第13話 はじめてのクエスト 上
冒険者ギルド内部は奥に受付のカウンター、両サイドの壁にクエストを確認できる電子ボードが配置してある。こういうところだけ何故か近代的だ。ゲームのシステム上仕方ないのかもしれないが違和感はある。
再スタート初日だからか、カウンターに配置された受付が多い。サクサクと列を捌いており見ていて気持ちの良いほどだった。
早速俺達も列に並ぶ。クエスト自体はパーティ単位で受けられるので、このまま3人同じ列に並ぶ。
暫くして前の組が捌けた。
「次の方々どうぞ〜!」
カウンター1番右端の元気のいい受付嬢に呼ばれたので揃ってカウンター前に進んだ。
「3人での登録お願いします。」
ここで気をつけるべきは丁寧な対応をする事だ。下手に機嫌を損ねると相手はNPCとはいえこちらが損をする。世渡りは常に上手くあるべきだろう。
「3名様ですね!ふんふん…おや、お二人は経験者さんですね?」
「何か変わるんですか?」
「冒険者として認定を受けられる認定クエストの討伐必要数が少し少なくなります! 試さなくても大丈夫でしょ!ってお話ですね♪」
ぶっちゃけるなあ〜この受付嬢。
俺が初めての時は寡黙なスキンヘッドの怖いおっさんだった。元気してるかなあの人。
「先輩達置いてかないでくださいね…?」
不安そうなハルに袖を引かれる。その上目遣いやめてくれ、勘違いしてしまう。
「パーティなんだから置いてくわけないだろ? ウカも手伝ってくれるさ。」
「むふ。私も先輩。まかせて?」
「…ウカ〜!」
むぎゅー、っとウカに抱きつくハル。ウカの尻尾も嬉しそうだ。俺? 羨ましくなんかないよ、そんなやましい事は思ってない。断じて。
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「では認定クエスト3名様、うち経験者2名様で受付致します! 頑張ってきてくださいね〜!」
脳内でどこの誰にか分からないが弁明していたら説明もそこそこに送り出されていた。
「コール。クエスト。」
受諾クエスト 1件
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クエスト名 : 認定クエスト E (3人用)
目標:ゴブリン5体×3の討伐(-2)
詳細:ゴブリン15体ちゃちゃっとやってきちゃってくださ〜い!
経験者ボーナスで-2体の計11体が討伐目標です!
クリアでランクE登録ですよー!ふぁいお!
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うーん明るい軽い!
しかしこのくらいラフな方がクスッと笑えて楽しいから俺は好みの部類だ、ふぁいお!とか使ってみたい。
討伐対象はゴブリン5体。1人あたりの目標討伐数であり、今回は3人での受注であるため×3で15体がクリア目標となる。これは昔も同じく相変わらずである。が、この1人5体が曲者であり、ランクEにたどり着けたのは全プレイヤーの約3割という構図を描いた張本人である。
どうせならスライムとかにすれば良かったのに、下手に機動力のあるゴブリンが対象という点。
そして5体を討伐する上で最初の数匹は単体で湧いて来るのだが、残り3体と折り返し地点に入ったタイミングで群れで襲いかかってくるのである。
VRMMOである為、フィールドを徘徊するゴブさんとのシンボルエンカウントなのだが、AIの判断により残り3体となると集まりだす。
今回は3人パーティの為最初の6体は単騎、3体の群れ+人数分である、残り5体が群れで襲いかかってくる。
これがまた面倒臭い。幼稚とはいえ連携してくるのだ。
この時点で普段リアルでの生活に比べ体を自由に動かせない多くのプレイヤーは連携の前に敗れる。再び挑む。敗れる。心が折れる。- fin.というのがこのゲームが廃れた原因のひとつだった。
因みについでの要因として結構グロい。というのがあるが、設定からグロテスク表記を変更できる。なんでそういうところは配慮できるんだ運営。
100%で血飛沫、0%でポリゴン味ある光が傷から漏れ出す、みたいなイメージだ。敵をデータ体の敵だと想定したような表現に切り替わる。
ハルにグロテスク表記の存在を教えつつ、まずは。と最終目的地であるゴブリンの巣食う森…
へと続く門までの途中にある商業区へと赴く。
「俺とウカは装備を更新できているけどハルは初期装備だからな、装備を新調しておこう。」
「最初に新調するの? みんな初期装備に見えるけど…」
「今はさっきの決闘で資金も潤沢だからな、早めに更新しておいた方が後々楽なんだよ。」
「さっきのエルフに、感謝、だね。」
どうやら2人もしっかり最高額賭けていたようで、俺が代わりに出すまでもなくハルは現時点で装備できる最高品質を購入できそうだった。
「始まったばかりで鍛治やってる奴なんて相当な物好きだけだからまずは適当なNPCから買うかな。」
「トーマ。それ違う。NPC産にも差はある。」
「…初耳なんだが?」
「あんまり知られてない。むふ。」
ドヤ顔のウカ。なんでドヤ顔だけ分かりやすいんだ?
「武器にもオープンステータスと秘匿ステータスの二つがある。トーマに見えてたのは武器種ごとに設けられたオープンの方。」
「ウカには秘匿も見えてた、って事か?」
「そ。道具屋の名は伊達じゃない。」
ふんす!と鼻息高々、鼻高々。彼女自身装備や道具に関してプライドがあるのだろう。とても頼りになる小さなプロがそこにいた。
「じゃあ目利きはウカに任せてもいいか?」
「無理。今の私には秘匿見えない。」
「見えないのかよ!?」
「見えないんですか!?」
ハルとハモってしまうくらいには意表を突かれた。
しかし予想するに装備関係でレベルが上がると見えるようになってくるのだろう。それなら仕方のない事だ。
「むぅ。それでも店構えから推測する事は可能。」
「綺麗なお店だと当たりって事ですかね、?」
「んーん。答えは職人がいそうな店。綺麗だけだと平均的。下振れはないけど上振れもない。」
「なるほどなぁ〜」
一理どころか百理くらいある。
リアルで例えるならチェーン店と個人経営の違いだろうか?
