第3話 翌日、昼下がり。

サービス再開翌日の昼下がり。

遊びたい気持ちを抑え俺は結局仕事を進めていた。


仕事は翌日分も終わらせてたんじゃなかったのかって?

せっかくパーティがいるんだ、もうソロは懲り懲りなんだよ…

俺だけ進めても進捗に差が出るしどうせならパーティ単位で進みたい。それに誰よりも早くとかにはそこまで興味はないのだ。強い敵と戦いたい、それだけである。



そんなこんなで日照は仕事を進めているしウカも用事があるらしい。集合は夕方から、という話で昨日は終わっている。


ずっと室内にいるのも健康に悪いと午前中は軽く体を動かす為にも軽く散歩をしていた。朝の時間帯の散歩はなんとなく空気が澄んでいて気持ちがいい。心なしかとっても健康になった気がする。…心なしである。こういうのは続けるべき習慣、というのは理解しているが気が向いた時にしかできない気分屋なのだ。


する事もないのでネットサーフィンでもしようかな、とPCを立ち上げる。仕事用に会社から配布されている物とは別の私用PCだ。社用PCで変な広告でも踏んでみろ、始末書で済めばいい方だ。



そういえばAVOを立ち上げているこのヘッドギア。ハードと繋いでいない単体の、俗に言うスタンドアローン型の端末ひとつで遊べる機械なのだ。あの膨大な世界をこれひとつで実現している、というのが末席のSEからして全くと言っていいほど理解できない。謎の多い機械である。


端末の発表当時はAVO専用機、なんて言われていたが、AVOがこけ始める辺りから他のソフトも波及してきており、今では結構な数のソフトが発売されている。それでも3年前に発表されたAVOの没入感、世界観を超えられる物は出てこず、PC接続タイプのハードを用いた方が先行していたというのが今日日のヘッドギア事情であった。



なんて思考を走らせているとPCの立ち上げが終わる。思考を引き戻され検索バーへとカーソルを合わせた。


AVOの世界に限らず俺は自分で見て楽しみたいと考えているため今まで調べてこなかったのだが、今回新たに追加された要素である

Assist Ingenuityお助けシステムについては今後触れそうになかったのでどんなものか知りたくなったのである。


調べないで一回自分で触れたら?と言われるかもしれないがそこはプライドだ。がお助けシステム呼んだことあります、なんてちょっと恥ずかしい。


呼ばない事でもしかしたら何か起こる要素もあるかもしれないし呼んだから発生するクエストがあるかもしれない。気軽に呼べないのである。



カタカタと検索ワードを打ち込み出てくる検索結果を眺める。公式ページは事前に読み込んだ為スルーし、普段あまり読まない電子掲示板を覗いてみる。


ほぼ全ての初心者組は呼んでみたようで、また経験者組も結構な数呼んでいるようだ。ログインしてすぐ呼んだものが多くを占めているようで、「何故こんな簡単な操作もできなかったのか。」「呼んでない状態で操作してから言え。」「そんな操作むずい?」と初心者組と経験者組が口論になっている所もあった。


操作性が変わるだけなら俺は呼ばなくて良さそうだな。と自分の中で結論づいてネットサーフィンでもしようか、とサイトを離れたその時、



「…ッ」


不意にくらっときた。昨日ちゃんと寝たはずなんだけどなぁ、?

うんうん原因を悩んでいるとスマホが震える。


日照からだった。



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日照:先輩〜?


月雲:どした?仕事でわからないことでもあったか?


日照:ごめんなさい仕事の話じゃないんです…

日照:今お暇でしたか?


月雲:大丈夫だよ笑

月雲:AVOの話?


日照:そうです!

日照:先輩はもうイベントの話は聞いてますか?


月雲:エリアイベントだろ?さっき調べたよ


日照:それですそれです!

日照:先輩さえ良ければ一緒に楽しめないかなー、なんて思ったんですけど…


月雲:もちろんだよ、一緒に進めようか


日照:本当ですか!?ありがとうございます♪


月雲:ウカも今日集まった時に誘ってみようか


日照:あ、そ、そうですねっ、今から楽しみです!


月雲:じゃあまた今夜な、


日照:はーい!お邪魔しました!



