第33話 喰物連鎖
「センパイ!スンッマセン!!遅くなりました!」
「いや、ナイスタイミング… 助かったよ。」
足りない後一手が。
欲しい後1ピースが埋まった。
少し休んでほしい、とダーシュは俺に代わりギニーの足止めに入ってくれた。不慣れな為、所々危うい動きをしているが、周囲のゴブリンは増援のお陰で妨害に動けない。1vs1で躱すだけに集中した上でならなんとか被弾せずに済むようだ。
くろいゴブリンに対して個人個人の戦力が心許ない騎士達も、立回りと数的有利を意識しているお陰か脱落者もなく善戦している。ゴードン団長の指揮が効いているのだろう。
「お怪我はないですか!?」
「マールさん!? 何でここに?」
追加でやって来た予想外の人物に驚く。
いやマジでなんで居るんですか。
「何でって言われますと… ゴードン団長が頭を下げたんです。」
「ゴードン団長が?」
なんでも前線から引いてきて開口一番、教団の人達や教団員によって救護されていた手負いの騎士や傭兵に向かって、もう一度力を貸して欲しい、と頭を下げたそうだ。それも貴族でない者も含めて。
中には死にに行くようなものだ、無駄死にさせたいのか、なんて言葉が騎士達から出ていたそうだが、今でも前線で戦っている、あの勇気ある者に報いたい。街を護るのは我々の責務である、が我々だけでは力が及ばない。教団の力添えも願いたい。と力説してたとか。最終的には否定的な声を挙げていた者達も場の空気に呑まれ、殆どの騎士が再戦を臨んだようだ。
「あのゴードン団長の心を動かすなんて流石トーマさんですね♪」
「買い被りすぎ…というか俺は本当に何もしてないよ…。」
本当に買い被りすぎだ。ゴードン団長の心を動かしたのが何なのかは分からないが、きっと何か思う所があったのだろう。彼にも彼なりの流儀があったという事だ。
「センパイ…!? そろっとお願いしても良いッスか!? …うぉぁあああぶねぇ!」
マールさんと話していると、悲鳴を上げながらSOSコールを投げてきたダーシュと一瞬目が合った。今のは結構危なかったな…。
「あ、すまん。 上手くいなしてるから甘えちゃってたよ…。」
忘れていた訳ではないんだ、その証拠にちゃんと視界には納めていた。断じてなんか大丈夫そう、だなんて思っていた訳ではない。
「頼ってもらえるのは嬉しいッスけど!」
「じゃあ替わるぞ! 周りは頼む!」
「任されたッス!」
器用に矢でギニーの大振りな攻撃を弾き、交代する隙を作る。十分戦い切れる気もするんだけどな、と考えてしまう余計な思考を頭から振り払い、再び俺は対峙した。
何度目の仕切り直しだろうか。
武器の耐久値はもう心許ない、しかし周りには味方がいる。もう邪魔をしてくる者はいない。
『ゴァァァァァァァァァァア!』
-咆哮。
発声源から離れていた騎士ですら怯むほどの威圧を放つギニー。既に覚悟は決まっている様で、ただの自身に対する鼓舞だったのだろう。俺が怯むとは到底思って居なかったのか間髪入れずに翼をはためかせ突っ込んでくる。
大きく避ける必要はない、少し逸らすだけでカウンターを決められるだろう。と構えるも違和感。…あぁ、これが本筋じゃないな? 狙いはこちらのカウンターを読んだ上での… ブレスか。紙一重でこれまで避けられダメージを受けていた事から流石に学習したのだろう、点で当たらないなら面で。という思考に至ったらしい。至極当然の動きだ。
大きく距離を取っても良いが間に合うか五分五分だ。賭けにはなるが一発もらう覚悟をしておいた方がいいか?
「トーマ様! 【息吹払い】をかけますのでどうぞそのままに!」
-【息吹払い】
名前の通りブレス系の攻撃を逸らしてくれる、という便利なように聞こえるが対象は1人でかつ、ブレス系にしか効果を持たないピーキーな性能だ。それに加えての払い系統スキルは何かを信仰してようやく生えてくるスキル群にある為採用率は低い。
斯く言う俺も存在、効果は知っていたが、ストーリーイベントでNPCが使っている所を数回見た事がある程度で、プレイヤーが使っている所は見た事がなかった。
「…助かる!」
マールさんに感謝をしつつ、片手に用意していた即効性のあるポーションを懐に戻す。最悪1撃でHPバー全損もあった危ない賭けであった為本当に助かった。
ブレスの心配もする必要がなくなった為、一度取ろうとした距離を再度詰める。
予想通りブレスを用意していたギニーは、少し面食らったような動きを見せるも吐かない訳にはいかず、こちらに向けてブレスを放射した。
息吹払いの効果で俺だけを避けていく様に地を這う火炎。ダメージこそ無いものの、周囲を包むそれは熱量を感じさせるほどに近く、熱そうに見える。直撃していたら全損していただろう。
しかしその火炎は完全に意味のないもの、という訳ではなかった。
息吹払いは身の回りを避けるだけであり、放射元であるギニーの姿はこちらに向かってくる火炎によって上手く捉えられず、相手もまた同じであった。
火炎のブレスは、図らずも互いの視界を阻害する炎の壁と化していたのだ。
-直感。
それとほぼ同時か少し遅れて流れてくる火炎に少しの乱れを覚える。
ブレスが切れれば打つ手が無くなる。闇雲にでも攻勢に出ようと考えたのだろう、炎の壁の中から拳がかなりの速さで突き出てきた。
相手もある程度の確信があったのか、確かに先ほどまで俺が居た箇所を拳が通る。数秒前まで、であるが。
ブレスが止まる。
『ガァァァァァァ…く…ソ…』
万策尽きた王は四方八方から同時かと錯覚するくらいの連撃に晒される。
腕を振り回そうとするも、もうその腕はそこには無い。
翼を使って引こうとするも、もう背には何も残らない。
俺の唯一であった獲物がその連撃に耐え切れず、折れると同時。
ギニーはその地に膝を付けるのだった。
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『マダ… まダダ…! コこデオわルワけニハ イカなイ…!』
全身の痛みで一周回ってアドレナリンが切れたのか、咆哮しかできなかった喉は言葉を紡ぎ出す。
ギニーも限界なようで、ただでさえたどたどしかった言葉が更に崩れていた。もう風前の灯火なのだろう、何もせずとも事切れそうに見えた。
『ふーむ…。 強化されてここまでですか… 思ったより持たなかったですねェ?』
空気が変わる。押しているのは間違いなく俺達。後がないのは間違いなく奴らだ。身体の節々に大小の傷を負ったゴブリンの王、ギニーはもう動けない。しかし、ザモンに焦りはない。むしろ最終的にこうなる事は予定調和であったと言わんばかりの雰囲気を出していた。そんな奴は威力のほとんどない爆発を起こし、周囲にいたプレイヤーを強引にノックバックさせ宙に浮いた。
『王よ! これは我ら鬼族の祈願の為。祈願の為なのです…! 覚悟は御座いますね?』
『オレたチハ コンな… こんナトコロでハ…ッ!』
どこか芝居がかったザモンの言葉は、虚に言葉を発するだけの王には届かない。
ザモンの持つ錫杖が今までにないほどの眩さで怪しい輝きを放つ。
先程同様魔法陣が現れる。何が出てくるのか警戒するも、その魔法陣は何かを吐き出すことはなく。
それはギニーを丸ごと飲み込んだ。
魔法陣は光を増す。
飲み込んだギニーだったモノを魔力の塊へと変えていく。
『ハハハ… ハhaはハハ…! こノ魔力!コのチかラ!!! ヨうヤクワタしハ手ニ入れタゾ!!!手ニ入レマシタヨ***様!!!』
魔法陣から溢れた魔力の奔流はザモンへと集まっていく。
その流れはザモンを中心に繭のようなモノを形造り、妨害しようと周辺のプレイヤーが魔法を放つもその繭は全てを無効化し吸収する。
我々は何も成せず、その繭の中身が完全となるまで見守る事しか出来なかった。
程なくして繭はその中身を解き放つ。
世界に災厄が顕現した。
まだ続くのか…と、終わりの見えない戦いに運営に文句のひとつでも言ってやろうかという気で、戦いに敗れた騎士が落とした物なのか落ちていた量産品の剣を手に取り構える。
『まだやるんですかぁ〜? それは流石にしつこすぎると思うんです〜。』
そんな気構えとは裏腹に。
脳裏に響くような声と共に、空から今度は白い雷が落ちて来た。
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