第28話 背水の将
「ダーシュ、雑魚は任せていいよな?」
「こう頼まれるのも久々っスね、うっす!やったります!」
「…!? 1000は残っているのですよ!? 全員で事にあたらないのですか!?」
猶予がないため簡易的となってしまった俺達の打ち合わせを聞いていたのか、それはおかしいだろとツッコんでくる教団の女性。
「あ〜… お気になさらず。 無理のない範囲でやってもらうので大丈夫ですよきっと。」
こればっかりは納得してもらう他ない。こうだから大丈夫、というような具体的な根拠を出して納得させろと言われても時間がない中では難しく、受け答えが雑になるのも仕方ないだろう。
それに俺達プレイヤーは負ける事はあっても死ぬ事はない。ペナルティがあるとはいえリスポーンすることが出来るのだ。無謀な賭けでもやってみるだけ、ができてしまう。
そういえば今まで気にした事が無かったがNPCからしたら俺達はどう見えているのだろうか…? 死んだ人間が蘇る?そもそも死んだ事にすらなっていない? そういうものだと違和感なく過ごしている? こればっかりは自分の中で考えても答えは出ないだろう。いつか聞いてみたいと思ったが間違いなく今この時ではない。余計な思考を追い出し目の前の問題に再び向き合う事にした。
やはり納得できないようで、あわあわと心配そうな顔をしていたかと思えば不満そうにマールさんに抗議の目を向けるも、こちらの意図を汲んでいるのか、それとも他の理由があるのか、静かに首を振ってそれを制する
「アメさんはどうする? ボス戦と無双ゲームが用意できるんだけど…。」
配信の事情もあるため彼女の意思を尊重したいところだ、個人的にはペアの相性的にもダーシュについて欲しいが…
「私はダーシュさんに着いて行きます! ボス戦も気になりますけど、無双ゲームって見ていて気持ちいいですもんね!」
助かる返答だ、アメさんも察してくれた所があるのかもしれない。
ハルは支援に回るから残りは1人だ。
「ウカ。」
「ん、任せて。」
心地がいいとまで感じるくらいの二つ返事。…まぁ言いたい事はここまでくればウカでなくてもある程度察せるだろう。ボスを相手取るのは俺とウカの2人が最適だろう。相手の強さにもよるが酷い事にはならないはずだ、最低でもゴードン団長や残っている者を逃がし、立て直すだけの時間を稼ぐことに徹すればいい。それだけが目標であればおつりがくるほどではないだろうか。
「後は移動しながら話そう。 …それじゃあマールさん、行ってきますね。」
下手に不安にさせないよう、自信ありげに笑顔で告げる。
「いつ撤退されても大丈夫なようこちらは守り切りますので、安心して引いてきてもらって大丈夫ですからね? ん〜…少し違いますね… せっかくトーマ様の上司のような立場です、役得とさせていただきましょうか♪」
自身の唇へとその白魚のような指の先を当て、少しの恥じらいが残る笑みを浮かべながら俺達に彼女は命ずる。
「-私たちに勝利を。」
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side ゴードン第3騎士団長
「完全に背を向けるな! 隙を見せずに引け!」
大きな隙を見せながら情けない撤退をする味方に叫びながら、その手に持つ己の身長よりも長い、小鬼共の血に塗れた大剣を振るう。
最初こそ順調だった。
俺の出した采配に隙はなかった。
-ゴブリンの頭数は確かに減っていたはずだ。
俺の考えた陣形に問題はなかった。
-怪我をした兵士はすぐに下げ代わりを配置できるほどの余裕すらあった。
俺の口から出た鼓舞は間違いなく士気を上げた。
-敵を雑魚だと理解した兵達はいつも以上に動けていた。
このまま続いていれば勝っていたのは俺だった。俺達だったはずなのだ。
俺の計算は間違いなかったハズだった。
しかし、その計算に兵の実践経験のなさは勘定されていなかった。
王国での訓練は、上層部やスポンサー、在籍している騎士の親共の意見が通ってしまい厳しさは抜けていった。結果として、第3騎士団の練度やメンタルが育つ事はなかった。
それでも、平民上がりの雑魚よりはエリートだ。貴族による、市民を守る為に教え込まれたはずの教育がある分、守られるだけだった平民より使えるはずなのだ。下地が違うはずなのだ。
-甘かったのだ。危機感のない日々の訓練は命懸けの
…甘かったのは俺か。貴族足る者、市民を守るべくされてきた教育を過信した。いや、気づいてはいたのだ。見なかった事にしただけだ。その結果がこれだ。自業自得だ、俺が殿を務める方に異論はない。責任者は俺だ、当たり前の義務である。
しかし問題はオーレンの街に留まらない。
オーレンの街を抜けられる前に他の騎士団が到着してくれればいいが… 俺はここでなるべく群勢を引き留め時間を稼ぐ事に尽くすべきだ。
不幸中の幸いか、相手は剣を振れば紙のように切れていく雑魚。この場に留めるだけであれば何とか待つだろう。
しかし相手も群れを率いる者、馬鹿ではない。
この現状を良しとする訳もなく。
『ナンダ!! コノ シュウタイ ハ!!!』
『落ち着いてください王よ…。 相手が将とあればこの塵芥共では難しいでしょう。 やぁやぁ初めまして人類種の将よ?』
「…ネームドッ!?」
筋骨隆々、その体躯は以前見た事のあった同種のゴブリンキングと比べ大きく異なっており、筋肉量が増し2回りほど大きく見える、これまた通常種の緑肌と異なる黒色の肌のゴブリンと。
ゴブリンが持つにしては異様に質感のいい黒色のローブを身に纏った、自身の身長より長い錫杖を手に持ったこれまた黒肌のゴブリンが前触れもなく目の前に現れた。
ネームドが居る事自体は想定していた。でもなくばこのような事態は起こらない。
しかし今、ただでさえ撤退しつつも奮戦し、それでようやく時間を稼げるかという希望が見えたタイミングでの絶望。それだけで十分な絶望だというのにネームドが2体。何の冗談だと笑ってしまいそうになるほどゴードンのメンタルは予想外のダメージを受けていた。
「…俺は王国騎士団第3隊団長ゴードン! せめて貴様ら片方だけでもその首貰って行かせてもらう!!」
『これはこれは御丁寧に。 私の名はザモン。そして此方は我らが王、ギニー様です。我々の首は申し訳ない、お渡し出来ないのですが… 死に土産に名前だけでも如何でしょう?』
此方の名乗りにニヤリと嫌な笑みを顔に張り付け名乗るザモン。ここまで流暢にこちらの言語を喋るネームドも初めてだ。どこまでの実力なのか想像もつかない。
最早ここまで…か。
不退転の覚悟で少しでも時間を奪ってやろうと、最後まで足掻くべく踏み出さんとしたその時だった。
後方より鈍い炸裂音がしたかと思えば周囲を抜けようとしていたゴブリンだけに光の矢が空から飛来しその息を刈り取って行った。
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