第6話 ワールド巡り

「お、いたいた。よっすー」


 サイトからでもフレンド申請は出来るのだが、どうせなら待ち合わせみたいなことをしようという事で俺とマルは時間を指定し、TFJに集まっていた。


「ういー……ってマルのアバターめっちゃ可愛いな」


「だろー?結構改変頑張ったからな。そういうナツはエトワちゃんか、やっぱ可愛いなぁ」


 目の前に現れたのはまるでアイドル衣装のような煌びやかな服に身を包んだツインテ―ルの白髪美少女withケモ耳and尻尾。「可愛いだろ」と自慢げにしながらその場でくるりと回る姿は本当にアイドルの様に見えた。


 リアルの友人がこんな美少女になるとはなぁ……というかこいつもタチさんみたいにフルトラッキングなんだな。流石人にVRを進めるだけのことはある。


「ちなみに改変って何?」


 聞き馴染みのない言葉に俺は首を傾げる。


「あぁ……ビギナーになればアバターをアップロード出来るようになるのは知ってるよな?」


「うん、この前ここで見たな」


「いいね。で、そのアップロードしたアバターをいじることを改変するって言うんだよ。例えば髪色とか瞳の色をいじったり、着せ替えしてみたりとかな」


「へぇ……そうなんだ」


「まぁいずれお前も改変する時が必ず来るさ……それよりちゃんとこの子のことをアバターと言ったのは偉いな。ナツのことだからスキンとか言うかと思ったんだけど」


「さっきZ見てたらそれ関連のツイートが流れてきたからな。流石に気を付けようってなったわ」


 お昼寝から起きた時に何気なく見た初心者に対してのお気持ちツイートに俺の心臓は針でつつかれたような気持ちになったのだ。この世界ではスキンという言葉は封印しようと思います。


「うん、この世界にも警察()はいるから気を付けた方が良いな」


「そうする。それに郷に入っては郷に従えって言葉もあるしな」


「そういうこった。よし、じゃあそろそろ行くかぁ」


「おっけ~……ってタチさんだ」


 そろそろワールド案内の旅に出ようとしたその時、視界の端に「タチさんがワールドに入りました」と表示される。それからしばらくすると水色の髪をした美少女がこちらへ向かってくる。


「やっほーナツ、インしてたから様子見に来たよ」


「どうもですタチさん、この前はありがとうございました」


「いいよいいよ、初心者に優しくするのは当然のことだからね。それで……」


「ああ、こいつは俺のリア友です。今日は色んなワールドに連れてってもらう予定なんですよ」


「どうも、うちのナツがお世話になりました。マルって言います、よろしくタチさん」


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますねマルさん」


 ……何だろう、この親と先生のやり取りみたいな感じは。普通に気まずさを感じるから辞めて欲しい、それと俺はマルの家の子になった覚えは微塵もない。


「あ、もし良かったらタチさんも一緒に来ます?」


「え、良いの?邪魔じゃなかったら混ざりたいかな」


「大歓迎っすよ、うちのナツと仲良くしてやってください。こいつ友達作るのあんまし上手くないんで」


「失礼だぞ……事実だけど」


 確かに人とコミュニケーションを取るのは得意ではないがそこまでひどいものではない。話しかけようと思えば離すことは出来るし、先生からの連絡事項を一言一句違わずに伝えることだって出来る。……べ、別にコミュ障って訳じゃねぇし!


「それじゃあワールド巡りの旅にレッツゴー!」


「おー!」


「……おー」


 やけにテンションの高い二人に連れられ、俺は様々なワールドに足を運んだ。山の頂で満天の星空を眺めることのできる世界や、燦燦と輝く太陽の下で欧州の港町のような場所を散策する世界。そして今の季節にぴったりな桜が楽しそうに踊っている神社など様々なワールドを探検した。


「すごいな……まるで本物が目の前にあるみたいだ」


 現実のそれと遜色ない綺麗な光景に俺は息を呑む。現実では中々見ることが出来ない景色、それを実際にこの目で見ることが出来ている。この世界は仮想現実で、現実とは少し……いや、かなり違うとは分かっている。それでも今目の前に映る絶景が現実世界の物であるかのような感覚を覚える。


「だろ?俺も最初の頃はめちゃくちゃ感動したよ」


「私もこの世界で星空を見た時は綺麗すぎて1時間くらい眺めちゃってたからね」


 この世界に感動するのは誰もが通る道らしい。けどそれは仕方のない事だと思う、だってこの世界は本当に綺麗だしすごいのだから。


「これを1プレイヤーが作ってるって考えると猶更すごいよなぁ……」


「え、まじ?」


 マルの言葉に俺は大きく目を見開く。


「そうだよ、このVRTの世界にあるワールドのほとんどはプレイヤーが作ったものなんだ。綺麗な星空も、ギラギラと輝く太陽も全てプレイヤーが作ったもの。ちなみにTFJも有志の人達が作ったものだし、私やマルさん、そしてナツのアバターなんかもプレイヤーが作ったものなんだよ?」


「ま、まじかよ……」


 タチさんの口から出た衝撃的すぎる内容に俺は乾いた笑いが込み上げてくる。仮想現実ここにある世界も、道具も、アバターも、全てがプレイヤーの手によって作られたもの?そんなことを言われて驚かない人間がいるだろうか。


「この世界は何でもあるし、何でも作れる。もちろん多少のルールはあるけどそれさえ守れば本当になんだって出来ちゃうんだ。素晴らしい世界だと思わない?」


 タチさんがにこりと笑いかける。自分の腕や太ももに鳥肌が立っているのを感じる。先ほどの乾いた笑みは徐々に様相を変えていく。驚きのあまり機能が一時停止していた感情が一気に仕事を再開し始める。


 やばい……VRの世界めっちゃ面白いかも……すげぇワクワクする!


 VRTの世界に踏み入れた俺の足はゆっくりとその沼に引きずり込まれていくのであった。

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