第15話 アバターを見に行こう

「お、来たな」


「悪いちょっと遅れた」


「気にしないでナツ、僕たちも数分前に集まったばかりだし」


 以前ヒナと初めて会った時と同じワールド、落ち着いた雰囲気が部屋のあちこちから溢れている薄暗い部屋に俺は謝罪の言葉と共に入室する。部屋に入るとマルとヒナがこちらに手を振っているのが見えた。


 ヒナと出会ってから1週間ほどが経過した。普段は一人で綺麗なワールドを見て回ったり、タチさんと一緒に遊んだり雑談したりしている俺のVRT生活だったが、そこにマルとヒナの二人と一緒に遊ぶと言う時間が入り込んできた。

 

 二人の時間を邪魔するのは申し訳ないなという思いはあるのだが、リアルでもよく顔を合わせる人と遊べるのはとてもありがたいため時々お邪魔させてもらっている。そんなある日……というか今日の事である。


「ナツもそろそろビギナー

ランクになるだろ?だから今のうちに色々アバターを見といた方が良いと思うんだよ」


「あ~確かにそれはあるかも」


「てことで今日アバター見に行くぞ。返事はイエスかサーか半分だ」


「小学生が出すクイズのやつやめろ。逆に半分って答えた場合はどうなるんだよ」


「四捨五入してイエスになる」


「じゃあ全部イエスじゃねぇか」


 ということで今日はアバターを色々見に行くことになった。俺からしてみれば断る理由が一つもないためマルの提案を快諾する。流石マル、彼女持ちなだけあって気遣いが出来て優しい。まぁ彼女と言っても性別は男なのだが。

 

「よし、ナツも来たことだしそろそろ行くとするか~……ってお?」


 マルがそう言うと同時に画面の下あたりに「タチさんがワールドに入ってきました」という通知が表示される。


「タチさんだ」


「ちょうどいいな、タチさんも一緒に連れてくか」


「タチさん?」


「タチさんはナツの最初に出来たフレンドさんだ」


「へ~そうなんだぁ」


「こんばんは~」


 話をすれば何とやら、タチさんが手を振りながらこちらへとやって来た。


「こんばんはタチさん」


「こんばんはナツ、それとマルもこんばんは~」


「こんばんはタチさん」


 タチさんは俺とマルに挨拶を済ませるとすっとヒナの方へ視線をスライドさせる。


「初めましてヒナさん、タチって言います。よろしくお願いします」


「初めましてタチさん、ヒナって言います。こちらこそよろしくお願いします」


「ヒナさんって女性の方?」


「ううん、僕は男の子だよ。ちなみにボイチェンではないよ」


「え、両声類!?」


 さすがタチさん、流れるように挨拶をして流れるように会話を展開し始めた。何だこのコミュ力モンスター……俺にもそのコミュ力をいくらか分けて欲しいわ。


「これ地声なんです、いえい」


「地声なんだ!久しぶりに女性の人とお友達になれるかなって思ったけどすごいねヒナさん……ってその指輪は……」


 顔の近くでピースしたヒナの左手に違和感を感じたタチさんはそのことについて言及する。


「あ、僕ここにいるマー君…じゃなくてマルと苺なんですよ」


「どうも初めまして、ヒナと苺してるマルです」


「あっ初めまして……タチって言います」


「いや二人とも普通に挨拶してたでしょ……」


 急に記憶を失くした二人に俺はツッコミを入れる。言ってから気が付いたがタチさんに対して敬語が崩れてしまったことに後悔の念を抱かざるを得ない。マルが初めましてとか変なボケをしなければこんなことにはならなかったというのに。おのれマル、許さんぞマル。


「それにしても苺か……レモンしない様にちゃんとヒナさんの事大切にするんだよ~?」


「そこはもう任せてくださいよ」


「……お話の所悪いんだけどレモンって何です?」


「苺の反対、つまり別れるってことだな」


「あー……完全に理解したわ」


 どうやらこの世界では別れることをレモンすると言うらしい。果物で人との付き合いを表現するなんてとても面白い文化だなぁと思いました(小並感)。


「タチさん、今から俺達アバター巡りの旅に出るんですけどもし良かったら一緒にどうです?」


「いいね、そろそろ夏がビギナーランクに上がる頃合いだしね」


「そうなんですよ、それで今のうちに見て回っとこうと思いまして」


「邪魔じゃなかったら混ぜてもらおうかな」


「邪魔なんてことないよヒナさん、一緒に行きましょ?」


「ありがとうマル、ヒナさん!」


 すごい、ここにはコミュ力高い人しかいないんだ。なんか俺無しでポンポンと会話が進んでいく。どうやったらそんなにスムーズに話が出来るのか教えて欲しい。1対1の会話ならともかく複数人の会話になると全く参加できないのはきっと俺だけじゃないはず。きっと今頃世界のコミュニケーションよわよわ勢が首を縦にぶんぶんと振ってくれているだろう。


「それと私の事はタチでいいよ、その代わりと言っては何だけどヒナって呼んでもいい?」


「もちろんだよ、タチ……たち……おたちって呼んでもいい?こっちの方が可愛いから」


「好きに呼んでいいよ~」


「うん、じゃあおたちで!」


「よし、じゃあ二人の距離も縮まったことだし早速アバター巡りしていきますか~」


「「おー!!」」


「……おー」


 コミュ力が高い人ってすごいんだなぁ。 なつを

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