第12話 森を抜けて
イベント前日夕方。
今日も今日とて順調にタスクをこなし、集合時間までもう少しとなっていた。昨日と違い楽しみで気づいたら1時間前行動、なんてことはしていない。
前回のログアウトポイントが森の中だったため、あまり早く来てもする事がないと今日は早めのログインはやめておこうと考えたのである。
精々ステータスを弄るくらいだろう、と思いながらログインすると、既にウカが座って待っていた。
「む。今日はトーマ遅刻しなかった。」
「悪かったって… 今日もよろしく頼む。」
本当に遅刻しなくてよかった…と心から思いつつ当初の予定のステータスを開く。
アプデ前に培った知識があり大体の方針は決まっているのだ、サクサクと振っていく。
新しいビルドを試すのもまた一興である、とは思うのだが、やはり慣れ親しんだこの戦い方が好みであり、変わらずそのままに育てていくつもりだ。
そういえば昨日の子は大丈夫だっただろうか? 確か今日がサポートしてくれる視聴者を決める日だったはずだ。変なことになってないことを祈るばかり、俺にできることはなにもない。
なんて色々考えていたら時間になったようで、ハルもそこまで時間差なくログインしてきた。
「こんばんは、ハル。 今日もよろしくな。」
「先輩! こんばんはっ! 今日もよろしくお願いしますっ♪」
「ウカもよろしく〜! 今日も早いなぁ…待たせてごめんね?」
「ん、気にしてない。よろよろ。」
挨拶もそこそこに早速と今日の方針を相談する。
「明日からイベントもあるし今日中に街に着きたいな。」
「ん。おけ。」
「了解ですっ。」
全員で意気込み森踏破へと動き出した。
================================
と言っても既にクエストは達成しているし道中にはゴブリンしか現れない。今更躓くようなパーティではなかった。無双状態である。
…というかハルの動きがやばい。「初心者組とは…?」と俺自身が積んできた3年の頑張りを疑うくらいには動けていた。
これもアシストシステム…いー君だったか?のお陰なのだろうか。
例えるならアプデ前でいうところの【半年ずっと頑張り続けたセンスのあるプレイヤー】くらいには動けている…まるでこの世界に住んでいるかの様な違和感のなさを感じるのだ。
…俺も負けていられないな。
馬鹿なことを考えていた頭を振り、思考をリセットする。
ミニマップを確認して今進んでいる方向に間違いがない事を確認、とても順調に進んでいる。何事もなければ余裕を持って街に辿り着けるだろう。
ちなみに今更ではあるが森を迷うことはない。特に購入するでもなくプレイヤーにはミニマップ機能が備わっているからだ。
自らの周辺が円形に埋まっていく、言わばダンジョンもののゲームによくあるマッピングシステムを想像してくれれば分かりやすいだろう。もしくはブロックを積みあげる某サンドボックスゲームのマップだろうか。
大まかな位置は覚えているためほとんど直線距離で森の出口まで向かえるという話である。また覚えていなくとも詳細なものの記載はないが大体の主要地点が記されている全体マップが街に販売されており、結構手頃な価格で購入することが可能だ。初心者組は街を出る際には必須アイテムなのではないだろうか?
順調順調!っとフラグを綺麗に積み立て森を突き進む中、予想を裏切るように、いや、これが創作物であったなら予想通り、予定調和と言うべきだろうか。
メッセージのアイコンに1件通知が入る。
気にはなっていたしちょうど良かったと言えるだろう。
================================
アメ:トーマさん!先日はありがとうございました!
アメ:相談したいことがあったんですけどメッセいいでしょうか、?
================================
配信中とのギャップがすごいな…とても丁寧だ。
もう森も出口まで大した距離もない程度だしここはウカに甘えて返信をさせてもらおう。
ウカに一言よろしく伝えてメッセージを続けた。
================================
トーマ:こんばんはアメさん、なにかあった?
アメ:実は先日ご迷惑をおかけした件も絡んでくるんですけども、
アメ:明日から始まるイベントって5人まででしたよね? トーマさんのとこまだ空いてないかな〜と思いまして…
================================
イベントのお誘いか… 確かにこのまま3人でやるよりは人数がいた方が楽に進むことは確かだ。
しかし先日乱入してきた彼のような人が選出されていたらと思うと… 俺は構わないが女性を2人も連れているのだ、危ない目に遭わせるわけには行かない。
================================
トーマ:前提こっちは3人パーティなんだけどアメさんのとこは2人以内なのか?
アメ:はい!まあ言っていたアシスタントさんが1人付きますので2人で合流させて貰えたらと思います!
