第37話 最終日へ向けて。

残る王国からの謝礼は決まり次第ギルドを経由して、という話で纏まった。この後も他の傭兵との話し合いがあるのだろう。見送りはここで済まない、とゴードン団長からは天幕を出る際にも綺麗な礼をされ見送られた。やはり根は軍隊気質な人なのだろう、彼もただ、平民を守ろうとしただけなのだ。


また、これは後日談になるのだが、後日ギルドで聞いた所によると、この醜態を繰り返さないべく第3騎士団の訓練をゴードン団長は見直したらしい。その対応にスポンサーは減ったようだが、寧ろ無事に乗り越えられることができれば立派な志を持ち帰ってくると一部に好評であり、第3騎士団は生まれ変わったとの事だった。



騎士団本部の天幕を出て教団の天幕へと移る。

思い返せば彼女には今日の始めから終わりまで本当に世話になったと思う。



「マールさん、今回は色々ありがとう。助かったよ。」


「いえいえ、お役に立てたようで何よりです♪トーマ様には色々していただきましたし…ね?」


色々って道案内しかしていない気がするが… そういう事言うのやめていただけませんか? 後ろから背中に刺さる視線が痛い。



「ギルドランクもCという事ですし、今後我々教団、引いては聖国からの依頼を目にする事があるでしょう、今度は依頼主お会いするかもしれませんね。その際はまたよろしくお願いしますね♪」


これを狙って報酬をCランクに…?と脳裏をよぎるが、そこまでNPCは自分の益について考えないだろう。考えすぎだとその思考を放棄した。大方聖国とのパイプを作るためのクエスト…だろうか?


それを裏付けるかのように、その後の話は進んでいく。



「そして私達教団からも…とは行かないのですが、私個人からこちらをお渡しさせてください。」


教団から、となると聖国が絡んでくるのだろう、色々なしがらみがあるのはゴードン団長同様、マールさんとて一緒なのだ。


手渡されたのは人数分の十字架をモチーフとしたペンダント。受け取った際にフレーバーテキストがウィンドウに表示された。



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クレア教団のペンダント



クレア教団の中でもある程度の地位を持つ者が実力を認めた者に渡すペンダント。


教団員からの初期友好度に補正。


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AVOの中にはアイテム効果が具体的に示されている物とそうでない物が存在する。今回は前者のようだ。フレーバーテキストを読むに、ここまでの代物となるとほとんど教団からの贈り物と思っても差し支え無さそうなほど破格の性能。個人の判断で渡せるマールさんは一体何者なんだ…?


新たな謎を残しつつも、彼女も忙しそうであったのと、終わるのにもいい時間であったため話題を広げず、また会った時にでも聞こうかと、その場はお開きになった。



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全ての事が片付き、マールさんに見送られた俺達は再び喫茶【小鳥の止まり木】へとやって来ていた。先も前来た時と同じく個室である。



「たはー…。今日は忙しい1日でしたね…。」


アメさんが机に溶けるように伸びる。戦後処理の時点で配信は流石に切っていたようで、既にオフモードだ。


彼女も彼女で黒い雷の効果を受けていたらしく、かなり苦戦していたらしい。現地に居たリスナーもいたそうで、コメント欄も騒ぎになっていたとかいないとか。



「みんなお疲れ様。…ここまでとは正直予想できなかったな。」



それぞれからお疲れ様と、隠しきれない疲労を感じさせる返答が戻ってくる。

しかしダーシュにおいては、



「お疲れ様ッス!久しぶりに集団戦できたんでオレは満足ッスね!」


とニッコニコしていたので疲れ知らずなのだろう。

ここで疲れ知らずで思い出した例の件を掘り返す事にした。



「ダーシュ、そういえば昨日何時までやってたんだ?」


「昨日っスか? あんま覚えてないっスけど気づいたら集合時刻ギリギリでマジ焦りました。」



なん…だと…?

こいつまさか寝てないのか?


その後問い詰めると「たくさんリポップするものだからやめ時が分からなかった。」との本人談だが、それにしてもだろう。その身で今日を耐え切ったといい、こいつの体力は無尽蔵なのだろうか?



「ていうか! ランキングどうなったんですかね!?」


ハルの声で思い出す。バタバタと忙しすぎて本末転倒灯台下暗し、完全にランキングを忘れていた。


全員でランキングページを確認する。



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エリアイベント 2日目


1位 チーム プリーデ

2位 チーム ジーク

3位 チーム トーマ

4位 チーム シーカ

5位 チーム おもちたまご

9位 チーム レジェンダリー漁師



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「…耐えてますね?」


「ん、善戦。」


思ったよりもしがみ付けていた。

幾分他のボスよりも今回相手にしたボス達のポイントが高かったのか、それともダーシュがゴブリン相手に無双した結果なのか、どちらにせよ上位に残れていた事に変わりはなかった。


またランキングに名を残す面々も見覚えのある名前だ。精々9位のチームが新顔だろうか?大健闘したのだろう。



「この調子なら明日の頑張り次第で残れますね!」


「あ〜…、済まない。その事なんだが…。」


周囲の熱量が上がる中、水を差すようで心苦しくなるも、事情を伏せつつ明日は参加できそうにない旨を伝える。



「もちろんOKですよ! 先輩がいなくても維持してみせますとも!」


「トーマさんにはお世話になってるからここが恩の返しどころですね、気にせずお休みしてくださいね?」


「うっス! 任してくださいセンパイ!」


と快く送り出してくれる3人。

ウカもうんうんと頷いてくれていた。いい仲間に恵まれた物である。


その後、俺の欠けた4人での明日の動きをある程度相談し、最終日を仲間に託して解散。という運びになった。



「トーマ、がんば。」


きっと事情を察しているだろうウカに解散際、声を掛けられる。



「…ああ、やるだけやってくるよ。」



こうして、それぞれの明日を迎えるのだった。



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-翌日。



目覚め、いつも通りの変わらないタスクをこなす。

明日からまた平日かと少し億劫になるも、そんなもやもやとした気持ちを晴らそうと軽く走って身体を温める。

シャワーで身体を清め、軽く食事を済ませる。


そろそろ時間だろう。




俺は運営から郵送されて来ていた、を起動した。

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