第23話 軍と群
イベント2日目である土曜日。
合流予定の時刻までまだかなり時間はあるが、情報収集をかねて少し早めに動き出した。
ログインしていない間にどれだけ遅れを取っただろうか、まだ巻き返せる範疇なのだろうか、結果に期待した末に落ち込むよりは最初から期待していない所に朗報が来る方が精神的にも良いだろうと、上位陣に大きく離されていませんように、なんて控えめに願いながらランキングページのウィンドウを開く。
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エリアイベント 2日目
1位 チーム プリーデ
2位 チーム おもちたまご
3位 チーム ジーク
4位 チーム もののふざむらい
5位 チーム トーマ
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…5位に残っている?
二度見、三度見としても見間違いではなく5位にトーマの名があった。
確かに昨日解散した際にまだ動き足りないから、とダーシュが続ける宣言をしていた… 彼が何時に切り上げたかは分からないが多少のポイントは増えているだろう。
しかし、だからと言って5位にしがみつけるとは考えづらい。各チームの取得ポイント数は開示されない為、どの程度の差かは分からないがヴォルタートルの独占ポイントが予想以上に多かった、もしくはダーシュがめちゃくちゃ頑張った、後は集合時刻までに俺のように早めにログインして頑張ってくれた誰かがいた、のどれかが理由だと予想できるだろう。
無理をしていなければ良いが… と少し心配になりながら、俺も俺にできる事をしよう。と行動を開始した。
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まずは今日これから関わる事になるだろう、昨日喫茶店のマスターからハルが得てくれた情報についてもう少し詳しく知る必要があるだろう。
昨日ハルから聞いた段階での内容は、
ヴォルタートルとの戦場であり、昨日メインの狩場であったオーレンの平原から、オーレンの街を挟んでちょうど逆側、こちらも少しひらけてはいるが、平原と異なり緑が少ない。少し荒廃の進んでいる砂漠2〜3歩手前な、昔ここで大きな戦いがありそこで流れた人や魔物の血が大地を穢したとかなんとか、という
その荒野になんでも群れを率い、指揮を取るというモンスターが発生しているというものだ。
ここまでは別になんの特殊性もないように聞こえる。ウルフ系モンスターなど統率を取るモンスターなど稀でもなんでもない話であり、ここまで大々的な話題になるような対象でもないのだ。
では何故こんな話になっているのか。
-その群れが10や20では利かない、4桁にもなるだろう大群であったからである。
もしこれが創作や盛った話、ほら吹きの戯言でなく本当の話であれば一大事の一言では済まされない、オーレンの街にも危機が及ぶだろう。
しかし今俺が街の様子を伺う限り、そんな未曾有の事態!というような危機感といったものはなく、少しピリピリしているような雰囲気はあるものの平和の一言で言い表せる街並みで、人々は毎日そこにあると信じているであろう日常を送っていた。
そこに違和感を覚え、冗談めかして教えてくれるマスターも相まって情報の出元や真偽をハルは疑ったそうだ。
しかしこれ以上の情報は得られず、結果として昨日の曖昧な報告となったというのが事の顛末である。
何もあてがないよりは、と今日の目的は荒野になったが、もし本当に1000や2000といった大群が相手となった場合、いくら対多数を得意としているダーシュがいたとしてどう転ぶかわからない。というのが正直な現状である。
そこでまずはひと当て、ではないが行き当たりばったりよりはマシだろう、と集合時刻まで余裕もある事だし、現地を見にオーレンの荒野まで行くことにした。
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「…えーっと? なぜこちらに?」
予想だにしない人物の出現に思わず声が出る。
なぜこんなに戸惑っているかというと少々時は遡り。
街を出ん、とオーレンの街から荒野に繋がる門を越えるかどうかという所。何か奥に見えるな?とそれを伺いながら通ろうという俺に門番が話しかけてきた。
「おっ。にぃちゃんも志願組か? この街をよろしく頼むぜ。」
「志願組?」
「…おいおい、知らねえで進もうとしてたのか? もうここから少し見えるだろ、この先には危機に対応するべく王国騎士サマがたが臨時拠点を構えていて、傭兵や冒険者を志願兵として募集してんだよ。てっきりそれ目的の勇気あるにぃちゃんかと思って通そうとしちまった。危ねえから辞めときな?」
どうやらビンゴのようだ、ここで追い返される訳には行かないと話を合わせる。
「な、なんだ。 その事を志願組って言ってたのか! もちろんそのつもりで駆けつけてきたんだよ、少しでも力になりたい、ってね!」
「なぁんだびっくりさせんなよ! よっしゃ!俺は門番の仕事があって参じれないが任せたぜ!」
俺の背中をばんばんと叩いて励ましてくれる門番に礼を言い、王国騎士が構えるというベースキャンプへと俺は足を進めた。
目的の場所へと近づくにつれその何かだった物がテントの群れであったことを理解する。
迫る戦いの準備の為忙しいのだろう、ばたばたと鎧を着た若い騎士達が走り回るのも見て取れた。
その中の1人がこちらに気づいたのか、こちらへと向かって来てくれる。
「失礼。私は王国第2騎士団所属、モーラと申す者! 冒険者様と見受けられますが志願されての訪問でありましょうか!」
キラキラと日の光を反射する鎧は輝かしく、それは丁寧に整備されている、もしくは配備されてまだ間もない鎧である事を現しているかのような新品さに見える。そんな装備を見に纏ったモーラと名乗る若い騎士の女性に話しかけられた。
「はい、冒険者のトーマと言います、是非こちらでお力になれればと思いまして。」
「ご協力感謝致します! 紹介状等はお持ちでしょうか!」
「いや、特にそういう話はないんですけど… まずかったです…?」
「それは… うーんと… どうしましょうか…」
誰かからの紹介か、何処かで申請をしなくてはいけなかったのだろうか。喫茶店のマスターとの会話だけではフラグを立て切れていなかった様で難しい顔をされてしまった。門前払いか…?
「如何されましたか?」
対応に困る騎士の背後から何者かが現れる。
「あら? いつぞやの。その節はお世話になりましたねっ。」
にっこりと微笑みを浮かべながら、るんっ、と語尾をあげ話しかけてきた彼女に俺は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
先日、街で迷子になっていた女性が何故かそこには立っていた。
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