第9話 好敵手と可哀想な人

side 晴乃


話はトーマが決闘をする数十分前まで遡る。



「終わったら呼びますから〜!」


ぶんぶん手を振りながらどこか納得していなそうな先輩の背を見送る。ごめんなさい先輩。この人とは2人きりで話しとかないとなんです。



「ん。話って、何?」


「もちろんトーマさんの事です。」


「だよね。トーマとは昔からの仲。」


「それはもう聞きました!そこじゃなくって…その…どのくらいの仲なのかなって…」


自分で聞いていて怖くなってくる。そういえば先輩彼女居るかとか聞いた事なかった…この人もしかして…?でも友達って言ってたし。それにもし彼女さんも同じゲームしてるんだったら私からの誘いOKしないよね?するような人じゃないと思うんだけどな。


思考がぐるぐる回る



「んー。何も聞いてないの?」


「えーっと、?」


「昔から遊んでた。ゲーム仲間。」


「ゲーム仲間…ですか。」


「そ。ゲーム仲間。」


なにか引っ掛かるような気もするけれど、これ以上掘り下げるのもしつこいかな。先輩もほどよくゲームしてるって言ってたしその時の縁なのかな?



「ハルはトーマの後輩?」


「そうですね、あんまりリアルのことを言うのもダメだと思いますけど、トーマさんにお世話になってます。」


「ふーん。そうなんだ。」


表情の変化も声のトーンの変化も少ないから分かりづらいけど少し不機嫌そう?


本当にゲーム友達…なんだよね?



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「ハルはトーマと一緒に遊ぶの?」


「そのつもりで私がAVOに誘ったんです、ウカさんはどうしてトーマさんと?」


「知る方法があったから。方法はヒミツ。」


「気になりますけどそれなら仕方ないですね…。」


知る方法…秘密にするって事は何かあるのかな?もしかして転生組?そもそも私自身のVRMMOの知識が乏しいためどう考えても答えには行き着けないだろう。今度先輩に聞いてみようかな。



「んー。どうしよ…」


1人脳内推理をしているとウカさんが困ったように呟いた。

感情は読みづらいけれど、どこか寂しそうに見える。もしかして、と思いつくが、間違ってたら余計なお世話だ。けど、一歩踏み出すならここしかない。



「ウカさんさえ良ければパーティ組みませんか?」


「ん、いいの…?」


「もちろんです!人数多い方が楽しいじゃないですか♪」


「じゃあ、お世話になる。」


「私とウカさん友達ですね笑」


「ハルも友達、?」


「ダメでしたでしょうか…?」


「んーん。友達嬉しい。」


首としっぽをぶんぶん振って少し嬉しそうにしてくれるウカさん。こっちも嬉しくなる。



「ハルもウカって呼んで。敬語も嫌。」


「うん。わかった!よろしくねウカ。」


「よろしく。」


私のAVOにおける初めてのお友達だった。



「けどトーマは簡単には渡さない、よ?」


…ライバルなのかもしれない。



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つい話が長くなってしまった。

先輩待たせちゃったなぁ…ちゃんと謝らなきゃ。

勝手にパーティ組む話になっちゃったけど昔からのお友達らしいしウカも元々そのつもりでワープポータルしてきたらしいから先輩もオッケーしてくれるよね?



「というかウカって転生組なんだよね?」


「ん、そう。でも戦闘は苦手。」


「んん?戦闘以外に出来ることがあるの?」


「ある。私は道具屋。」


「そういうこともできるんだ!?今回もするの?」


「ん、わかんない。」

「トーマがして欲しいって言ったら、するかも。」


2人の関係性が分かんないよ〜…


それでもこれだけは分かる。

先輩はさておきウカは絶対好意持ってる…



「でも戦闘専門じゃないとはいえ転生組でしょ?頼りにしてるからね!」


「んぅ?トーマは頼りにならない?」


「先輩のことはもちろんしてるけどー!」


「私もしてる。むふ。」


完全にペース持ってかれちゃう…恐るべしウカ。



「聞きたいこと聞けたしそろそろ先輩と合流しよっか?」


「さっきから連絡してる。でも返事ない。」


「この人数じゃ足で探すのも一苦労だよねー。」


「パーティ組んでおけば良かった。不覚。」


がっくしと肩を落とし耳をぺたんとさせるウカ。その耳どうなってるのかちょっと触りたい。



「とりあえず連絡つくまで散歩していい?この街並みもちょっと見てみたかったの!」


「ん。案内する。」


「ありがとー!」


私たちは街へと繰り出していった。



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しばらくウカと歩きながら中世ヨーロッパ味溢れる街を散策した。と言っても店とかには入らず外観だけだ、お店の中は先輩と見たいなぁなんて思う。


実際に現地を見たことはないがイメージ通りの街並みである。


「…?」


耳をぴくぴくとさせ何かに反応するウカ。



「どうしたの?何かあった?」


「あっちの方。ざわざわしてる。」


あっちの方。と指を差し教えてくれる。私には全然わからないけれど獣人族の特徴なのかな?


ウカに導かれるように手を引かれながら道を進む。

少し歩いて行先に人集りが出来ているのが見えてきた。ここまできてようやくざわつきが聞こえてくる。


なにはなんでも情報収集。外周の方にいた男性に声をかけてみた。



「あの、少しいいですか?」


「おっ?パーティのお誘いかい?こんな可愛い子達に誘われるなんて嬉しいなぁ、俺も転生組だからさ!なんでも聞いてよ!」


「違う。お呼びじゃない。」


「え? あ。すいません…」


鋭い言葉で終わらせるウカ。鋭すぎて一撃で心折っちゃってるよ…



「それで? なんの騒ぎ。」


「あぁ、転生組同士でこれから死闘するんだってさ。」


がっくり項垂れながらも教えてくれた彼は中心の方を指差す。

人混みの隙間から喧騒の原因となった本人達が見えた。


「しかもあっちのエルフの方が勇者ブレイなんだとよ。 あの子も運がねえなあ。」


あの人は〜…さっき私に話しかけてきた金髪エルフさんじゃん!あの人勇者ブレイって言うんだ、有名なのかな?



そしてそのエルフの目先には




…先程から連絡のつかない先輩がいた。

なんでそこにいるんですか…ッ



「しっかしあの転生組の子は勇者ブレイを知らんのかね…謝れば許してもらえたかもしれないってのに。」


「ん。可哀想。」


動揺なんて一切してないように見えるウカの口から聞き捨てならない言葉が紡がれる。



「可哀想って!先輩が負けてもいいの!?」


「んーん。可哀想なのはあっち。」


ウカの差す指の先にはエルフがいた。




「トーマの前でブレイを騙っちゃうなんてとっても運がない。」

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