第36話 報酬
メッセージを見るよう指示したクレアトールは、やりたい事は果たしたと言わんばかりに満足げな顔をしながら、ウィンドウを閉じ連絡を断つ。
ここで女神の指示に対して意味のない天邪鬼を発揮したところで、遅かれ早かれ最終的には確認する事に変わりない。騎士団や教団とも話を進めなければいけないが、先にメッセージの内容を確認するくらいの時間は取れるだろうと、ピカピカと我を主張してくるアイコンをタップする。
メッセージ欄にはアイコンが示した通り新着2通。
1通目は…なるほど?
イベントも最終日、佳境に入るという事だろう。
ボスモンスターラッシュ、とわざわざ名を設けるくらいだ。各フィールドに1体ずつでは1日目にもあった特に名称もないフィールドボスイベントと何ら変わりなくなってしまう事からも察するに、仰々しい名前がつく以上複数体出現してくるのではないだろうか。
また火山亀やギニーのような、強敵と相見える事ができるかもしれない。
これは楽しみだと胸が高鳴る。
しかし、重要なことに気づく。
先の戦いでメイン装備である獲物を失っているのだ。
思えば再スタートして殆ど直後の頃からの付き合いだ。
むしろこの強敵との連戦の中、良く持ってくれた方だろう。
明日の集合時刻までにある程度の水準の物を揃える必要があるなと脳内のタスクに刻むが、それが必要のない事に変わるまでそう時間は要らなかった。
それはその後に開いた2通目に理由があった。
「ん、んん〜…?」
内容に思わず唸る。
そこには女神の言うお仕事の全貌が記載されており、イベント最終日である明日をフル尺で使わなければいけないような内容だった。
口調こそふわふわしているものの、文面からして強制召集だろう。イベントに貢献できない分補填はするとは書いてあるが、明日はボスイベントもある以上大きなロスである事に間違いはない。
運営がいちプレイヤーのプレイ時間を拘束するとは何事だ、と普通なら思うところだが、元よりこういったお仕事が舞い込んでくる事は運営より事前に知らされていた。とはいえこのタイミングか?なんて思いつつ、先ほど彼女が言っていた通り助けられた手前、断りづら…くないな? このイベント運営が用意したんだよな? 壮大なマッチポンプなんじゃないのか?
嵌められたような気がしないでもないが、どちらにせよ拒否権はないのだ。リアルでの事情が無ければ、とは言っていたが当然明日も遊ぶ気でいた。運営も俺の事はよく分かっているという事だろうか?もう長い付き合いだもんなぁ…。
パーティには本当にすまないと思うが明日は4人で頑張ってもらおう。ウカとダーシュは察してくれそうだしハルも気が知れない仲ではない。最悪埋め合わせをすれば許してくれる…と思いたい。
問題はアメさんだよなぁ…。
性格的には優しい人だし大丈夫だろう、しかし彼女は配信者だ。取れ高をみすみす逃す事につながる状況を良しとするだろうか。また彼女が良くても
なにはともあれ1人で悩んでいても仕方ない。この事は落ち着いてから全員集まったタイミングで相談しよう。
ひとまず目の前のことから片付けないと。
「先輩! 大丈夫でしたか!?」
戦後処理をしている集団に近づいて行くと、真っ先にこちらに駆けてきたハル。
「お疲れ様、そっちは大丈夫だったか?」
「私も今ちょうど着いたところで! ゴードンさんが再出撃する時に着いて行きたかったんですけど、アシスト無しじゃ難しくて…。」
そういえばアシストシステムがどうとかと騒いでいた気がする。周囲の様子を見るにアシストの恩恵を何故か急に受けられなくなったと予想していたが…。
「その事なんだけど、何があったんだ?」
「最初は私も再出撃組に混ざってたんです。合流しようと向かってる時に前線の方で雷が落ちたと思ったら、突然いー君が目の前に現れて。 普段の口調と違う事務的な口調で言われたんです、アシストシステムを強制終了します。って…。 その後急に普段通りに体を動かせなくなっちゃって、周りで救護されてた他のプレイヤーの人も似たような感じでした。」
大方予想通り、と言ったところだろうか。唐突に、とは言うが雷がやはりトリガーな気がする。しかし折角、今回新規を獲得する為に導入したメインと言っても過言ではないアップデート内容を捨てるとは、運営も思い切った行動をする。
もしくは意図しない処理落ち…とかしょうもない理由かもしれない。あれだけの範囲のモンスターを強化ともなるとあり得ない話ではないだろう。
「その後、白い雷が落ちてからは復旧?したみたいで、ここまで来ることができたんです。」
本当に処理落ち説が濃くなって来ているんじゃないだろうか。白い雷…つまりクレアトールの介入が修正パッチ、ではないにしろアシストシステムに何らかの影響を与えているのは明らかだ。本人は助けたと言っていたが本当にマッチポンプが過ぎるんじゃないか…?
「回復魔法使える方ぁー!こちらもお願いしますー!」
「あ、はーい! 先輩、あっち手伝ってきますねっ。」
「あぁ、ほどほどに頑張れよ?」
そんなこんなで考察していると、遠くの方から聞こえてくる騎士の声に呼ばれお手伝いへと戻るハル。
俺も撤退するべく、周りの騎士に混ざって後処理を進めるのだった。
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「すまなかった! 貴殿らのお陰で街を守り切る事が出来た。無礼な身をした私に代わり場を繋いでくれた事、本当に感謝する。」
開口一番、ガバッと綺麗に頭を下げ謝罪の言葉を口にするゴードン団長。
ここは所変わって騎士団本部天幕内。ゴードン団長と初めて顔を合わせた場所でもある。
「目的は一緒でしたからね、守り切れたんですから大丈夫ですよ。」
対応はリーダーに任せる。とパーティ内全員が言い出した為、俺が受け答えを代表している形だ。
だが、ここで場を荒らす声が上がる。
「ダメですよ! 私は今回の対応は如何な物かと思います!」
マールさんだ。
今回の謝罪、貴殿らの中にはマールさんを代表に教団の方々も含まれている。しかしさっき貴女俺に任せるって言ってくれませんでしたか? 思いっきり噛み付いている。
「もちろんこのまま謝罪で済ませるつもりはない。私自身から上へと話は上げさせてもらう。また、私の裁量で出来る範囲でも何かさせてもらうつもりだ。」
騎士団所属である以上、聖国所属である教団に対しては
「トーマさん。この辺の交渉はお任せくださいませんか?」
ふんすと何故か異様に意気込むマールさん。そこまでしなくていいんだけどな…と思いつつ、やはり貰えるものは貰っておくべきだろう。周囲にいた仲間達も賛同しているのかうんうんと頷いている事だし任せてしまおうか。
別に面倒になったから俺も丸投げしたくなった訳ではない、善意を受け取ったまでである。
その後話は進み、気づいたら冒険者ランクが何故か2段飛ばしのCランクに上がっていた。
なんでもゴードン団長はAランク冒険者としてギルドに登録されているらしく、上位の者からの推薦があれば昇格基準が変動するらしかった。因みに初耳の情報である。
元来であればCまで上がるのにはなかなか骨の折れる作業が必要であり、破格の報酬と言えるだろう。もらい過ぎと言っても過言ではない。
「トーマさんっ、ご満足頂けましたか?♪」
どこかげんなりしているゴードン団長を背に、勝ち取ってやったぞと言わんばかりの笑顔を向けてくるマールさん。
女性はどこの世界でも強いんだなぁ…。
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