第13話 オーレンの街

ギルドにクエストの報告をするのは後回しにして、まずはオーレンの街を楽しもうと俺達は動き出した。



「先輩! どこから回ります!?」


「トーマ。どこ行く、?」


と、声のトーンからめちゃくちゃテンションが振り切れている事が察せるハルさんと、

声のトーンからは分からないが尻尾の機嫌からしてテンション振り切れてるウカさん。


振り回されそうな予感がしているがあながちハズレということはなさそうだ。というか振り回されるなこれ。納品物を見てあれもこれもと追加オーダーをしてくる発注者のよう…は2人に失礼か。


楽しそうでなによりである。



「せっかくだし2人の気になるところに行こうか、笑」


「じゃあじゃあ! 屋台を見て回りたいです!」


「ん。そのあと道具屋見る。」


街巡りスタートだ。



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まずは食巡り!ということで俺達は屋台や露店の多く集まるメインストリートへとやって来ていた。


人通りの多いこのメインストリートには、野菜や果物、肉や魚といった市民向けの店から、クラムの街で食べたような串焼きから、何か麺を炒めたようなものを出す店まで、多種多様な食べ物を売る冒険者や観光者向けの出店と、見渡す限り所狭しとに溢れていた。俺は行ったことがないが海外の市場なんかはこんな感じなんだろうか。


とりあえず目についた店舗から回ってみていると、とある店舗の前で声が上がる。



「せ、先輩! こ、これめちゃくちゃ美味しそうです…!」


そこにいたのは宝石のようにキラキラ輝く赤い果実が混じったアイスを眺める、これまたキラキラと目を輝かせていたハルだった。



「お嬢ちゃんお目が高いね! なかなか出回らないアップジュエリのアイスだよ!」


アイス屋の店主もハルの言葉に気を良くしたのか声をかけて来た。



アップジュエリ。

語感からして宝石のように輝くりんご…だろうか、俺自身聞いたことがないためアップデート要素だろうか?



「ウカはアップジュエリ知ってたか?」


「ん。店主の言う通り。流通数の少ない高級品。」


…どうやら俺が知らないだけのにわかだったようだ。


まだまだ俺にも知らない要素があるようだ、どれだけ奥が深いというのだAVO…! と一瞬思ったが、思い返してみると戦闘しかしていない。そりゃ知らなくても当然か、と自問自答を終える。



「じゃあ、人数分お願いします。」


「はいよ、1個1500sだけど大丈夫かい?」


流通数が少ないからかかなり割高な金額だ。現代日本で言えばアイス1個1500円みたいなものである。

かといって転生ボーナスで初期アイテムには恵まれているため渋るほどでもないだろう。



「これで。」


と支払いを済ませる。


「え、私も払いますよ?」


「いいからいいから、こういう時は出すもんだよ」


カッコつけても格好がつかない俺だ、下手なことを言ってボロが出るくらいならば言わないに尽きる。



「もー… ありがとうございます先輩。嬉しいですっ!」


「トーマありがと。」


いつも世話になっているのだ、このくらいで喜んでもらえるのなら安い物である。



「面白い食感ですね? ファンタジーだ〜!」


ハルの感想通りアップジュエリはしゃりしゃりパリパリと本物のりんごとは少し違った食感がして俺自身めちゃくちゃ美味しいと感じた、クリムの串焼きとは雲泥である。



「んま。」


とシンプルな感想だったウカも尻尾の振りが限界突破していた。



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アイスを食べ終え次の目的地、ウカの望む道具屋を物色しに行く。


ここも目利きなどできないので本職にお任せ、とウカの先導の元メインストリートから少し外れ、商業区の中でも冒険者をメイン層に狙った店の多く集まる個所へとやって来ていた。


クリムの街より王国に近く、流通が盛んなのもあって店舗数も多い。ウカがいなければ直感で適当な店を選んでしまっていたことだろう。実際1週目の時も1番人が集まる店を脳死で選んでいた。


ウカ先生はサクサクと進んでいく。俺が選んだ店は脇目に見る程度でスルーされたのであまり良くない店だったのだろう、悲しい。



「ん。ここ。」


とウカの足がある店の前で止まった。

ご老人が店主を務めている店で多くの道具を取り扱っているらしい、かなりの品数を取り揃えている印象の店だった。



「見てていい?」


「もちろん、ウカの好きなようにしてくれ。」

「私もついてっていい?」


「ん。ありがとトーマ。 もち。」



転生前から道具に関わり続けていたウカ。道具類を物色するのも好きなのだろうか?