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送信してスマホを閉じる。


昨日の発表から3日後。つまり今日から2日後の金曜日の18時からイベントが始まるようだ。


敵モンスターを倒してドロップしたアイテムを納める、所謂収集クエストと言われるやつだ。

集めるアイテムのレアリティ毎にポイントがあり、アイテム数×レアリティ毎のポイント=プレイヤー毎の得点となる。


今回のイベントはパーティ推奨となっており、パーティ単位での得点が加算される。つまり3人で集めたポイントは合計されて集計される、という事だ。


因みにフルパーティは5人。

頑張れなくもないがランキング上位に載るのは難しいだろう。


この残り2日の間に仲間が増えれば圏内に入ると思うが、そこまで急いでこの前のほら吹きエルフのような変なプレイヤーと当たったら目も当てられない。女性2人と組んでいるのもある、簡単に決めていい話でもないのだ。



昔の知り合いは…よっぽどのことがない限りまだ出会えないだろう。そもそもヒューマンを選ばなそうだ。連絡先は持っているとはいえこっちから連絡するのもなんか癪な奴しか居ないし。


そう考えるとわざわざワープポータルを使用してまで会いにきてくれたウカには本当に感謝しかない。昔馴染みの中でも変人ではあったが常識人枠だ。

今とキャラはだいぶ違うが。ほんとに何があったんだよ。


ブレイは…今何をしているだろうか。

あれから連絡はなく、むしろ偽物に遭遇してしまうとは。もう少しアップデートの知らせが早ければ辞めてなかったのだろうか。

潮時…潮時か。飽きちゃったのかなあ。


自分自身、あっさりメールを受け入れられたつもりだった。ソロでも楽しいと思えていた。それでもやはり、どこか思うところがあったのだろう。


もう少し運営が早ければ何か変わったのか。など考えてしまうのも仕方のない事だった。



柄にもなくしんみりしてしまった。

こんな調子で新しいAVOを楽しめるのか?否だ。己を奮い立てる。


せっかく多くのプレイヤーが帰ってきたのだ。新しい人脈を広げるのもいいだろう。日照だっている。



一抹の寂しさはあれど、今後の出会いを楽しみに思う読真であった。



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時刻は19時、夕食も入浴も済ませ予定より少し早めにAVOの世界にダイブする。


集合時間までまだ1時間近くもある。楽しみにしすぎて結局早く来てしまったようだ。


どうやって時間を潰そうかと、しばらく広場を歩く。景色もリアル顔負けのグラフィックだ、散歩だってひとつのゲームとして数えていいほどのクオリティと言えよう。


景色を楽しみながら散策していると、広場の脇の方にもくもくと煙が立ち上がっているのが見える。串焼きの出店が出ているようだ。


なんとAVOにはという概念が存在する。食事を摂らない事で損をする事はなく、摂ることでバフを受けることができる、単純な話バフアイテム、という事だ。とは言ってもここは始まりの街。大した効果を期待する方がおかしいというもの。



「おじさん、串1本おねがい。」


「はいよっ、400sだ。」


「ほい、さんきゅー」


少し高い気もするがお祭り価格と思っておこう、軽いやりとりもそこそこに串焼きを受け取る。

見た目はいいんだけどなあ…



「むぐ…? 前食べた時より美味しくなってる気がする…?」


昔…1年ほど前だろうか? に食べた時は串焼きのような味のするゴムを食べているような物だったのだが、技術の進化だろうか。しっかりと串焼きとして認知できる味となっていた。

ちなみにステータスを確認するとしっかり自然治癒+1と表記されていた。まぁこんなものだろう。



技術は進化するもんだな〜なんて考えながら串焼きを食べ終えた俺は、拠点中央の噴水近くを歩いていた。

ほどなくして、何やら空飛ぶ金属の球体?のようなものに話しかけている人が視界に入る。


「えー! 他のも… センスあり!? 次は…なんだ? …楽しみー! …」


球体に向かって喋り続ける女性。

よく通る声をしているのでほどよく離れているこの距離でも所々言葉が聞き取れた。

それにしても3年続けた俺にも正体不明のアイテムだ。新要素なのだろうか?



しばらく興味津々に球体を見てしまっていたからだろうか、女性と目が合ってしまった。


目が合って刹那、なぜか女性が近づいてくる。

何か失礼をしてしまっただろうか、だって珍しかったんだもの…


なんて脳内で言い訳をしているうちに、俺達の間にあった申し訳程度の距離は詰められていた。



「…あの!」

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