第24話 状況の把握
「えーっと? なぜこちらに?」
以前街で冒険者ギルドまで案内し、フレンド登録までしたNPCの女性。クレア教団に籍を置くというマールさんだった。クレア教団のしがない信者と名乗りながら上司という言葉や、くろいゴブリンについて多少知っていた以上、教会関係者だとは察していたが、まさか騎士団と関わりがある程度に位があるとは思わなかった。
マールさんの登場に驚いた理由はこれだけではない。それはこの場にクレア教団信者がいる、という構図である。
このAVOにおける王国騎士とクレア教団信者、いや、王国と聖国との関係は綺麗さっぱり良好とは言い難い現状がある。というのも、ここ日本エリアに本部のある王国は大陸エリアにある帝国と仲がよろしくない。また聖国とも帝国は仲が悪い状況にある。
では敵の敵は味方なのでは?と思うかもしれない。しかし政治はそう甘くないらしく、色々なしがらみがあるようだ。その辺の詳細は王国ルートをメインシナリオに据えて進めていけば分かるらしいが、そういったゲーム的背景に微塵も興味がなかった俺はスルーした。結果として仲の悪い理由はわかっていない。
また日本エリアのいち街であるオーレンが危機に晒されているとはいえ、アメリカエリアに本部を置く聖国がお節介で助けに入るという、外部の者に助けを乞う事になる状況を甘んじて受け入れられるほど騎士達のプライドも低くない。
かくして、そういった政治的背景の他にも大小様々な理由もあり、王国騎士団のキャンプにクレア教団がいる。という構図にも驚いてしまった、というのが今トーマが置かれている状況だ。
「トーマ様も多少はお話を耳に挟んだからこちらに来られたとは思いますが、実は本件は私達クレア教団から王国に対して依頼を出したものなのです。」
なるほど、【王国→聖国】ではなく【クレア教団日本支部→王国】といった構図なのだろうか。それならまだ理解はできる。
その後詳しく聞くに、今回の討伐対象である魔物の群れを統べる者はゴブリンキングの変異種だということが判明した。
なんでも通常個体の能力に怪力や鱗のような肌、果ては魔法を使うといった、何故かいくつかの別種族の魔物の特徴が散見されたという話である。
またゴブリンか…と変にゴブリンとの縁を疑ったものであるが、それは
もう少し詳細な話を聞こうと声を出したその時、どこかおろおろとしながら俺達の会話を聞いていた新人騎士、モーラが声を上げる。
「あ、あの!マール様! あまり外部の者にぺらぺらと内情を話すと言うのは如何なものかと思われますが!」
あ、まずったか…?
あまりにも親しげに話してくれるものだからこのまま勢いで参加できるんじゃないかと期待してしまっていたがそう甘くはないらしい。
「あら? トーマ様ほどの力の持ち主が外部の者…? もしやトーマ様紹介状をお持ちでないのですか?」
「彼女の言う通りで噂を聞きつけそのまま現地に来てしまった次第でして…」
「ふーむ、 これは損失ですね。…分かりました。私が一肌脱ぎましょうっ♪」
「何をされる気ですか!?」
「そりゃあもちろん、私の推薦があればトーマ様もご参加いただけるでしょう?」
棚からぼたもちとはこういう状況を言うのだろうか。
それで良いのかと俺の推薦に異議があったモーラの言葉を巧みに躱し、あれやこれやといううちに気がつくと俺の手元には推薦状が渡されていた。
「これでトーマ様も参加していただけますね♪ よかったよかった〜。」
と随分と嬉しそうに1人一件落着と言わんばかりな顔をしているマールさん。その横には納得させられた… いや、表情を見るに納得はしていないだろう、言いくるめられてしまったモーラが控えていた。
しかし1点腑に落ちない。
そのマールさんの俺に対する信頼はどこからくるものなのだろうか。
街を案内したから? 否、それだけでゴブリンキングの、それも変異種のいるような戦場に送り出しはしないだろう。先ほど会話の中にあった損失という言葉も気になっていた。
「マールさん、ひとついいですか?」
「ひとつでもふたつでもみっつでも。 トーマさんが納得いただけるまで私マールは付き合いますよ、?」
「えーっと… その信頼は何処から来ているのでしょう、?」
「くろいゴブリン。トーマさん御一行でしょう?」
…なるほど、全てに納得が行く。
そもそもクエストの出元がクレア教団だったのだろう。であればクエストの報酬が聖国由来の現在日本エリアで手に入りづらい聖教本というのも、マールさんがくろいゴブリンについて知っているのも、俺がその件に関わっている事を知っているのも全てに辻褄が合うのだ。
くろいゴブリンのような特殊個体を
この川の流れのような出来事の連続にチェーンクエストの存在が脳裏にちらつく。
くろいゴブリンと関わっていなければ、討伐できていなければ今回マールさんとの関係値は築けておらず、それこそ門前払いを喰らっていたことだろう。これもまたAVO、ひいてはゲームの根幹とも言えるかもしれない、フラグを立てておかないと発生しないクエストだったということだ。
予想していなかったこれまでの行動の連鎖に少しの感動と感謝をしていると、そういえば。とマールさんが話を続けた。
「それはそれとしてトーマ様? そんな堅苦しい話し方はやめていただけますと…。」
…なんのフラグだ?
そうこれもチェーンの一環なのか…?
「こ、こうでいいか?」
「はいっ! ありがとうございますっ♪」
よく分からないが何かのフラグが立った音がした(気がする)トーマなのであった。
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