第9話 銃を撃ってみよう
「さてと……今日はどこに行こうかなぁ~」
VRTの世界に入った俺は以前紹介されたポータルワールドにて遊びに行くワールドを探していた。このポータルワールドはとても便利で今開催されているイベントワールドはもちろん定番のワールドやその他幅広いジャンルのワールドを検索することが出来る。
さらにこのワールドはありがたいことに日本人向けに作られているため表記されている文字のほぼ全てが日本語。これで英語がよわよわな俺でも安心してワールドを探すことが出来る。
「これも一人のユーザーが作ったって考えると本当にすごいしありがたいよなぁ」
感謝の気持ちを口に出しながら俺はワールドの検索を始める。
今日マルは他の人と遊ぶ予定があるらしく一人でVRTを遊ぶことになった。どこか交流用のワールドに行って新しくフレンドを増やすというのも悪くはないのだが、VRの世界に降り立った時からずっとやりたいと思っていたことが一つだけある。それは──────
「お、あるある!」
この世界で銃を撃ってみたい!!
射撃訓練場のような場所が描かれたワールドを見つけ、俺は喜びの声を漏らす。
PCを買ってからというもの、俺は基本的にFPSのゲームしかやってこなかった。難しさと面白さ、そしてかっこよさとちょっとの可愛さを含んだ最高のゲーム、それがFPSなのだ。そんなFPSをやっていれば誰しもが一度は「本物の銃を撃ってみたいなぁ」と思う事だろう。
しかしありがたいことに日本はとても安全な国であり、銃に触れる機会が全くと言って良いほどない。そのため海外に行って銃を試すくらいしか方法が無い、しかし俺は英語をしゃべることも出来なければ海外へ行くためのお金があるわけでもない。
そこに現れたのがこのVRTだ。この世界は現実に近しい部分が多々含まれるが現実とは異なる部分も多くある。こう聞くと一見悪いところという風に思われてしまうかもしれないが、それは大きな間違いである。
今回の場合で言うと重さや反動など銃を撃つ時に考慮しなくてはいけない所を考えなくても銃を撃つ体験が出来るし、わざわざ海外に行かなくても銃を撃つという体験を出来る。現実と違うが故に色々な体験を自分の部屋から体験することが出来るのだ。かがくの力ってすげぇ~!
「さてと……ってタチさんだ」
どのワールドに入ろうか悩んでいるとタチさんがこのワールドにやって来たという通知が表示される。自分の今いるところが入り口から一番離れている場所だったため、広場のような少し開けた場所へと移動する。
「あ、やっほーナツ」
「どうもですタチさん」
少しするとタチさんが手を振りながらこちらに近づいてきた。案内してからずっと気に掛けてくれるなんて……なんて優しい人なんだタチさんは。
「あ、今日はマルさん一緒じゃないんだね」
「今日は他の人と遊ぶ予定があるらしいです」
「そうなんだ。一人でここに居るってことはナツは良いワールドを探してたって感じかな?」
「銃を撃ってみたくてそれっぽいワールドを探してる途中でした」
「ほへ~ナツは結構物騒なんだねぇ」
俺の言葉を聞いてタチさんは揶揄うように指を差してくる。
「元々FPSやってた人間ですからね」
「FPS出身の者だったか」
「どうです?タチさんもやりませんか?」
「無理無理、難しすぎて1時間も経たずに辞めちゃうよ」
しれっと勧誘してみたがタチさんは困った表情を浮かべながら手をぶんぶんと横に振る。こうして見るとタチさんのアバターってすごい表情豊かだなぁ……これも改変の力ってやつなのかな?
「でもそうだなぁ……銃を撃ちたいならおすすめのワールドがあるけど一緒に行ってみない?」
「え、めっちゃ行きたいです!」
「おっけ~ちょっと待ってね」
少ししてからタチさんによってポータルが作られる。ワールドの名前は「ゾンビサバイバルゲーム」サムネイル的にもおそらくゾンビを倒すゲームなのだろう。
「あのちなみにこれホラー要素ないですよね?」
「うん、そこまでホラーじゃないよ?目の前にゾンビが来たときはちょっとびっくりするけど」
「なら大丈夫ですね」
「もしかしなくてもナツはホラー苦手?」
「大嫌いですね」
「ふーん、良いこと聞いちゃった」
ニヤリと笑ったタチさん、その表情は「私は今よからぬことを考えています」と分かりやすく教えてくれていた。
「あのタチさ──────」
「じゃあしゅっぱーつ!」
「ちょまっ!」
タチさんに手を伸ばすも自分の画面には「タチさんがワールドを離れました」という表記が出てくるだけだった。……変なことにならなければ良いなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます