第14話 合わせと見知り
時は少し遡り、
きたるエリアイベント初日の朝。
集合時間は17:30である為、タスクは早めに終わらせておくべきだろうとせっせと動いていた。とは言っても無理のない仕事量だ、早めにこなすのも難しくなく無事時間には始められそうである。
途中
全員で楽しみたいから無理せずにログインしてくれ、と返信しなるべく明日以降も楽に動けるようにと時間まで仕事を潰していくのであった。
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人間は集中するといつも以上の実力を発揮できるとはよく言ったもので、なんかめちゃくちゃ進んだ。そんなにAVOやりたかったんだろうかと自分でもドン引きの内容だ、集中しすぎて昼すら食べていない。
健康に悪いとは自覚しつつも少し早いが昼夕2食分を込みで栄養を摂取し、シャワーを済ませる。その時点で大体17時だ。
今回は昨日と違って森の中ではないためもうログインしてしまってもいいだろう。また遅刻しないようにしないとと思いながらAVOにログインする。
さーてどうしようかなと待ち合わせまでの時間の潰し方を考えていると、背後から声をかけられる。
「失礼、そこの方。少しお時間よろしいでしょうか?」
振り返るとそこに居たのは白いローブを着た若めの女性、日本における高校生くらいだろうか? ゲーム的に例えるならばヒーラーとか聖女とか、感覚で言えばそんなビジュアルをしていた。
「えーっと? どうしました?」
「私はクレア教団のしがない信者なのですが、道に迷ってしまったのです…」
クレア教団。
この世界、AVOにおける創造神。…よーするに運営様であるクレアトールを信仰の対象としている宗教団体である。
教団、と言ってもその規模は国家クラスであり、昨日手に入れた【聖教本入門】を出している聖国の定める主教だ。つまるところ本ゲームにおける最大手の宗教団体、と言ったところか。
自由を売りにしているAVO、当然プレイヤーも入信することができる。が、現在この日本エリアにて既に入信したプレイヤーが彷徨いているとは考えにくい。よって目の前にいるのはNPCという予想が容易に立てられた。
「なるほど。どちらまででしょう?」
「冒険者ギルドのオーレン支部なのですが…」
そのくらいであれば予定の時間内で余裕の案内ができるだろう。
「案内できますよ。行きましょうか?」
と先導するのであった。
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道中、世間話をしながら道を進む。
この女性、【マール】さんはどうやら仕事を上司に任されこの街に訪れていたらしく、その内容が俺達にも関係があるようだった。
「くろいゴブリン、ですか。」
「はい。秘匿されている訳ではないので明かせるのですが、なにやらそこらの魔物とは色々と違っているようでして。 こちらのオーレンにて報告がされたのでお話を伺いに参った次第なのです。」
報告した当人ではあるのだがここで首を突っ込むと間違いなく待ち合わせの時間には遅れてしまう。首を出そうとしてくる好奇心をなんとか抑え込み、さも何も知らない風を装い案内を続けた。
しかしなるほど、これで聖教本に繋がる訳か。黒ゴブリンの話が簡単に途切れるようなフラグではないと思っていたが、どうやらメインシナリオに関わってくるような起因になるかもしれない。
どう絡んでくるのか今から楽しみである。
話しながら歩いていると早いもので、無事マールさんを冒険者ギルド前まで送り届けることができた。しかし何かさせてほしいと言う彼女に気にするなと断っていたら、ぜひご連絡先を、と言われた時は驚いたものである。なんとNPCとフレンド登録をする事ができるようだ。フレンドとはこれ如何に案件ではあるが、もしかしたら今後メッセージから個別でクエスト。なんて事があるかもしれない。なんて良い新要素なんだと感動しつつ、プレイヤーとNPCを見分ける方法が減った事にも気づいた。何度も言うが自由だ。自由が売り故にプレイヤーがNPC同様市民として活動していようと、敵対して襲いかかってこようと、フレンドとして一緒に冒険に出ようとどちらか区別がつかない可能性がある。
