第13話 世界は本当に狭いんだなぁ
「一応……初めまして、夏目悠って言います。こちらこそよろしくお願いします如月さん」
「そんなに堅苦しくなくていいよ、僕のことは気軽に日向って呼んでくれると嬉しいな」
「善処はします」
「だーめ。はいリピートアフタミーひ・な・た」
「……日向」
「うん、敬語もいらないからフランクに接してくれると嬉しいな」
何というコミュ力……そして何という顔面偏差値の高さ……!!VRTの世界のみならず現実世界でも可愛いとか普通にチートだろ。てか本当に男ですかって聞きたくなるくらい女の子にしか見えないんですけど。
「まぁそういう訳だ。俺と接するみたいにとまでは行かなくとも軽い感じで接してやってくれ」
「……頑張ります」
「よろしくねナツ」
正直に言うと自分の脳がこの状況を飲み込むためにフルリソースを吐いているため、敬語云々はどうでもよくなってしまっている。よし、一旦落ち着こう。そして情報をいったん整理しよう。
まずマルはVRTの世界でヒナさんとお付き合いをしている。そしてヒナさんは女の子っぽい声をしている男の子である。うん、ここまではちゃんと飲み込むことが出来た。よしよし……で、次だ。
ヒナさんはこの学校の生徒であり、しかも同年代の男の子だったと。もうこの時点で頭にクエスチョンマークが浮かんでくるレベルだわ。で、それに飽き足らずなんとヒナさん……日向は女の子が羨む程の可愛さを有していると。あれか、所謂男の娘ってやつか。創作物にのみ生息する幻の生き物かと思っていたがまさか実在していたとは……。
「じゃあ場所移すか。ここだと目立つし」
「そうだね」
「……」
「ん?どうしたナツ?」
「いや、二人は本当につき……じゃなくて苺なんだなぁって」
ゴホッゴホッ!?!?
「何だよそれ。早く行くぞ~」
二人の距離感が近い近い。本当のカップルみたいな距離で話をしたり目を合わせたりするマルと日向に俺は小学生並の感想を述べ教室を後にした。
はぁ……はぁ……む、むせて死ぬかと思った。
私は咳き込みながら自分の喉の調子を整えていく。
苺?今苺って言った?私の聞き間違いじゃなかったら苺って言ってたよね!?
私を殺しかけたのはつい先ほどまで隣にいたナツ達の会話である。私の耳が正常に機能していたのであればマルと如月君はVRT上でのカップル……苺らしい。しかも二人のあの感じを見ているとVRTの世界でイチャイチャするだけではなくちゃんと現実世界でのお付き合いもしているのだろう。
他人の苺を間近で見る日が来るとは……というか苺がおんなじ学校の生徒でしかも同年代の子ってどんな確率なの?普通にすごすぎてびっくりなんだけど。
苺になり、現実世界でも会うという話はよく聞く話だ。仲良くなった苺はVRT以外でも距離を縮めたい、関係をより深いものにしたいと現実世界でも関係を持ち始める。しかし現実世界で会うというのは大きなリスクを伴う行為なのである。
VRT上では可愛いアバターでイチャイチャできるが、現実世界ではアバターなんてものは存在しない。普段とは大きくかけ離れた容姿の苺と会った時にそれを受け入れ愛することが出来る人はそんなに多くないんだとか。さらにVRTだとちゃんとコミュニケーションを取れるが現実世界だと上手く喋ることが出来ないなんて人も稀ではない……だって私がそうだからね!
とまぁ現実世界でも恋愛関係に持っていくというのは中々ハードなのである。しかし先ほどのマルと如月さんは違った。というかあれは如月さんがずるいわ。だって可愛すぎじゃない?女の子みたいな男の子がいるとは聞いてたけどあれは女の子顔負けだよ。最初見た時は女の子かと思ったよ。
人形の様に整った顔立ちにぱっちりとした瞳、アニメから出てきたかのような可愛い声にキューティクルばっちりの艶やかな髪。天は二物を与えずというのはやはり嘘だったのだ。なんだあの男の娘は、めちゃくちゃ推せるんですけど。
それにしてもまさかVRT《あっち》の世界で付き合ってる子が同じ学校の生徒だなんて……世界って狭いんだなぁ……。
先日ナツに言った自分の言葉を思い出す。あれは自分が隣の席にいる橘伊織であるのだと匂わせるための発言だったのだが、まさか別の方向で作用するとは思ってもいなかった。
「……世界って本当に狭いんだなぁ。」
私は誰にも聞こえない小さな声でぽつりと呟いた。
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