第8話 後輩とケモ耳 巻き込まれる俺を添えて

猫耳と話してたら後輩が来ました。


ぱっと見リアルと背丈は変わらず、髪の色だけ綺麗なプラチナ色に変わっていた。元の素材が良い為とても映える。元よりそういうものだった、と言われても納得してしまいそうなほど似合っていた。



「ハル、お疲れ様。迷わなかったか?」


とりあえずは挨拶から、基本だよな。

心の中に住むプロデューサーも満足げにうなづいている。



「その女の人誰ですかって聞いてるんです!」


あわわわ…バッドコミュニケーション…



「えーっと…このh「私はウカ、トーマとはの縁。」


紹介の仕方に悩んでいるとウカが会話にカットインしてきた。心なしか語気が強い。



「そ、そうなんですか。私はハルって言います。トーマさんとは仲良くさせてもらってます!」


にっこにこの笑顔だが何処か声に圧があるように感じる。あれ?この辺寒くない?

ノンデリな俺でも流石に分かる。めっちゃバチバチしてるこれ。


俺がダブルブッキングしたからか…?やっちまった〜…



「昔からの縁、て言いますけど、どんな縁なんです?」


「トーマは私の、と、友達…」


語尾が萎んでいくかのようにか細くなっていったがちゃんと聞こえた。

なんとびっくり。ウカの口から友達と言ってもらえるとは思わなかった。言葉足らずというか必要以上に喋らない所は以前と変わらないが、私仲間作りません。みたいにツンツンしてたイメージがあったウカに友達と言われたのだ。頬がゆるむのも仕方がないと言える。


空気だけは冷え切っているのでなんとかにやつきを抑えなきゃ、とポーカーフェイスを保っていたはずだったのだがどうやらバレているらしく、ハルにめちゃくちゃじっとり睨まれた。



「先輩…なんだか嬉しそうですね?」


「とーぜん、トーマは喜んでる。」


「先輩に聞いてるんですけど!」


「いや、素直に友達って言ってもらえると思ってなかったからさ…!嬉しくて顔に出ちゃったんだ。」


こういう時は嘘をつかずに丁寧に謝るのが吉だ。誤魔化しても良いことなんて何一つないしどうせバレる。



「まったく先輩はもー…」


渋々飲み込もうとするハル。

そういえば黙ってしまったウカは?と見てみるとなんか俯いていた。なんとなーく耳が赤い気がするけどなんか怒らせるようなことでも言ってしまっただろうか。



「ウカ?俺なんかしちゃったか?」


「んーん、トーマはそのままでいい。」


「そーゆーとこですよ先輩…」


やれやれと何処か納得したようなウカと、全く全く、と呆れるハル。



板挟みというのも辛いものである。



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「ふぅ…先輩はちょっと席外してもらって良いですか?ウカさんと2人きりで話したいんです。」


「ん、トーマあっち行ってて。」



一息ついたかと思えば板挟みから蚊帳の外にランクアップ…いや、グレードダウンか?


兎にも角にもこちらに否応言う権利はなく、追い出されるように席を外すのであった。



「終わったら呼びますから〜!」


ぶんぶん手を振るハルに見送られ少し散歩する事に。

と言ってもこの辺で見るところなんてないんだよなあ。ストーリーを進める上で必要になるクエストを受注できる冒険者ギルドにはどうせこの後みんなで行く事になるだろうし二度手間だ。


ぷらぷらと行く宛なく彷徨っていると、ざわざわと人だかりができている箇所が見えた。野次馬根性よろしく、人だかりの外側にいた男性に声をかけてみる。



「すみません、なんかのイベントです?」


「ん?あーそういうのじゃないよ、むしろトラブルだね。転生組が強引にナンパしてるみたいなんだけど、相手が有名な転生組だから誰も強く言えないんだよ…」


ほほーぅ?有名な転生組か。

アプデ前AVOだって腐ってもVRMMORPGだ。十人十色いろんな人種がいた。誰も彼もがブレイやウカみたいに話の分かる相手じゃない。中には問題アリなプレイヤーだってもちろん居たし、知り合いにも居た。なんなら終焉龍攻略レイドに居た。