今回、案内をしたマールさんは流石に入信が早すぎる為NPCだと分かるが、今後プレイヤーとNPCの境目はぼやけていくのだろうなとぼんやり考える。
しかしどちらだろうと接し方は変わらないなと考えは行き着いた。プレイヤーに失礼な事を言うつもりはないしPKなんて非道徳な事もする気はない。またNPCだからといって失礼なことを言えば不利益を被るのは自分なのだ。結局一緒なのである。
またひとつ新要素を知れて良かったと、人助けを終え集合場所へと向かうトーマであった。
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集合時刻10分前。
街の中央から少し外れて、人通りも控えめであり顔合わせにはちょうどいいだろうとこの場所を選んだ。
少し早かったかなと思考が行き着く前に猫耳が視界に入る。どうやら今日も1番にはなれなかったようだ。
「おはようウカ。 今日も早いな?」
「ん、トーマ。 たまたま、だよ?」
「ハルは用事があって18時くらいに来るそうだ、顔合わせは2人でやるぞ。」
「りょー。」
挨拶もそこそこに2人で時間を待つ。
前からの仲だからだろうか、そこに静寂があっても気まずさはなく、むしろ心地いいものがあった。
「トーマさーん! お待たせー!」
暫くして約束の時間になったのか、アメさんがぱたぱたと走ってくる。
「センパイ!お久しぶりっス!」
彼がアシスタントに選ばれた人だろうか。しかし俺を先輩と…。 この喋り方には聞き覚えがあった、忘れもしない。
「その呼び方喋り方… ヤイチか?」
「覚えててくれたんすか!? よかったっス!」
間違いなくヤイチだ。
ヤイチは転生前、レイド組に属していた言うならば前線組の1人。良くパーティも組んでいた。終盤は飽きたのかなんなのか、しばらく見なかったが。 何が彼の琴線に触れたのかわからないが、よく俺の後ろをついて来ていた気がする。
「ヤイチ、 うるさい。」
「その喋り方はタマっちっすか!? センパイと組んでるの羨ましいっすね…」
当然ウカとも顔見知りである。
「え、ダーシュさんお知り合いだったんですか!?」
そんな関係値を当然知らないアメさんは大困惑していた。アプデ前の知り合いだと伝えると納得したのかほぇーと納得していたが。
しかしまた顔見知りか、何故こうも集まってくるのか。何か作為的な、運命的なものを感じるが… 運営側が手引きしているとはなかなか考えづらい。運が良かった…という訳でもないがたまたまだろうとその疑惑を飲み込んだ。
「まぁヤイチ…、 ダーシュなら顔見知りだし人となりもそれなりに知ってる。 俺はパーティに異議はないよ。」
「ん。トーマがいいならいい。」
「あざっす! イベント頑張るっス!」
「見切り発車の勢いで決めちゃったのでマネさんにも怒られちゃったんですけど… 常識ある良い人が勝ち抜いてくれてよかったです。」
一応受け付けた時点でスタッフによるある程度の面接があり、それを抜けた者だけがトーナメントに参加できたらしい。昨日の今日で決定戦が決まったというのによくやるものだ、と素直に感心した。
余談だが乱入してきた彼は面接を突破できなかったらしい。まぁあれだけの騒ぎを起こしていれば順当ではある。
そうして雑談しているとハルが走って来た、どうやら開始前に間に合ったようだ。
ダーシュの変な癖が出なければいいが…
「先輩! お待たせしましたー!」
「…は? センパイこいつ誰っすか?」
「何この人… 先輩もしかしてこの人が? …あの!先輩呼びは私 だ けで十分です!」
「そっくりそのまま返してやるよ! センパイ! 俺の方が後輩に相応しいっスよね!?」
「ヤイチ。 うるさい。」
「ウカっち! これはアイデンティティに関わる問題なの! てか前の名前で呼ぶなよ!」
「なんか楽しくなりそうです…ね?」
…こんなパーティで大丈夫だろうか?
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