第4話 配信者

side ???



「はーい皆さんこんばんは! 現代に甦った天っ才踊り子!天王洲てんのうずアメでーっす! やほー!」


宙に浮く材質もよくわからない球体に向かって話しかける私、天王洲アメは大手virtualバーチャル芸能事務所に所属しているV idleバーチャルアイドル(といっても先輩方に比べると人気はそこそこの新人なのですが…)です。動画投稿系最大手プラットフォーム【 X tubeクロスチューブ 】で配信をメインに活動しています。


名前の由来はあめのうずめ、?みたいな名前の踊り子の神様がモチーフだそうなんですが、歴史とか神話とかそういうものに詳しくない私はだ。と考えることを諦めました。


今の私の姿は配信での活動に使われる、所謂Vの見た目そのままにアバターを作っています。燃えるような赤い髪をポニーテールに結んで顔はリアルそのままだと身バレしてしまうので少し調整、マネージャーさんと相談しながら決めたので普段のイメージと離れず身バレもせず、みたいな上手い具合に落ち着けたんじゃないかと思います。


普段は歌やダンスでの活動、たまに雑談配信と、あまりゲームを用いた配信をしてこなかった私ですが、この度私が所属する事務所に【で配信活動してみませんか?】という内容でゲーム配信の案件をいただいた。フルダイブVRゲームという事で、体を動かすのが得意だった私に白羽の矢が立った。という訳で今私はこうして配信を行なっています。


私以外にも企業所属のV idleやストリーマー、個人勢のX tuberクロス チューバー(X tubeで動画投稿をしている方々です)と多方面にお声が掛かっているようです。


そんな私達…うーん、AVO配信組とでも言いましょうか、に配られたのがこの球体。【 I ropsイロプス 】と言うそうです。今回のアップデートで実装されたいー君さんが球体に入る事で起動し、結構の融通が効く優れもの。と伺ってます。実際に私の目の前には、イロプスのレンズが捉えており、また配信上に映っているであろう画面と、私に返事を返してくれる文字達が流れていくコメント欄が半透明なウィンドウとして浮かんでいました。実際にPCの画面で配信しているような感覚です。視聴者さんの方も、PCなどの媒体で視聴できるのはもちろん。なんと同じAVOをしたまま視聴することが可能なのだそうだ。さすが企業案件です。



>アメちゃんやほー!

>やほー!

>やほー!

>アメちゃーん!

>やほー!

>ここどこ!?

>やほー!

>待ってたー!

>配信ありがとー!

>え、これAVOじゃね

>やほー!

>アメちゃんゲームやるの!?

>アメちゃんのアバターをリアルに寄せたみたい

>やほー!

>冒険者っぽい服かわいい!



「みんなやほー! そーそー!あーしもびっくりしたんけどゲーム配信っ! 今日はAnother verse onlineをやってくよー!」


あ、普段はキャラ作って配信してます…V体の見た目からもコンセプトをギャルに設定した結果こうなりました。



「あーしの事務所の方に案件来たんよね、配信しない〜?って!身体能力に関わるっぽいからあーし選ばれちゃったw 先輩達も呼ばれるかもだけどまずはあーしが冒険しちゃうよ〜!」



>軽いwww

>軽すぎんか?

>アメちゃん平常運転w

>アメちゃん運動神経いいもんね!

>前あげたダンス動画見たよ!かっこよかった!

>他のメンバーも来るのか!楽しみ!

>アメちゃんがここでは先輩になれちゃうね!



「ん?そーそー!あーしがみんなをキャリー?しちゃうよー!ってねw」


なんて言っちゃったけど普段そんなゲームしないもんなぁ… そもそもちゃんとプレイできるかの時点で怪しいのに…

アシストしてくれるから大丈夫とか、コメント欄に助けてもらおう、とか事務所は言ってたけど…

正直かなり不安だ。



「キャラ作成中は配信できなかったからこっからみんなとやってくよー! まずは設定せってーから〜。 いー君はもう呼んだしー、あとはグロテスク0%にしないとねっ」



>石橋を叩いて渡るアメちゃん

>ナイス設定

>配信に配慮えらい

>グロ無理だから0%助かる〜

>アメちゃんヒューマンでやってるの?

>グロきついゲームはしっかりきついもんなー

>僕経験者だから色々教えようか?

>ヒューマンなんだ、ちょっと意外

>エルフとか選ぶと思ってた!



「あー種族ね? あーしも迷ったんけどー、やっぱヒューマン一択じゃん!? ってw」



>猫耳とか見たかった…

>そのままでも可愛いのはアメちゃん流石

>確かにアバ変わっちゃうか

>納得のヒューマン

>猫耳も今度つけてください!

>僕もヒューマン選んだよ!

