちは。自我です。


私自身、もしこういったRPができるゲームと出会った場合、悪人プレイと言いますか、倫理に反するプレイは少し億劫になってしまう気がします。


心情を表すのになかなか苦労しそうです…。

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