第3話 モンスタートレイン

ドロップアイテムを残し消えていくダークロウ。残されたのはあの漆黒の体のどこに生えていたのか、白を基調とした長めの羽だった。


確かレアドロップだったか…?

手に取り確認すると【ダークロウの風切羽】、記憶が正しければ通常ドロップが全面真っ黒の【ダークロウの羽】だった筈だ。ここで運を使ってもなぁ…。


運が蓄積するものではないと頭では分かっているし、AVOにそういった【レアドロップ天井システム】のようなものが存在しないのも理解しているのだが、なんとなく気になってしまう。



「先輩! …どうしたんです?」


討伐完了を知らせにきたハルがこちらの気の沈みというほどではないが、微妙な顔をしているのを察して伺ってくる。



「いや、レアドロップしたのは良いんだけど今じゃないよな〜ってな。」


「ラッキーじゃないですか! そういうのは今日は運がいい日なんだなーで良いんですよ? それに何かに使えるかもしれないんですから!」


気の持ちようという話か。このポジティブさは見習いたい物だ。

持っていて悪いことが起こるということでもなし、何か出番が来るまで倉庫番をしてもらおう。


ウカもドロップアイテムである羽で遊びながら戻ってきた。この数日高難易度や集団戦といったイレギュラーを相手取っていたからか、この程度では苦戦も無いのだろう。


こうしてイェロー街道の初戦は、難なく幕を閉じたのであった。



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「…鳥しか来ないな。」


先ほどから襲いかかってくるのはダークロウと、これまた鳥型モンスター【ブライトンビ】。名前から察せる通り、真っ白いトンビだ。


確かに鳥型が多いフィールドである記憶だったし、現実鳥型モンスターととにかくエンカウントし続けている。しかし、生息するのモンスターが鳥型ではなかった筈だ。ゴブリンやコボルトなどの飛ばない奴らだって生息していた筈なのだ。


生息域がアプデによって変化したか、それともまた生息域が変化するような何かが起きている…?

予想しようにも材料が余りにも足りていない。実害が出始めるようであれば早めに情報を集めたいものだ。



俺が気づいていないだけで、2人は何か気づいているか、それでないにしても違和感の一つでもあるかもしれない。一度話をしておくべきか? と歩みを止めようとする。



「ちょ! アンタら!!!良いところに、た、助けてくれ!!!」


後ろの方から叫び声。

その方を伺えばかなり遠くの方に人影が見える。あそこから叫んだのか?かなりの声量だ。



「ウカ、周囲の警戒だけ頼む。」


「ん。」


一言、そう頷いて先行するウカ。シンプルにピンチなだけのNPCやプレイヤーであるならば杞憂であるが、偶にそれを騙った盗賊でした〜なんてトラップがあったりするため、用心するに越したことはないのだ。というかここまで歩いてきて油断でオーレンに戻されるなど面倒臭すぎる、というのが1番の理由だが。


人影のその姿が近づいてくるにつれよく見えるようになる。それは商人風の格好をしており、何故か1だった。

この時点でかなり… いや怪しさ満点である。

それは商人がその身一つで駆けてくるというこの構図。

商人であるならば荷を積むための馬車なりなんなりがある筈だ、それに護衛を連れていればそんな逃げ出すような事にはならない。どう考えても商人を助けんとフォローに入ったところを背後から襲撃、それに合わせて周辺の物陰から囲まれるという策にしか見えないのだ。



しかし、その疑いに揺らぎを起こす事象も続けて目に入る。


-バカみたいな数のダークロウとブライトンビを引き連れてきたからだ。



モンスタートレインと化した商人はこちらを目指して走って来る。無視して前方に逃げようものなら他の鳥型モンスター、若しくはまだ顔を見せていない伏兵に挟まれることになるだろう。そうなってしまっては余計に面倒だ。もしかしたら前方に進めば他の冒険者や護衛を連れた商人に会えるかも知れないが、リスクとリターンを考えるとここで対処するのが1番に思えてしまう。



…やるしかないか。



「ハル、ここでなんとかしよう。敵の攻撃は気にしなくて良いからどんどん撃ってくれるか?」


「分かりました! …気にしなくて良いっていうのは?」


「俺が叩き落とすよ。」


こうして、トーマに再びタンクの役回りが図らずもやってくるのであった。



逃げてきた商人がもうそこまで来ている。かなりの距離走ってきたのか、息はばてばて、もう追いつかれてしまいそうな距離を黒と白が飛んでいる。服が所々破けている事から既に何度かつつかれているのかもしれない。


「いきます! ルミナコメット!」


今までのルミナスシュートは単発技だった物に対し、スキルを育てた結果得られた新技、ルミナコメットは群の攻撃。ルミナスシュートより少し小ぶりな光の玉が、3〜5個の群れとなって敵目掛けて飛んでいく。先日の戦闘で対多数との戦いで大勢を相手にするスキルに惹かれたからだろうか、ハルのスキルはこの進化をしたようだ。



若干のホーミング性を待つ彗星は光の尾を伴い鳥の群れへと向かっていく。今回は4発、全弾命中しダークロウを落としていく。属性対象からブライトンビは耐え切ったようだ。


前方からの攻撃に、仲間を落とされた怒りからかこちらの方に何体か飛んでくる。当然矛先は攻撃を放ったハルだ。


その攻撃を許すわけもなく、バラバラに飛んでくる奴らを1体、また1体としっかり急所を狙って一撃で落としていく。そうしているうちにハルの次弾が装填完了、群れの数を減らしていった。



途中ウカも戻って来て殲滅に参戦した所を見るに、周辺に盗賊の影は見えなかったのだろう。いよいよ本格的に俺達の後ろに隠れるこの商人が何をしていたのか気になってくる。


暫くして、空を飛ぶ影はいなくなり。

足元には大量の羽と、背後にこの騒動の発端である商人が残されたのであった。



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自我コーナー




モンスターなので○羽ではなく○体という数え方を意識的にしていますが我ながら違和感を持ちながら書いています…。

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