>ヒューマン選んでる人比較的少ないよね

>ほんとだ、俺半魔選んだけど人ちょっと少ない



「よしっ! じゃあ改めてAVOやってくよー! れっつごー!」


声高らかに宣言しウィンドウから視線を上げる。

どうやらダイブして最初に訪れるのは皆一様に広場のようで、真ん中には現代日本ではなかなかもうお目にかかれないような豪華な噴水がそこを彩っており、またその周りを私のような初期装備のプレイヤーがまばらに居た。

いー君と話していたり、世界の質感に感動していたり、ウィンドウをいじっていたりと様々だ。


きょろきょろと見回しているともくもくと立ち上がる煙が見えた。火事?…な訳ないよね。


興味を持って近づいてみると、よくお祭りとかにある出店から立つ煙だったようだ。



「え、出店とかあるん? てか食事できんだー!?」



>え、食事できるの!?

>今のゲームすっご

>あー、それね笑

>経験だろw いっちゃえ!

>食べるといい事あるしなw

>見た目美味しそう!

>アメちゃん!それ味しないからやめとこ!

>串焼きとかあるんだ!



「んーせっかくだし挑戦挑戦! こういうのも配信の醍醐味だよね!」


そう言って出店のおじさんに近づいていく。

確かNPCも実際に生きている人とおんなじ様に接しないと、だったよね。



「おーにーさんっ! 串焼き1本いくらー?」


「おっ、興味あるかい? 400sだよ」


「うんっ、すっごいおいしそーじゃん!」


400s、だいたい400円てところだろうか? お祭り価格だなあ。それとも高級なお肉とか、?

早速400s払って買おうとした。



「お嬢ちゃん褒め上手だね、350でいいよ。」


「え、ほんと!? ありがとー!」


そう言って350s支払い串を受け取る。



>早速好感度恩恵受けてる!

>さすがアメちゃんすぎるww

>そんな事あるんだ?

>へー面白いシステム

>これ後々大切になりそうだなー

>暴言とか吐いたら買えなくなるのかな?

>こいつ色目使ってね?なんなんこいつ

>さっきからなんかおるな

>アメちゃんが買った串だから今後人気でそう!



「こんな事あるんだねー! 好感度って大事! みんなもNPCさんには優しくしなきゃダメなんだかんね?w」



>はーい!

>はーい!!

>りょうかいー!

>案件配信とはいえ配慮が良い

>実際やらかすとだいぶ響くらしいね

>街に入れなくなったりするから気をつけて!

>アメちゃんはその辺安心だな



「んじゃそろそろ食レポしちゃおっかなー! うんうん、見た目は最高に美味しそうだね!」



>わくわく

>見た目【は】いいよねw

>すっごい美味しそう

>アメちゃん!それ美味しくないよ!

>見た目いいんだけどなーw

>味どうなんだろ!



「はむ。…え、ちょっと味がするゴムみたい…」



>やっぱりwww

>その見た目でゴムなの!?

>え、味しなくない?

>僕は結構美味しかったけどなー

>味音痴もいます、っと

>アメちゃん!美味しいとこ連れてくよ!

>味のついたゴムを食べるとバフがかかる不思議

>美味しそうなのにー


コメント欄を見てみると反応はまちまちで、味がしないという人もいれば美味しいという人もいた。最近たまに聞く【V感】というやつなんですかね?



「んー、あーしはあんまり美味しく無かったかなー。他の食べ物は美味しいといいなっ。 さて!次は何したらいいのー?」



>他のもあんまりだったりする

>美味しいやつ他の街にあったよ

>アプデ前の最前線組はみんな味するって言ってたよ

>街を出たことないからわかんない…w

>味した人はこのゲームセンスあるって聞いた!

>俺もこのゲームやってみようかな

>味しなかった俺はセンスない…ってコト!?

>俺味しなかった…

>まじ!? 私味した!

>次はギルドかな?

>アメちゃんとも会えるかもだしやってみたいな

>アメちゃん!今向かってるから教えてあげる!

>ソロでやるのー?

>初心者クエストなんだからソロでも大丈夫!

>最初のクエストソロはちょっと怖くない?



「えー! 他のもそんななん!?ちょっとショック〜…w え、味したってことはあーしセンスあり!?w 次はギルドなんだ? クエスト楽しみー! そうだよね、ソロだとちょっと難しいんかな?…」


なんてコメント欄に反応をしていると、こちらを伺っている男性プレイヤーと目が合った。

見たところ装備は周りの人と違って少し強そう?に見える。もしかして経験者さんなのかな。


…せっかくの機会だし少しでも教えてくれたりしないかなぁ。



勇気を出して声をかけに近づく。目的の男性はどこか混乱しているようで、何かに弁明しているような焦った顔をしていた。



「…あの!」


「私初心者なんですけど、このゲームのこと教えて頂けませんか!?」


ガバッと頭を下げて勢いでお願いする。緊張から少し普段のキャラ作りから離れた素を出してしまった。


ドキドキしながら男性の回答を待つ、あまりこういった事をしてこなかった人生を送っていた私にとって、この時間は5分とも10分ともとれる時間に感じた。



「え? えーっと… とりあえず話を聞きましょうか。」


男性は戸惑いながらも優しく笑いかけてくれたのであった。

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