第17話 登頂
side ???
『このタイミングでヴォルタートル… あちらもいい加減な妨害をしてきますね…?』
モニターを眺めながら呟く彼女は、どこか物憂げそうであった。
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side トーマ
既に視界に入っていたようなサイズの敵だ。座標などなくとも応援には向かえた…はずだった。
アメ班と俺達トーマ班の間にこのばかデカ亀さえいなければ。
「どーすっかなこれ。」
わざわざ回り道してるほどの余裕があるとは思えない。かといってこのまま2班に別れているとダーシュが本領を発揮できないのも事実だった。
アプデ前のプレイスタイルを鑑みるに、そもそもがこんな大型を想定しているビルドをしていない事だろう、今現時点でかなりの苦戦を強いられていると予想できる。
…よし。と一息入れパーティに軽く指示を出す。
「ウカ、遠回りになるがダーシュの援護をしてやって欲しい。」
「ん。いてくる。」
「ハルは接近しすぎず遠距離からだな、さっきみたいにブレスを撃ってくるかもしれないからすぐに撤退できる距離を模索してくれ。」
「分かりました! あの、先輩は…?」
「俺は… ちょっと登山家にでもなってくるよ。」
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side 天王洲アメ
>でっか…
>何あの大爆発!
>すまん今のでやられた…
>いや流石に変だっただろ突っ込むなよ
>耳壊れる
>アメちゃん逃げない!?
>アメちゃーん!
>なんか視聴者数増えてない?
>なんか人多い
>逃げても良いんじゃないかな!
>ダーシュなんとかしろよ
>亀が出たって話題になってるから見に来た野次馬かも
>接近難しいよね…
>なんもしてねーなこの人w
>雨民じゃない人も流れてきてるのか…
>なんでいるのー?
(どうしよう。ダーシュさん思ったように動けてないよね…)
事前に聞いていた話では彼のプレイスタイルは小型専門。対多数を想定した所謂【無双ゲーム】を得意としている、と話を聞いていた。
今、ダーシュさんが置かれている戦場は火山と見間違うかの巨大な亀に対して私というお荷物を背に守りながらの戦闘だ、先ほど敵の視力を奪いに行ったのもそれが理由だろう。
私の武器は片手剣にバックラー、という小型の盾を装備した近接バランスタイプだ。トーマさんと別れた後に色々考えてここに行き着いた。
しかしこれでは現状を打開するには何もかも足りない。近づかないと攻撃は当たらないし当てたところできっと雀の涙だ、下手に近づいてダーシュさんの邪魔をするだけになってしまう。
さっきまでは私のリスナーさんもこの戦場にいて協力的… いや、良いところを見せようとかなり奮闘していてくれたが、全て先ほどの大爆発に飲み込まれ撤退してしまった。時間が経つにつれ選択肢が減っていく。取れる行動が消えていく。
ここまで…なんだろうか。
「アメ。 お待たせ。」
「んぇぇ!?」
思考の海に沈んでいた所に背後から思いもよらない声がして思いっきり声を出してしまった。
「なんだ、ウカっちぢゃん! 驚かさないでよ!」
「警戒が、足りない…よ?」
気配を消して背後に迫る相手に気付けるほど私は人間を辞めていない。
「今のに気づくなんてムリムリ〜… それよりトーマさんも来てくれてんの!?」
「トーマはトーマでやることある。 私達にもある。」
「えっ、私にも出来ることがあるの…?」
この言葉にまた不意をつかれる。
何もできないと思っていた。ただのお荷物だと思っていた。
なんとも言えない無力感に押しつぶされそうになっていた今の私を、キャラを忘れて素で声を出してしまうほどに驚かせるには十分な言葉だった。
>伏せられてたパーティ組んだ人?
>猫耳かわいい!
>獣人良いなぁ… 俺もやっぱりやろうかなAVO
>ウカっちげきかわ
>お前ら可愛いのは分かるが迷惑になる事すんなよ?
>前案内してくれた人のパーティメンバーでしょ、見向きもされないよ
>んな事より今なんて言った!?
>なんとかなるの!?
>無理じゃね
>無謀すぎwww
>他の人が挑んでんだからお前も行けば?w
>荒れてきてるなぁ
>アメちゃんコメント無視して良いから!
>アメちゃん無理しなくて良いよ!
>逃げられる時に逃げよう
「もち。じゃなきゃ声かけない。」
「…分かった! 何したら良い!?」
詳細なんて後でいい。私はやる。
このまま何もできないお荷物なんて嫌だ。
せっかくパーティを組んでもらってるんだ、配信者としては失格だけどこれでデスペナルティが付いたってやって見せる。
リスナーさんには悪いから復帰までの間雑談配信かな…?
「トーマが山を登るから。その手伝い。」
「山登りの手伝いね! りょーっかい!」
…山登り?
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side ???
「俺は… ちょっと登山家にでもなってくるよ。」
『フハッ! フハハハハハハハハ! 面白い事を言うやつも居たものだな!』
星の数ほどあるラジオの一つから流れ聴こえてくるは本来であれば現実を何も理解していない阿呆の戯言、しかしこの阿呆には実績があった。無謀を勇気に書き換え、成し得るやもしれない実力があったのだ。
如何にこの戯言を現実の物にするのか、興味の尽きない対象を見つけたこの者にとって、おもちゃ足り得る存在になるのか、はたまた己の首に届かん刃足り得るのか。今はまだ誰にも… 神にすら知り得なかった。
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