第26話 開戦
その後、教団直属とはいえ後方に配属された現状も合わせて見るに、ゴードン団長からはこれ以上詳しく戦況を説明されることは無いだろう、とマールさんから今知り得ている情報を共有してもらうことになった。先ほど聞いた段階では他のメンバーは居なかったので改めて1からだ。
内容として
・敵群の総数は2000以上
・荒野の奥から進行中
・群を取り仕切るはゴブリンキング変異種
・特徴として複数の魔物の特徴アリ
・対する王国軍は騎士団から200人、有志軍が約300人、教団から10人と総員500人ほど。
これ以上の情報や作戦等は共有されておらず、教団は後ろで支援に専念しろ、とのこと。また貴族関係からの推薦でないルートを通ってここに来た者に対しても頭数として数えているか怪しいらしく、ろくな作戦を伝えてもらっていないようだった。
「それ大丈夫なんですか…? 相手2000体に対して舐めすぎなのでは…?」
と不安を露わにするハル。
実際ハルの言う通り俺も舐めすぎに感じる。
たかがゴブリンされどゴブリンだ。
いくら騎士団の練度が高かったとしても戦いに絶対はない。集団戦でイレギュラーの発生率は上がっているだろう。その上今回はイレギュラー枠の変異種が付いている。本当に状況を見据えられているのか不安になるくらいだ。もしくは何か秘策でも用意してあっての自信なのだろうか?
「…フゥ〜ン?」
どこぞの小さくて可愛らしい生物のような声を出したのはダーシュ。これは多分作戦に対しての不満ではなくマールさんが低く見られていることに対する不満だろう。昔から大体の女の子には優しいからなぁ…、 変な事をしでかさないよう祈るばかりであるが、むしろ今のところこの反応で済んでいる事に驚きの方が勝った。
昔はもっと猛犬じみていたというか、相手が何にせよ噛み付いていたようなイメージがあった。
出会った頃なんて今の大人しさからは想像もつかないくらい尖っていたと思う。いつからこんなに懐かれたんだったか…。
「それだけでも問題なのですが… どうも今回こちらに居合わせる騎士様方には練度の低い方も多いと伺っておりまして… 後方とはいえ油断ならない状況とだけお伝えしておきます。」
なんでもゴードン団長自身の意思に合わせ、他の貴族の意見が絡んでいるらしく、今回対応にあたっているのは王国騎士団の中でも貴族家がご子息に箔をつけるため騎士団に加入させているようなメンバーを集めた、貴族騎士団や箔付け騎士団とも揶揄されるような第3騎士団である。流石に国王や他の騎士団長もこれでは何かあったらまずいと危険視したのか先ほど対応してくれたモーラさんのように他の団からも派遣があったらしい。因みにこの派遣についても一悶着あっただとかなかっただとか。
当然貴族の出だ、他の騎士団所属のしごかれてきた面子とは勝手が違う。全てが、とまでは言わないが甘やかされて育ってきた者が殆どだろう。そこに加えて貴族の関係値もあり、ゴードン団長も他家のご子息に強く言えず、結果として自身の鍛錬を怠り、規律を守れず、集団戦の知識もない、といった練度の低い団体の完成。という背景があったとの事だ。しかしマールさん騎士団の内情に詳しいな…? 王国ルートでもここまでの情報は推測にはあったが
そんな言うまでもない不安要素が数多く漂う中、あっけないと言うほどにあっさりと、戦いの火蓋は切られたのだった。
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「おい、あんたがマールさんか? ゴードン団長からの伝達だ。」
教団の天幕に特に事前の声掛けもなくずかずかと入場してきた、鎧の着込み方が雑な男がそう告げる。
男の背後には失礼だと苦言を言いながらこちらに申し訳なさそうな顔をする白ローブ姿の女性。教団に属する人なのだろう、おおかたここまで不躾な態度で通過してきてしまったこの騎士を止められなかった事に申し訳なく思っているのだろうと読み取れた。
「失礼。どちら様でしょうか? こちらがクレア教団の天幕と知っての態度ですか?」
当然マールさんも咎める。明らかに態度がこちらを舐め腐っているからだ。先ほど聞いた話から察するにこの男も第3騎士団所属なのだろうか?
「はぁ〜… めんどくせぇなぁ。 カーマセ家4男のドグだ。ッンで知らねぇんだよ学がねぇのか?」
異様と取れるほどに家名を主張しながら話す男。何故か所属騎士団ではなく家名を名乗っているが予想通り第3騎士団所属なのだろう。
「ではドグ様。こちらの天幕は教団の本陣であり騎士団が構える拠点群の中とはいえ教団のエリア、言うならば聖国の領土にあたります。その事をご存知の上での振る舞いという事で相違ないですか? …ふふっ、学がないのは何方でしょうね?」
ここぞと煽るマールさんの言うとおり、このAVOの世界にも領土が存在し、現代社会における大使館のように領域内は他国という扱いになり、ここ日本エリアに点在するクレア教団の教会内も聖国として扱われている。 この口ぶりからして今俺達がいるこの場所も聖国扱いが認められているのだろう。
「は、はぁ!? 知らねぇよ! ッチ… デケェ顔しやがって。 …ゴードン団長からの伝達d… デス。【我々騎士団は敵本隊と開戦、後方にて支援に回られたし。】 だとよ。ちゃぁんと伝えたかんな。」
「…んな!? 勝手に始めたと言うのですか!? 統率は取れているのですか!?」
「ンなもん知らねえよ始まっちまったもんはしゃあねぇだろ? ちゃんと伝えたからな!」
そう言って挨拶もせずにガシャガシャと鎧を鳴らしながら退場していくドグ。
「なんて事…。 ふぅ。皆様、お話し合いはここまででどうやら動かなくては行けなくなったようです。私と共に支援をお願いできますか?」
NOと言えるわけもなく、俺達は他の教団員に的確な指示を出しつつ先導するマールさんに着いて戦場の後方、支援物資や救護天幕の集まる箇所へと赴くのであった。
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