第14話 お昼ご飯
「はい、これマー君の分」
「ありがとうひな、まじで今日一日ひなの弁当の事しか考えてなかったわ」
「もう…大袈裟だよ」
「まじだって」
なーに自然な流れでいちゃつき始めてるんだこいつらは。付き合い始めたカップルのそれを目の前で見せつけられているこっちの身を少しは考えて欲しい。
幸せオーラを周囲にまき散らしながらイチャイチャし始める二人に俺は苦笑いを浮かべる。男同士でこれをしていると文面だけで見るとちょっとあれだが、日向の容姿がどこから見ても美少女なためまるで違和感がない。これが男の娘パワーですか……大したものですね。
「うし、それじゃあ食べるか。いただきまーす」
「いただきます!」
「……いただきます」
やけにテンションが高い二人に俺は付いていくことが出来ず、一人静かにいただきますの挨拶をする。普段と変わらないはずなのに今日の玉子焼きがやけに甘く感じられたのはきっとこいつらのせいだろう。人前でいちゃつくな人前で。
それからしばらく二人のいちゃつきを眺めながらご飯を食べ進めていく。流石にあーんまでは行かなかったが二人の仲睦まじいやり取りを見ているととても悲しい気持ちになりました。甘かったはずの玉子焼きも今ではすっかりしょっぱくなって……あ、あははは……しんど。
「そういえば気になってたんだけど二人はいつから付き合ってるんだ?」
何とか流れを変えるために話題の種を蒔こうと試みるも、中々話題が思い浮かばず結局二人の馴れ初めを聞くことになってしまった。内容が内容なため惚気話を聞かされることはほぼ確定しているが、二人がいつ出会ってどのように仲良くなっていったかは気になるためここは甘んじて受け入れるとしよう。どうせ俺の心が傷つくだけだ、問題はない。
「大体1年半くらいかな?」
「1年半……」
「出会ったのが2年前で付き合い始めたのがそのくらいだ。な、ひな」
「うん、ちょうどそのくらいだね」
かなり長い付き合いに俺は驚きの声を漏らす。
「俺がVRT始めたのと同じくらいにひなも始めて、同期だねって感じで仲良くなったんだよ」
「ほえ~」
出会い方はとても健全だった。出会ったのが2年前だから出会って半年で付き合い始めたのか……何ともリアルな時間だな。
「それで半年経ってからマー君の方から告白して来たんだ。あの時のマー君は可愛かったなぁ」
「良いって。ナツに色々聞かれるの普通に恥ずかしいんだが」
「ふふ、じゃあ話さないでおいてあげる」
いやさっきまで普通にいちゃついてた人間が今更何を恥ずかしがってるんですかね。やばい、だんだん口の中が甘くなってきた……俺そんなに甘い物得意じゃないんですけど。
「……ちなみになんですけど同じ学校になったのは偶然ではなかったりする?」
「お、察しが良いなナツ」
まさかと思って口にした言葉だったがどうやら正解だったらしい。親友があまりにも青春を謳歌している件について……なんて悲しいラノベタイトルなんだ。
「出会ってからリアルの話をするようになって実は同年代の人だってなったんだよ。それで高校受験どうなの?みたいな話をしたらひなもこの学校に通えることが判明して今に至る」
「通える」
「通学に1時間かかってます。いえい」
ピースした手を頬に当てにこりと笑う日向。何だこの可愛い生き物は。これが人類の最高到達点だって言われても全然納得してしまうくらいには破壊力がすごいんだが。
「本当にいつもありがとうひな」
「んーん気にしなくていいよ。マー君と会えるんだからこのくらいどうってことないよ」
「俺もひなに会えて嬉しいよ」
「スムーズにいちゃつくのやめてくんない?……あ、ごめん何でもない」
やべ、つい普段マルと話す感じで喋ってしまった。出来るだけ敬語を使おうと思っていたのにあまりにも自然にイチャコラし始めるからつい口が勝手に。
「ちなみにこれが普段のナツだ」
「いいね……僕にもそっちで喋ってよ!!」
「いやそれは……」
初対面……ではないけどそこまで関係値が進んでいない人にため口で話すのは憚られる。
「どうせこれから一緒に行動する時間増えるんだし気抜けた感じで喋った方がいいぞ~」
「それは一体どういう?」
「こうやって顔合わせも済んだわけじゃん?なら2人で食べるより3人で食べた方が楽しいだろ」
「いや、それは二人に申し訳ないから──────」
「気にしなくていいよ?僕もみんなで食べた方が楽しいと思うな」
普通恋人同士二人でいちゃつきたいって思うものじゃない?なんでこの二人は俺とも一緒に居たいって思ってるの?ありがたいことだけど別に気を遣わなくても良いんだよ?
「ひなもこう言ってるし大人しく俺らと一緒にご飯食べようぜ」
「……じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
ここで二人の優しさを無下にするなんてことは出来ず俺は彼らの提案を承諾する。俺のことをちゃんと考えてくれてるんだなぁと嬉しい気持ちになったが、それと同時にどこか申し訳ない気持ちになる。俺なんかが二人の邪魔をしてよいのか、俺が居なかったら二人はより楽しい時間を過ごせるのではないか。そんな後ろめたさ全開の感情が頭の中で渦を巻く。
「……どうかしたかナツ?」
「え?ああ、いや。何でもない」
……いや、やめよう。どうせここでこんなことを考えても無駄なのだから。今は何も考えず二人の会話を聞くことに集中しよう。
その後俺達は午後の授業を告げるチャイムが鳴るまでくだらない話に花を咲かせるのだった。
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