トーマ:そのアシスタントさんの人となりが分からないし、俺のパーティの2人の意見もある。
トーマ:2人にはこれから声をかけてみるから大丈夫そうなら一度アメさんが配信していない時に顔を合わせて相談させてもらえないかな?
アメ:もちろんです! そこまでして頂いてありがとうございます! お返事お待ちしてますね!
================================
と返しつつ2人にも許可を取る。アバター体とはいえ配信に映るのが好ましくなかったり、知らない人とパーティを組むことに嫌悪感があるかもしれない。
誰か1人でもNOと答えたらこの話は断ろう。
「…という訳なんだけど、2人はどうだ? もちろん2人が楽しめないなら無理にするような話じゃないから断るぞ。」
「先輩はどうなんです? この話を出すってことは乗り気なんですよね、? …その人に惚れちゃった…とか?」
「なんでだよ… まぁこれが理由で少しでもプレイ人口が増えたらいいなとは思ってるかな?」
「トーマらしい。」
「すっごい先輩っぽいです。 心配したのが馬鹿みたいですよ…」
酷い言われようだった。
らしいってなんだ… そんなに夢中だったか…?
「それで、どうかな? 相手の事もあるから一回合流しようかとは思うんだけど。」
「無理に話さなくていいなら、よき。」
「私もオッケーですよ! その人の配信あの後もちょっと見てみたんですけど良い人そうですし!」
「じゃあ一回会ってみようか。」
と言ってアメさんに連絡を取る。
もう時期森を抜けてそのまま次の街に行くが大丈夫か?と聞いてみたところ、全力で追いかけるから大丈夫!との話だ。
…徹夜まで行かないまでも結構かかるはずだが大丈夫だろうか?
因みにこれは後日談であるが、そういえばよくハルは俺が巻き込まれている配信に行き着いたな、と気になって少し聞いてみた。どうやらゲーム内外合わせて注目されている配信はすぐ目につく箇所にバナーとして紹介されることがあるらしく、そこで見つけたんだとか。これも配信要素の追加に伴うアップデートだろう。
================================
「やーっとついたー!」
「2人共お疲れ様、笑」
「ん。おつかれ。」
途中脱線こそあったものの、その後は何事もなく森を突破、しばらく道なりに進み俺達は次の街である【オーレン】門前へと到着した。
門を通過する際に門番にギルドカードを提示する。
「おっ、クリムの街からか! よく来たな! オーレンは初めてか?」
「初めて…かな?」
来たことはあるから反応に困る。かといって馬鹿正直に来たことがある、など言ってしまうとギルドカードの履歴から登録後に来たことがないなど丸分かりだ、虚偽の反応として少々面倒なことになる可能性があった。
この辺経験者組トラップだと思うが、そもそも経験者はそういった知識もあるだろう。ハマるような奴が悪いのだ。
「オーレンを楽しんでってくれよな〜!」
大きく手を振って見送ってくれる門番に軽く礼をし、街中へと進んでいった。
オーレンの街はアプデ前と変わらない様相であり、特にまだモンスターの侵攻を受けているというわけもなく平和な街並みそのままであり、クリムの街と同じく中世ヨーロッパ風の街づくりであり、名前の由来だろうかオレンジ色の瓦屋根が多く使われていた。
王国へと続く道の途中にある街だからだろうか、交通が発展しているようで輸送用の乗り物が走りやすいよう道がよく整備されている印象を受ける。
またそんな道を挟むように露天や店が構えてあり、串焼きやアクセサリー、武器に防具にアイテムと、客層豊かな多種多様の物が売り買いされとても賑わっていた。
賑わせているのは他よりも少ない人間族、かつ王国ルート、と多くの分岐の先にある地点だからか、まだプレイヤー数はそこまで見受けられず、多くの
「ほぇ〜… クリムの街も感動しましたけどこれも中々… 私旅行してる気分ですよ…」
と感動のあまりか目を丸くして声をもらすハル。
「まずはギルドから…と思ったけど少し街を巡るか?」
「え、良いんですか!?」
「ウカもいいよな?」
「ん。いい。」
ということで俺達は少し散策することにした。こういうのもVRの醍醐味だよな、散歩するだけでも楽しいのだ。
これから始まる街巡りに目をキラキラさせるハルを見て俺も嬉しくなる、俺が愛したゲームはこうして新しいユーザーに楽しんでもらえているのだ、感無量といったところか。
ウカもしっぽをぶんぶん振り回している所から同じような事を思ってくれているのかもしれない、とまた嬉しくなり、その後2人に「なにニヤニヤしてるんだ」とツッコまれるのも仕方のない話だった。
さぁ、街巡りを楽しもう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます