第4話 コウコウ爺
「すまんかった!!!」
開口一番、全力の土下座と共に大声で謝罪を口にする商人風の男。正直その声でまた集まってくるからやめてほしい…。
「謝罪は受け取りますから一回落ち着いて…、 また囲まれますよ?」
「む、 それはいかん。…助けてもらった身で図々しいのだが少し話をさせて欲しい。時間はあるだろうか?」
意外にも思考は冷静なようで、頭を上げ声を落ち着かせてくれる。
こちらとしてもそこまで急ぎの旅ではないし、どういった経過でこんな事態になったのかも気になる。先に2人に確認を取ってから、男の事情に首を突っ込むことにしたのだった。
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このまま街道ど真ん中で話を進める訳にもいかず、先ほどウカに索敵してもらった際に見つけたという街道脇の少し開けた場所に移動する事にした。ここならば上からの襲撃はあるだろうが、伏兵からの攻撃を気に掛けなくて済むだろう。
「…よし、わしの名前はコーレル。こんな
周辺を確認し、移動を促したこちらの意図を汲んだ様で一息ついた後に名乗ってくれた。
見た目60〜70代くらいだろうか、白髪のイカした好々爺だ。確かにこんな形、と自虐するのも納得のボロボロ具合だが、服の生地そのものは街で見かけたNPCと比べて素人目で見ても高価そうであり、会頭というのも納得ができる。
「虹光商会の会頭なの?」
「お、嬢ちゃんわしの店を知ってくれてるのか? 嬉しいもんだなぁ。」
「知ってるも何も大手。よくお世話になる。」
彼女も道具を扱う者だからだろうか、意図せぬ同業者との邂逅に気持ちいつもよりテンションが高い気がする。
俺はアプデ前はウカの店で揃えていたし、アプデ後の現在ではウカの紹介する店に言われるがままに突入していた為、店の名前など気にした事がなかった。常識知らず…ではないと信じたい。
「え!昨日行ったお店だよね!? 品揃え良かったです!」
「おぉ! ご贔屓にしてくれてありがとうなぁ!」
…初心者組のハルでも知っていた。
今後は気にした方が良いだろうか。
「それで、なぜ会頭ともあろうコーレルさんがこんな所にお一人で?」
「実はなぁ…。」
▽ ▽ ▽
そこからの話はこうだ。
なんでも虹光商会において大きな取引が本店のある【都市グリン】にてあるらしく、その取引物が海の向こう、
無事に海を渡って日本エリアの港町、【海都 ブルム】まで辿り着いたのはいいが、そこで責任者である副会頭が事故によって対応できず。かなり大事な取引であった為、わざわざ会頭が出張ってきた、という話であった。
「護衛は? 雇わなかったんです?」
「もちろん雇ったさ! この取引を潰す訳にはいかんからな、貧乏な商会じゃあるまいし糸目はつけん! …しかし裏切られたのだ。」
「裏切られたんですか!?」
思わずハルが声をあげる。それもそうだ、護衛に裏切られるなどあってはならない。信用できる人脈を持っていない…とは思い難い。
「ブルムの冒険者ギルドに依頼したのだ。信用に足る人物を頼む、とな。」
これは… かなり複雑な話になってきた。
聖国の物をわざわざ取り寄せる、なんて一般の人間に叶う取引ではない。少なくとも貴族以上、若しくは聖国関係者だろう。どちらであっても失敗したとあってはかなり不味い。
その上冒険者ギルド経由での人員の紹介だ。政治的に面倒な事に発展するのは避けられないだろう。
「もう盗まれちゃったんですか…?」
心配そうにハルが伺う。
確かにコーレルさんはその身一つ。もし馬車などで運んでいたなら襲われた現地に置いてきてしまった事になる。今から戻っても、その裏切ったという冒険者達に持って行かれてしまっているだろう。
「ん? …ガハハハ! もしそうならわしはその場を逃げ出さずに荷物と心中していただろうよ! 大事な荷物を守れずなぁにが会頭か!」
なんでもその聖国から取り寄せた物は手のひらサイズに小さいらしく、何かあってはいけないと警戒して懐に隠し持っていたそうだ。それでは盗賊に怪しまれるだろうと普通の荷を乗せた馬車を囮に、都市グリンを目指していたらしい。今頃盗賊どもはその馬車の荷を解き、有りもしない見たこともどんな物なのかも知らない取引物を、血眼で探しているだろうとの事だ。
「まぁ… 他の荷や馬を囮に逃げることしかできなかったわしは商人失格なのかも知れんがな。」
大事な商売だけでなく、零細の商売の事も大切に考えているこの好々爺は、良い商人なのだろうと、この一言で俺は思うのであった。
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「そこで本題なんだがな。 …わしが言うのもなんだがあの状況で面倒事であると分かっていつつも救ってくれた君達だ、信用に足る性格と能力と判断した。礼はいくらでもしよう。わしをグリンまで連れて行ってくれんだろうか。」
先ほど同様に全力の土下座ではあるが、声量は抑えられ、しかし先ほど以上の誠意を感じられるような、そんな綺麗な依頼だった。
2人と相談してからだな、と振り返ろうとするも背後から手が二つ、背中に載せられる。
多少面倒事が待ち構えているような気もするが乗りかかった船、やるだけやってみよう。
「そのご依頼、 俺達が引き受けましょう。」
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