平均的な物を求めるならチェーン店、当たり外れのある個人経営を今回は狙いに行く、と。
ふと思ったがいち装備や道具の話となると饒舌になるな…?
「じゃあ店選びはウカの直感に任せるよ。ハルはそれでいいか?」
「え、私に聞くんですか?」
「ハルの装備なんだからハルが決める事だよ。」
「出会って間もないですけど友達ですからね、そりゃ信じますよ! ウカ、お願いできる?」
「むふ。大船に乗ったつもりでいるといい。」
こうしてウカの店探しが始まった。
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「ここ。とても良い。」
探し始めて10分ほど、ウカはとある店の前で立ち止まった。形容するなら無骨。メインストリートとも呼べる多くの人が集まる道から少し外れている為か人通りもまばらであり、明らかに人気はないと言い切れるほどの店だった。
店入り口の脇には樽が置いてあり適当に剣が刺さっている。ご自由にどうぞと言わんばかりの雑さだ。本当に大丈夫だろうか?
不安に思いつつも先を進むウカを追って入店。ハルもそれに続いた。
「物好きな奴も居たもんじゃな。表の方のが小綺麗じゃろうに。」
なんとも卑屈な言葉を発しながら初老のNPCが迎え入れる。
「装備買う。物色するけどいい?」
「好きにせぇ。」
そう言うとNPCは奥にあった受付に腰掛けこちらを観察し始めるのであった。
「ハルはメイン、何にする?」
「メイン…ですか?」
「メイン武器、モンスター達と戦っていく上で何を使いたいか、って話だな。」
「そもそもどんな武器があるのか分からないんですけど…」
それもそうか。確かに選択肢があった方が分かりやすいかもしれないな。
うーんでも羅列できる数じゃないし…
操作性がネックで廃れただけで内容だけ見れば覇権ゲーなのだ。武器種もばかみたいに豊富にあるのがAVOであった。
「思った以上に種類はあるからどんなことをしてみたいか、 が大切になるかな。」
「なるほど…どんなこと… 先輩は刀なんですよね?」
「俺は初めてすぐの時にクエストで初めて貰った武器が刀だったんだよ、それ以来ずっと刀かな。」
「私は短刀。大きい武器は苦手…」
「魔法職とかもあるんですよね?」
「ある。ここはファンタジーの世界。」
「ただ魔法職と言っても多岐に渡るぞ? 純魔法使いからさっきのエルフみたいに武器に乗せることもできる。どんなプレイをしてみたいか、自分が楽しい道を探すのが良いかもな。」
「んん〜… 決めました! 魔法ばんばん打ちたいです!」
「純魔ビルドか。ウカ、良さげな杖見つけてくれるか?」
「探してみる。」
そう言って店内を物色し始めるウカ。俺も少し見回してみようかと店構えからは想像できなかった広さの店を探索する。剣のコーナーを見てみるが、イマイチ違いがわからない。どこを見て判断しているんだ…?
そもそも武器に関しては俺は人任せにしていた。転生前に仲良くしていた鍛治職のプレイヤーがいたからだ。彼は今頃ドワーフ族で元気に無双していることだろう。こと武器のことに関してはこだわりが強すぎて他を寄せ付けなかったからな。同業者もユーザーも、だが。
昔の友人に思いを馳せていると物色タイムが終わったのか、ウカとハルが杖を一本携えて戻ってきた。
「ウカが言うにはこれだ!って」
「これ。多分いい。」
「せっかくだし防具も軽く見繕うか、ごめんウカ、俺の分も頼む。」
「もう目星はついてるよ。ぶい。」
ウカ様々である。
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「ほーぅ。これを選ぶか。やるな嬢ちゃん、甘くみてたよ。」
なんかウカがNPCに褒められてる。まじで秘匿ステータスあるじゃんこれ。
いや疑っていた訳ではないのだが。3年もプレイしていて知らなかった俺に対するがっくり感、とでも言うべきか。
「〆て162000sてとこだな。いい目利きを見せてもらったから150000sに負けてやるよ。」
ガハハと笑う店員。こういう所も他のゲームと一線を画すと言っていいだろう。好感度だったり何かの拍子でプラスに転じる事がある。もちろんマイナスに転んでしまう事もあるが。
じゃあこれで、と支払いを済ませる。
「え、先輩!? 何カッコつけようとしてるんですか。」
「え、ダサかった…?」
カッコつけるとかじゃなくたんまりと資金はあるし、後輩にお金を出させるなんて、と動いたのだが不正解だったらしい。
「そういうんじゃないです! 少なくとも割り勘じゃないですか? なんなら私の武器も買ってるんですから私が1番多く払います!」
「でもさっきの決闘で儲けてるし良くないか…?」
「私もハルもそれは一緒。割り勘にしよ?」
2人の圧がすごい。どう頑張っても勝つ未来はないだろう。早めに
「わかったわかった… 1人50000sな…?」
「毎度。兄ちゃん…俺にはカッコよかったぞ。」
NPCにまで慰められる始末。
クエストで発散することとしよう。
店内で装備を整え、俺達はゴブリンの待つ【始まりの森】へと足を運ぶのであった。
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