奥の方へ物色しに行った女性陣を眺めそう考えながら俺も手近な位置にあったランタン類を見ていると、メッセージの通知が入った。アメさんからだ。


明日には街到着が間に合うので顔合わせの時間を決めたいとのことだった。


イベントが始まってからだと出鼻を挫かれるし、せっかくやる気になっている2人にもアメさんの配信を待つ視聴者達にも水を差すだろう。


開始は18時、という事で30分もあれば大丈夫かな、とハル、ウカ、そしてアメさんに都合を聞く。


平日ということもあり難しい人もいるかと思ったが、どうやら全員OKとの事だ。


ならば。と明日の集合時間が17時半の少し早めに決まった。



その後俺もウカの方について行き一緒に物色をして過ごした。

普段シンプルな受け答えしかしないウカはどうやら好きな事になると少し饒舌になるらしく、明らかに話す言葉が増えていた。説明するのも好きなのだろう。


ウカも楽しめているようで嬉しく思う。


色々と購入していたウカが「これはいる。絶対、絶対いる。」とかなりの熱量で俺に推して来た、衝撃を与えると火花を散らし火炎が発生する【火炎玉】を購入。


俺達は店主に挨拶を済ませ本日最後の目的地へと向かうのであった。



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「こんにちは! ようこそ冒険者ギルド オーレン支部へ!」


そんなこんなで街巡りを終え、本来の予定であった冒険者ギルド、オーレン支部へとやって来ていた。


受付は始まりの街であるクリムと違ってあまり人員を割いていない。というのも人間族を選んだプレイヤー、更に他種族から人間族スタートを選ぶプレイヤーを全て受け止めるクリムと、多くの選択肢の中の一つであるオーレンとでは、必要となる受付数も変わってくるというものだ。


とはいえまだここまで辿り着いているプレイヤーもそこまで多くはないのでそこまで並ばずに受付前までやってこれた。



「こんにちは。 今日はどう言ったご用件でしょうか?」


対応してくれたのはスマートな男性の受付さん。



「クエストの報告でお願いします。」


「なるほど、こちらのクエストですね。少々お待ちください…」


そう言って手元の端末を触る受付。



「では討伐目的の素材を納品願います。」


素直に対象2がドロップしたアイテムを納品する。

これは…と訝しげな顔を少ししたあと、少々お待ちください。とギルドの裏へと向かって行ってしまった。



「大事の予感。」


とウカ。ハルも不安そうな顔でこちらを覗いていた。


少し待って奥から初老の男性を連れ受付の男性が帰ってくる。



「お待たせしました。 少々お話を伺いたいので応接室へとご同行いただけますでしょうか?」


間違いなく大事のようだ。



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「忙しい所すまんな。 ワシは冒険者ギルドオーレン支部長、カンと言う。 よろしくな。」


そう言って握手を求めてくるカン支部長。まさか支部長クラスが出張ってくるとは思っていなかった俺は少し気を張りつつも握手に応じる。


その後2人も応じていたがウカは堂々…いや、表情には出ていないだけで少しはしているのだろうか?



「さて、来てもらったのは他でもない。 黒いゴブリンについてだ。」


分かり切ってはいたがやはり聞かれるのはゴブリン。黒い魔石などウカですら見たことがないのだ、支部長が慌てて事情を聞きに来るのも分かるというものである。


俺達はネームドの出現、2体の連携、そして人間の言葉を発した事と、あった内容そのままに伝えた。



「あの森にネームドが… なるほど。」


と俺達の報告を受け内容を咀嚼する支部長。



「黒い魔石はこちら預かりでも大丈夫か? 少し調査をせにゃならんでな。」


「納品クエストでしたのでもちろん構いません。」


両隣に控える2人もその言葉に頷く。



「ありがとう、助かるよ。 その分報酬は乗せさせてもらう、2体目の分も合わせてな。」



そう言ってその場で報酬が支払われ、応接室での話し合いはお開きになった。


内容としては30000sと本来の報酬である聖教本入門。30000sは序盤にしては破格の報酬だ、ネームド2体とはいえかなりの羽振りと言えるだろう。


報酬を3等分にし聖教本をハルへと渡す。使用する事でハルのスキルに回復魔法の選択肢が増えることだろう。これからのハルの成長が楽しみだ。



こうして、くろいゴブリンについては少しの不穏を残して達成となったのであった。



報告も終え良い時間になる。


明日はイベントだ。わくわくとはやる気持ちを抑え2人と別れる。


自分達がどこまでやれるのか、他のプレイヤーがどこまでやれるのか。


未知数まみれの第一回イベントに、期待を向けるトーマであった。



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「トーマさーん! お待たせー!」


約束の時間になりアメさんがぱたぱたと走ってくる。


そしてそんなアメさんのさらに背後から、



「センパイ!お久しぶりっス!」


聞き覚えのある男の声が耳に届いた。

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