第12話 冒険者ギルドへ。
このゲームにおける死は状況において重さが変化する。
フィールドで敵モンスターやプレイヤーにやられると1時間。
決闘で負けると6時間。
死闘で負けると24時間。
また、
今回は死闘なのですぐに復活してまた難癖、とはならないので心配いらないだろう。まぁまだ歯向かってくるメンタルが残っていればの話だが。
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「刀ニキさんきゅー!」
人混みの遠くから声が聞こえてきた。俺に賭けてたんだろうか? ギャンブラーだなあ。
てか刀ニキって何だよ。
「先輩!」
飛び込んでくるハルを受け止める。かと思えば俺の背後にウカがいた。いつ回り込んだんだ…?
「話し合いは終わったのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃなくないですか!? なんか強そうな人と戦ってたじゃないですか!」
ジト目で怒られる。年下に怒られてる俺って情けないのでは?
「勝てたからいいですけど…」
「だから言った。相手可哀想。」
どうやらウカは俺が勝つことを確信していたらしい。しっぽをぶんぶん振り回しているあたり喜んでいる…のかな?獣人になった事で感情が読み取りやすくなった気がする。今んところこれが1番のアプデ要素かもしれない。
「て事は当然俺に賭けてたんだろ?」
「ん。初期資金たんまり。むふ。」
「私もたくさん頂きました…こんなにもってて大丈夫なんでしょうか…?」
「心配しなくてもすぐ足りなくなるよ、あって困るもんでもないからな。」
実際は困る場合はある。
PKされた場合所持金の幾らかを落としてしまうからだ。ただそれはプレイヤーレベルが10を超えてから。初心者の間はそういった危険からは守られるのである。
「ここじゃ落ち着けないし少し移動しようか、周りの目もあるしな…笑」
周囲を見渡すと先ほどの死闘で初期資金を巻き上げられた野次馬が目を逸らす。流石にさっきの戦いを見た後で喧嘩を売ってくるような奴は居なかったようだ。
「あ、あの…!」
居るんかい…
そう思いながら嫌々振り返ると、
そこには先ほど偽勇者に絡まれていたお姉さんがいた。
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「私、ナミって言います!先ほどはありがとうございました!」
そう言ってがばっ!と頭を90度以上に下げるナミさん。
「ちょちょちょ、そんな大層なことしてないですから!気にしないでくれると助かります!」
何故かハルの視線が背中に刺さる。心なしかウカのしっぽも機嫌が悪そうだ。女の人に謝らせてるこの図がまずいか…?
「と言われましても助けていただいたのは事実ですし…何かお礼でもさせてほしいなって…」
「いやほんっとに大丈夫なんで!今後ああいうのに気をつけてくれればそれで!」
どんどん視線が鋭く冷たくなっている。怖いよハル、そんな視線飛ばす子じゃなかったでしょ!?
「あ、いた姉ちゃん!何してたんだよ〜 って誰?その人たち」
わたわたとしていると遠くから声が聞こえてきた。身長控えめ、ナミさんと似た明るめブラウンな髪色の、どこかキャラメイクが似てる気がする少年だった。
「俺はトーマ。ちょっとここでトラブルがあってね、もう済んだから安心して欲しい。 君は?」
「僕はナギ。そこの姉ちゃんの双子の弟だよ。もしかして姉ちゃんがなんかしちゃったの?」
「なんで私がしちゃった側なの!?お姉ちゃんそんなに信用ない…?」
「巻き込まれたのはお姉さんの方だから…笑」
可哀想なのでフォローしてあげる、実際巻き込まれた被害者は彼女だ。
「姉ちゃんいつもふわふわしてるから…いつもフォローしてるこっちの身にもなってよね?」
「う、ごめんなさい…」
「それはそうとトーマお兄さん、姉を助けてくれてありがとうございました!」
しっかりした弟さんみたいだ。天然なお姉さんとしっかり者の弟くん、かな?仲良さそうだし普段からこうなのだろう。
「まだ始めたばっかりでお礼できそうな事が少ないんですけど…どうしよう…」
「お礼なんていいから!勝手に首を突っ込んだだけなんだ。俺が対処したい理由もあったしね、だから気にしないでほしいな?」
お礼についてうんうん悩むナギくんとお礼なんて考えてなかった俺。話は平行線でまとまりがつかない。どうしたものか…
「資金はどうです?さっきの賭けでだいぶ増えてますし…」
「え、俺に賭けてたんです?」
「そりゃあトーマさんが勝つ事以外信じる事なんてないですからね、♪」
ふふっ、と大人っぽい笑みを浮かべるナミさん。
この姉ちゃっかりしてるなあ〜
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勝ち金全てを渡そうとしてきたが、あの時点で明らかにリスクであった賭けをしたのはナミさんであり、そこまで感謝されるような内容でもなかったので30000sだけ頂いた。
ちなみにこの世界の通貨の単位は
最後までぺこぺこ頭を下げていたナミナギ姉弟と別れ、今度こそと移動を開始した。
「まずは冒ギルか?」
「ん。定石。」
「えーっと、冒ギルですか?」
「あー、ごめん。冒険者ギルドのことだ。ここで冒険者登録する事で色々恩恵が得られる、ってストーリーなんだけど実質強制イベントみたいなものなんだよ。」
「冒険者じゃないと、この街出られない。」
「ウカは転生組って教えてもらったから理解できるんです。今更ですけど先輩も転生組ですよね?」
「う…そういえば言ってなかったっけかなぁ?」
「誤魔化せませんよー?」
「ハイ。転生組です… 特段言う事でもないと思ったんだよ。」
「これじゃあ頼ってもらおうと張り切ってた私が馬鹿みたいじゃないですかぁ…」(小声)
「ん、ごめん聞き取れなかった。なんて?」
「なんでもないです!先輩のデリカシーなし!」
めちゃくちゃ怒られた。なんで怒られてるのか察しがつかないあたりデリカシーがないのだろう。啓発本でも読んでみるか?
現実逃避もさておき、このままでは話が進まないのでなんとか方向転換を試みる。
「そういえば2人は仲良くなったんだな?」
「もー、今回は誤魔化されてあげます… いろいろ話してお友達になったんです! この先ウカともパーティ組みたいんですけど先輩良いですか?」
「トーマ。私もついていきたい。いい?」
「もちろん大丈夫、2人が仲良くなって俺も嬉しいよ。」
「むふ。ありがとトーマ。」
「パーティ結成ですね!」
晴れて3人パーティの結成であった。
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「ってことで仕切り直して冒険者ギルド行くぞー」
「おー!」「おー」
ノリがいいハルはさておきウカも乗ってくれるのは嬉しい。ほんとに一体何があったんだろうか?
疑問に思いつつも記憶を頼りに日本エリア人間族最初の街、【クリム】の冒険者ギルド支店に向かった。
余談だがエルフ族の始まりは【ワケバ】、獣人族は【エイグ】と若葉や卵を連想させる、と考察してる人もいた。クリムは赤ちゃんの赤からクリムゾン、とかなんとか言ってた人もいるが考えすぎだろう。考えすぎだよな?
と言いつつ俺自身ネーミングセンスはないので、いざお前が街に名前をつけろ、なんて言われた暁には何処かから名前をもじって安直につけてしまうかもしれない。人のことは言えないのだ。
「ようこそ!冒険者ギルド クリム支店へ!」
とかなんとか考えていたら冒険者ギルド クリム支店到着である。
街並みに合わせ中世ヨーロッパ風。如何にもゲームやアニメに有り体なザ・冒険者ギルド!と言わんばかりの外装だった。ここに来ないと話は何も進まない為少なくない数の人でごった返している。少しでも触った事のあるプレイヤーがその大半を占めているのだろう。もしくは案内してもらった
…なんだか感慨深いな。
この場所にこの人数が集まるのは3年振り。それ以降見る事は叶わなかった。
「トーマ。良かった、ね?」
「お互い様だな、」
ウカにしみじみしている事を悟られる。
恥ずかしいから顔は向けないようにしつつ、入口脇にいる案内の
「さて。冒険者になるにはクエストを1つクリアしなきゃ行けないんだ。アプデ前はこのクエスト1つがクリアできずに5割の人間が諦めた。」
「もう転生組って事隠すのやめたんですか?」
それは今いいよ…
「というか5割って! めちゃくちゃ難しいクエストなんですか!? 2人は大丈夫でしょうけど私自身ないですよ…?」
「あー、心配ないよ。そもそも5割のほとんどがクエストすら受注できなかったんだ。」
「クエストすら?」
「ん。そもそもここまで辿り着けない。」
そう。操作性に慣れることができずにそもそもこの距離を歩くことすら困難であった。様々な試行錯誤を経て、かつ当時の不親切なヒントを見つけ、ようやくここまで辿り着く必要があったのだ。
街からやっと出れる!と意気込んだら門番に止められるのだ。心が折れると言うものだろう。
その辺NPCも馬鹿ではないので聞けば冒険者になれば良いことも冒険者ギルドの場所も教えてもらえるのだが、そこに行き着くまでに生き残ったのが5割、という話である。なお最初のクエストで更に6割ほど消える。理由は言わずもがな操作性だ。
「ハルもアシストシステム使ってるんだろ?ならきっと大丈夫だよ笑」
「なら先輩を信じることにしますけど…困ってたら助けてくださいね、?」
せっかく始めてくれた貴重な初心者組だ。先陣切ったものとして後続は大切に育てていこう。願わくば楽しい時間になりますように。
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