第6話 遭遇!一角獣!

「見つけたよ!アメちゃん!」


何かを言おうとしていたアメさんの声をかき消した声の主は、そのまま喋り続けた。



「そこのお前はアメちゃんから離れろ!この後はぼ、ぼ、僕が案内するから! 任せてよアメちゃん!」


「僕経験者だから! その辺のプレイヤーなんて足元にも及ばないよ!? もう次の街に向けて冒険してるとこだったんだ! パーティ別れてアメちゃんの為に急いで戻ってきたんだよ! まだ初心者の街にいるこいつより絶対頼りになるよ!」


矢継ぎ早に喋りじわじわと詰めてくる男。

これはあれか…? あまりその界隈の知識がない俺ですら聞いたことがある存在。



——————【一角獣ユニコーン



配信者と視聴者との距離が近ければ近いほど産まれる存在であり、基本的に配信者が異性と絡むのを嫌う。その対象は配信中はもちろん、配信外のプライベートまで波及する。


時に配信中のコメント欄で暴れ、時にSNS上で暴れ、時に相手の土俵で暴れるのである。


苦言を漏らす程度であれば可愛い物であり、アンチに反転するものや相手を貶すもの、果ては殺害予告にまで発展する。



今、俺達の目の前に現れ、自分の有用性や俺の至らないところを延々語っている彼もその部類なのだろう。アメさんも怯えようから知り合いと受け取るには流石に無理があった。


かといって無理に刺激すると後々のアメさんの活動にも関わるだろう。

助けてあげたいがこればっかりはなぁ…



「…って事なんだよ! ハァ…ハァ… アメちゃん!僕が案内するからね!」


なんてどうしようか悩んでいると一角獣の独りよがりのアピールが終わっていた。


ここで俺が離れるとアメさんやばいんじゃないか…? 2人に相談してパーティに一時保護する? それだと2人にも被害が広がってしまうか… また決闘に持ち込むか?



何故ここまで巻き込まれ体質なんだろう、とため息ひとつ。乗りかかった船だ、なんとかしようと気を引き締めた。






「視聴者のみんな! 天王洲ナイトグランプリを開催します!!!」


背後から何かの開催が宣言された。


…え、なんて?



鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのは俺だけではなく、目の前にいた一角さんも似たような顔で背後にいたアメさんを見ていた。



「あーしと一緒に冒険したい!って人! 他にもいるよね! そんなキミたちの中からAVOで冒険する時のアシスタントさんを募集すんよー!」


「明後日にはイベント始まっちゃうから急だけど明日!トーナメントを開催すんね! 優勝者はあーしのアシスタントとして今後の配信で手伝ってもらっちゃうから! みんなこぞって参加だよ!」


「そこのあなたも!そこまで言うなら実力で勝ち取ってね!☆」


そう直接言われた男は何かに奮い立ったようで、トーナメントの準備をする為か、悲鳴に似た雄叫びを上げながら去っていったの であった。



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「ごめん、何もできなかったね。」


「いえ、 コメント欄も盛り上がってましたしそもそもトーマさんは悪くないですから!」


因みに大変な事態になっていたため配信は一度休憩モードに入っている。



「でも大丈夫? それで万一さっきみたいな人が勝ち残ったら後々アメさんも視聴者さんもいい気はしないんじゃ。」


「その辺は秘策があるので大丈夫です!ほんとに!」


ここまで言うならいいか…?と納得しようとしていると、メッセージの通知が響く。



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ウカ:トーマどこ? 遅い、ハルも待ってる。


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やっばい。

気づくと結構時間は経過していて、本来の集合時刻から5分経ってしまっていた。



「ごめん!待ち合わせがあるから俺はここで!」


「え、あ、時間ごめんなさい!」


「気のせいじゃなければさっき何か言おうとしてた…よね? それだけ聞いていこうかな。」


「あ、覚えててくれたんですか、」


「気のせいじゃなくてよかったよ笑」


「それじゃあ、ま…また一緒に冒険したいのでフレンドお願いしていいですか、?」



覚悟を決めたような顔をするものだから何を言われるのかと心配してしまった。


もちろん、俺はOKした。



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「すまん!遅くなった!」


10分遅刻。

着いて早々謝罪から入る。下手に取り繕う方があとあと苦しくなるのだ。ソースは俺、結局ボロが出ます…


「あ、先輩! 大丈夫でしたか?」


「む。遅い、何してたの。」


「ちょっと初心者さんを案内しててな…」



「初心者(さんですか)?」


異様にハモる2人。心なしか周囲の気温が2度ぐらい下がった気がする。

温度システム実装されてたのかな…



「女の子ですよねきっと。」


「なんで分かるんだよ…」


「なんでって配信見てましたし。」


とハル。



「チャットのタイミング、綺麗だと思わなかった?」


とウカ。



ほら見ろ、下手に取り繕っていたらと思うと冷や汗が止まらない。

…なんで責められてるんだ?遅刻が理由だよな?



「気を取り直して冒険しましょ!ぼーけん!」


ハルが流れを戻してくれ、俺達はようやく昨日の続きを始めることができたのであった。



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「色々あったけど今日はこの街を出るぞ。」


「誰のせい、?」


「俺ですすいません。」


「わかってて偉い。 どこ目指すの?」


。これがミソである。

AVOのひとつの売りである。これによって最初の街こそ種族ごとに決められているものの、そこからどう動くかはプレイヤーにゆだれられる。


それこそウカや偽勇者の様に他の初期地から始めることもできる。金さえ払えば飛べるので初心者でも最初の街でクエストを進めれば可能なのだ。


また周辺の街、となるとここクリムの街からは大きく分けて3分岐の選択肢があると考えていいだろう。


ひとつ。

ゴブリンのいた始まりの森を抜けた先にある街、そしてそのまま進んだ先にある人間族最大都市【王国】を目指す王国ルート。


ふたつ。

森とは反対側の門から進んだ先にある、人間族最大の貿易都市【港】。そこから広がる海を進む大航海ルート。


みっつ。

街から少し行ったところにある山脈。これを超えた先にあるドワーフ族の領域へ自力で行く鍛治ルート。…これは正直ワープした方が早いまである。



もちろんこれらの知識はアップデート前のものなので、新しい選択肢が増えているかもしれない。街が何かの理由で崩壊しているかもしれない。海が大荒れしていて航海に出れないかもしれない。通行止めされているかもしれない。と良い意味でも悪い意味でもなのだ。ゲーム側も予想できない自由で襲ってくる。



以上の事を考えると、1番汎用性…というかどう転んでも対応できそうなのが王国ルートだろうと考える。



「王国ルートが事故がなくていいと思うんだが、ウカはどうだ?」


「ん。トーマにお任せ。」


「私も初心者ですから先輩にお任せですっ笑」



話はまとまり俺達は森を抜ける事になった。

ただ抜けるだけじゃもったいない。森で行えるクエストなど見てから進むことにしよう。

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