第16話 火山
所変わりトーマ班。
もう時期始まってから1時間半が経過する。すぐに戻れるようにそろそろ集合場所である街寄りで狩りをするべきだろうと2人のメンバーに声をかけようかと思ったその時、視界の端に大きな何かが落ちてくるのが見え、少しの誤差を伴い強風と地震、そしてメッセージが2件入った。
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ダーシュ:センパイ、緊急事態!
ダーシュ:【座標】
ダーシュ:援護頼んます!
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ダーシュには珍しいシンプルな救援要請。
これはかなり急を要する物と判断するのには容易であった。
「ハル! ウカ! あっちの2人から救援要請!」
「運営さんからのメールにもボス出現と書いてました!」
「ん。向かう。」
2人と情報を共有し、落ちてきた山の近くであろうダーシュの示す座標へと向かう。
移動中、ハルから話を聞くに運営からのメッセージには高ポイントのイベントアイテムを落とすフィールドモンスターが出現したとの事だった。討伐貢献度に応じてポイントが個々人に支給されるらしい。
イベント内容的にも、2人の危機としても、必ず向かう必要があった。
座標のポイントまでざっと5分。
この一帯で狩りをしていた他のプレイヤーも山に集まってきている。ここで死亡ペナルティはイベント的にも手痛い時間のロスに繋がるだろう。
なんとか耐えていてくれ…。
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side ダーシュ
センパイに一報を入れたのち山と向き合う。
きっとすぐ動いてくれるだろう、5分も耐えれば何とかなるはずだ。
「俺は小型専門なんだけどなあ…」
ボヤきながらまずは敵を知るべき、と少し距離を取りつつ遠巻きから観察する。
敵は山のような亀。所々赤黒く脈打っているところから火山を連想できるような甲羅を背負い、その山から生える巨木のような四肢。
そして太古の昔、地球上に居たとされる恐竜を更にイカつくしたような竜の顔が、俺達冒険者を見下ろしていた。
赤黒く脈打つ見た目、そして石炭や鉱石を集めるイベント内容から予想するに敵は火属性、と考える。
センパイが到着するまで遠距離武器を背負ってアメちゃんを守り切る…骨は折れるがやるしかない。
できることなら広域ブレスとかやめて欲しいんだけどなぁ〜?
なんて考えてしまったのがフラグだったかもしれない。亀の甲羅の赤黒く脈打っていた線が灼熱のマグマを連想させるような熱い赤へと変わっていく。
何かを貯めているような動作に合わせて亀の口元に、体内に溜め切れていないだろう火炎が漏れ吹いていた。
「ブレス警戒!」
柄にもなく叫びながらアメちゃんを連れてなるべく遠くへと離脱する。
出来ることなら他のプレイヤーにもこの声が届いている事を願って。
本来であれば、ランキングを左右するポイントを大量獲得できるチャンスだ、なるべく分配先は少なく、少人数で分けた方が当然良い。
が、この規模だ。討伐が難航する事など容易に想像できる。いや、先輩なら時間を掛ければソロでも討伐できてしまうのではないかと期待もあるが、こいつに時間を割くくらいならさっさと討伐して小物を狩っていた方が最終的にはプラスに落ち着くだろう。
イベントに参加しているのはこの狩場にいるプレイヤーだけではないのだ。ここでもたつけば他の狩場のプレイヤーに大差で置いて行かれてしまう。
ダメージソースをなるべく減らしたくない。という意思で叫んでいた。
しかし、そんな想いも熱量に掻き消される。
俺達は仲間ではない。同じ戦場とはいえポイントを稼ぎ競い合う敵なのだ。
ここで大量獲得しておけば後が楽だ、ランキングに顔を出せる、と欲を出した一部のプレイヤーが警告を無視して接近していく。
『Grrrrrrrrrrrrr!』
腹に響くような重音な咆哮と共に、亀の口から炎のブレスが地面に向かって放たれた。
高火力の炎に序盤の防具やステータスが耐え切れるはずもなく、無謀にも接近していたプレイヤーを焼き殺す。
リスポーンまでの時間は確実に時間のロスだろう、リスポーンした時点でこのボスは討伐されているだろうし、ここで接近の判断をするようなプレイヤーがここから巻き返すような術を持つとは思いがけない幸運に恵まれない限り思えない。
彼らがランキングに乗る夢はここで潰えたのだ。
…そんな彼らに同情している場合ではないと思考を引き戻す。今心配すべくはアメちゃん、次点で俺だ。次焼き焦がされるのは俺かもしれない。あの熱量にはそれだけの火力があった。
このままではジリ貧だと遠距離から攻撃を試みる。アメちゃんには悪いがここで接近は悪手も悪手、大悪手だ。せめてセンパイの到着を待ちたい。
アメちゃんにその旨を伝えつつ、遠距離から狙撃する。魔法の効果を付与しているためこの距離でも一定のダメージは見込めるはずだ、通用すると願いたいが…。
あわよくば視界を奪いたい、と顔目掛けて弓を射る。
こちらの意図を察してか、目に届く前に顔を振られ視界を奪うことは叶わなかったが、ただ射った矢ではない。しっかりと頬に突き刺さっていた。
ダメージが通らないというほどではないようだ、十分討伐可能圏内と言えよう。
矢が通った事を確認したからか、先ほどのブレスで消沈しかけていた闘志が他のプレイヤーにも宿る。どこかのパーティが掛け声と共に接近していったのを皮切りに、複数のパーティが行動に移った。
どうやらブレスはそう簡単に吐けるものではないようで、足元にプレイヤーが群がっていても嫌な顔をするだけで攻撃してこない。
もしやブレスだけの攻撃しか持ち合わせておらず、タイミングを見てちまちま削るタイプのボスなんじゃないか?と誰かがパーティのメンバーと相談し始めた辺り、つまり誰もが亀をパターンを掴めば簡単に倒せるボスだと舐めはじめた辺りで異変は起こった。
『Graaaaaaaaaa!』
咆哮。
効いてんなぁwと攻撃を続ける他プレイヤーを尻目に、少しの違和感と虫の知らせを直感で感じ取った俺は、削りに参加していたアメちゃんを連れて撤退に動く。
まだ脈の色も変化していない。特段見る限り亀の容姿に変化はない。それでも。
何もなければそれでいい、杞憂どんとこいだ。
結果として、予感は的中した。
俺達と少しのパーティを残し、接近し削り続けていたプレイヤーは瞬きの間に全滅していた。
予兆なく亀の足元に起きた大爆発によって。
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