第7話 新クエスト

アプデ前でいう【王国ルート】を辿るため、俺達は冒険者ギルドへとやって来ていた。

と言っても俺は今日3回目だが。


ゴールデンタイムだからか人間族拠点とはいえかなりの人が集まっており、Eランクに登録された者、これからゴブリンに挑まんとする者、また俺達同様次の目的地までの繋ぎでクエストを受けにきた者、と多種多様の目的を有していた。


ギルド自体は昨日と変わらず、初動で人が溢れるからか受付カウンターには対応してくれるNPCが多く座っており、列はできているもののさくさくと捌かれていた。今から並んでもそこまで待たずに対応してくれることだろう。



カウンター脇にある電子ボードを確認する。ゴブリンの複数討伐に素材納品、薬草の採取と、見覚えのあるような内容に目が滑りそうになる。まぁこんなもんかな、とウカに話しかけようとした時、滑っていた視点がとある文字に止まった。



「聖教本入門?」


それはクエスト達成報酬の欄。これは確か米国エリアにある【聖国 サンクリア】に本部があるが出版している聖書であり、ゲーム的に言い換えるならばだ。


AVOにおいて、スキルは条件を満たさないと取得できないものがある。かと言って回復魔法はこの本がないと絶対に修得できないというわけではない、この入門書はショートカットのような物にあたる。


ショートカット、というくらいだ。それこそ冒険も中盤、相手の火力が高くて回復リソースが欲しい。けど今更回復魔法を覚えるのは面倒だ…なんてタイミングで出てくるアイテムであった。



つまりこのようなタイミングで出回る代物ではない破格の報酬。当然新要素、新クエストだ。



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クエスト名 : くろいゴブリン


目標:対象のゴブリンの討伐、素材の納品


詳細:クリムの森で皮膚の黒いゴブリンが目撃されたという。詳細を調べ素材を回収してきて欲しい。対象の生態等不明であるため十分に用心してくれ。


報酬:聖教本入門


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くろいゴブリン。

聞いたことのない存在だ。アプデによる新エネミーである事は間違いないだろう。強化個体か?



「トーマ、これ?」


どうやらウカも同様に何かを感じたのか、首を傾げながら判断を仰いでくる。


ハルの強化にも繋がるし今後被弾することは絶対にある。序盤のポーション代を浮かせるのにかなりの貢献と言えよう。

それにせっかくの新要素、情報が出回っていない今のうちに楽しんでみるのも一興だろう。



「ハルの戦力アップにも繋がるしこれで行こうと思うんだ。どうかな?」


「トーマなら選ぶと思った。いこ。」


「いいんですか、? また私に良くしてもらって…」


下手に理由をつけたせいで気を負わせてしまったようだ。



「気にしなくてだいじょぶ。 私達も楽しい、よ?」


「ウカ〜…!」


感極まってウカに抱きつくハル。



「もちろんハルのためがメインだけど俺達も新しいクエストで楽しみなんだよ、全員で楽しもうぜ?」


「んんー… わかりました! 新しいクエストなんですよね! そういうのわくわくします!」


納得してくれたようだ。

よし。これで行こう。


認定クエストと違ってギルド受注タイプのクエストはここ電子ボードで受付が完了する。

ちなみにギルド受注タイプの他にも街の住民から直接受ける依頼タイプ、フラグを踏むことで勝手に開始するフラグタイプが存在したりする。


「でもここで受注するってことはここのギルドで報告するんですか?」


「それがそうでもないんだ。全ギルドは各支部として連携を取り合ってるから、どこで受注してどこで報告してもOKだよ。」


「へぇー、便利なんですねぇ。」


「違うことがあるとすれば受注できるクエスト、受付してくれるNPC、ってとこかな?」


「クエストは分かりますけど…受付してくれる人が変わると何かあるんです、?」


「好感度が変わる。好感度あると便利。」


「ウカの言う通りだな、笑 良くも悪くも好感度が影響するんだ。」


各NPCに個別の好感度があるのだ、作り込みがすごい。

ちなみに個々人それぞれに好感度を上げる以外にもまとめて上げる方法があったりする。

街に危機を及ぼすようなクエストだ。この世界は刻一刻と変化する。誰かが踏んだフラグがNPC1人、街一つ、果ては全プレイヤーを巻き込む騒動に発展する。クリアできれば影響したNPC全員の好感度を上げることができる、が、失敗してしまった時が問題だ。NPCは基本できない。もちろん蘇生できる手段は存在するが失敗してしまってすぐに取れるような簡単な手段ではないのだ。よってそういったクエストは慎重に事に当たる必要があった。


…そのクエストがどう影響するのか受注時点で分からないようなトラップも存在するのだが。


まぁこんな序盤にシナリオに大きく影響するようなクエストは出てこないだろう、気楽に気楽にだ。



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早速森へ!


と行きたいところなのだが次の街に向かう、ということで準備をする必要がある。


急がずまずは買い出し、という訳だ。



「テントとポーション類ってとこか?」


「ん。それで十分。」


「ポーションは分かりますけど、テントがいるんです?」


「1日で踏破できない所はログアウトポイントとして買っておく必要があるんだよ。」


AVOはオンラインゲームだ。当然ログインしたいない間も時間は進行する。


Q.ログアウトしてる間のアバターはどうなるの?


A.野ざらし。


ということになる。

そんな訳にも行かないのでテントを張る必要があるのだ。

またテントにもグレードが存在する。


モンスターからの発見を阻害する低級テント。

PK等プレイヤーからの発見も阻害する上級テント。

使用する事でHP・MP等も回復してくれる最上級テント。


もちろんグレードに応じて値段は高騰する。

と言ってもレベル20まではPKされることはないので今の俺達には低級で十分だ。



「ウカ、アイテムも店によって効果が変わったりするのか?」


「テントはない。けどポーションはある、よ。」


あるんかい。



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全員で行く必要もないだろう、ということで分担作業する事に。


もちろんポーション班はウカ。後学のためにもハルに着いて行ってもらった。


そして俺はどこで買ったっていいテント班だ。

大通りに面している道具屋へと出向く。

思えばいつからか道具は全部ウカの所で揃えていたためNPCの道具屋、というのがかなり久々であった。

店内はタイミングが良かったのか俺と店員であるNPC以外に誰1人としていなかった。



「らっしゃい。 何かお探しで?」


「低級のテントを… そうだな、3つほどお願いします。」


1回ログアウトするのに1個あれば十分だがあって困るような物でも… インベントリは圧縮するが。この段階で容量に悩むような頼りない存在でもないため大丈夫だろう。


ポーション探しも簡単には終わらないだろうと思い少し店内を物色していると、店員が話しかけてきた。



「お客さん、テントが御入用ってことは街を出るんで?」


「ああ、森を抜けようと思ってます。」


「クリムの森かい? …気をつけるんだぞ。」


…?

ゴブリンしか出ない森だぞ? 初心者向けのアドバイストークだろうか。



「何かあるんで?」


情報などでないだろうとダメ元で聞いてみる。




「噂にしかすぎないんだがな、なんでもが出るそうなんだ。」

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