有名な転生組、ってなるとやはり1番に思いつくのはレイド組だ。その上で女の子が大好きな奴…残念ながら心当たりアリだ。


あいつは性格難あり女好き、と問題児だったが俺に懐いていてくれた可愛いやつでもあった。

よく言えば上下関係に厳しい体育会系なのだ。


迷惑をかけるような奴では断じてなかった気もするが…昔のよしみだ。面倒ごととはいえ間違っていることは止めてあげるのが旧知の間柄というものだろう。


人混みをなんとか掻き分け中心へと向かう。

確かに対人トラブルのようだ。エルフの男が女性の腕を引っ張り誘っている…と言うよりは強引に言う事を聞かせようとしてる。と表現するのが正しいか。



「なぁアンタ。転生組だからってやって良いことと悪いことがあるんじゃないか?」


「はぁ?なんだお前急に、ヒーロー気取りちゃんでちゅか〜イテェwww」


俺もタメ口で話しかけたとはいえ随分むかつく喋り方だな。この時点で旧知の中に該当する者は居なくなった。



「俺も転生組そっちがわなんだよ、見知った奴がだせえ事してたら見てらんないだろ?」


「お前みたいな雑魚覚えてねえよ!ヒーロー気取りが何言ってんだぁ?」


「いった…ッ」


どうやら下手に煽ったせいで高揚してしまったようだ。あの人に悪いことしたな…

しかしこの程度で沸騰するのか、この調子でよくアプデ前生き残れたよ。



「俺様は勇者ブレイ様だぞ!?雑魚がいきがってもキャリーされても到底辿り着けない頂点!ビビったらさっさとどっか行けやww」


は?

今こいつなんつった。



「お前が…ブレイ?そう名乗ったのか?」


「耳も聞こえねえのかよ最近のガキは〜w俺様がだよ!」


こいつはここで潰す。ブレイの名を穢すな。

お前がかたって良いような奴じゃないんだあいつは…



「…闘だ。」


「はぁ?怯えて声も出なくなっちまったか〜?www」


「決闘システムくらい知ってるだろ、賭けろ、お前の全てを。」


「おまww攻略組の勇者に挑むだぁ〜?www現実が見えてねえ様だから教えてやるよ!!!コール!決闘システム!」



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アプデ前から存在した決闘システム。

賭けられる要素は多岐に渡り、資金から装備、果ては経験値まで賭けられる。


そして雌雄を決するためのモード。死闘モード。

プレイヤーの所持する資金、装備、固定量の経験値と賭けられる全てを互いの同額分投じるモードである。


ここで問題となるのが同額分だ。

じゃあ初期状態の今じゃ痛手にならないじゃないか、と思うだろう。


AVOの経験値にはマイナス域が存在する。

固定量を払える訳がない為確実にどちらかの経験値はマイナス域に突入する。

モンスターを何体何十体狩れども、クエストをいくつクリアしようとも。

レベル1を抜けられないのだ。

いちMMOにおいてスタートダッシュは確実に失敗と言えよう。せっかくの転生組リードを失うどころかハンデがついてくるのだ。死闘とはその分の覚悟が必要になるモードと言えよう。



今回賭けられるのは固定経験値と資金。

相手はワープポータルを使ってこちらに移動してきている為その差額分が俺の手元には最悪残る形だ。



人混みが会場を作るかのように円形に広がる。

まるで十戒だな。なんて呑気な事を考えていると不意に声をかけられた。



「あの、私のせいでごめんなさい…」


さっき絡まれていた女性である。

明るめなブラウン色でウェーブのかかったロングの髪。歳上だろうか?面倒見のいいお姉さん、といった印象だ。

見た感じ控えめな性格のようで断れなかったのも無理ないなと感じた。



「ん?あー、全然気にしないでよ。昔馴染みを馬鹿にされたみたいで俺がなんとかしたかったんだ。」


「それでも…助けていただいたのでっ。でも大丈夫ですか?相手の人有名みたいですし…」


あのほら吹きエルフが名乗った時に周囲がざわついた事で有名な事に気づいたのだろう、それで心配してくれてるのか。



「万一俺が負けたらすぐこの場から離れなね、下手に巻き込まれることないよ。それに負ける気は全くと言って良いほどないからさ、安心して見てて欲しいな。」


「で、でも…!」


「おいコラヒーロー気取り!なぁにカッコつけてんだぁ?」


「じゃ、いってくるよ。」




どうやらさっさと潰されたいようだ。

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