第3話 タチさん
「どうも~こんばんは~」
そう挨拶をしながら手を振る美少女。現実世界では中々見かけることの無い水色の長髪と瞳、バトルアニメに出てきそうなかっこいい衣装を身に纏った美少女を見て、俺は自分がアニメの世界に迷い込んだのではないかという錯覚を覚える。これが仮想現実、科学の力ってすごいね……。
というか女性の方……?その美少女のアバター使ってて声も可愛いとか……もうアニメの世界じゃん。
「は、初めまして」
俺もとりあえず手を振って挨拶を返すことにする。この一言だけで俺のコミュニケーション能力の低さが窺える。どもったけど声裏返んなくて良かった……。というか待って!?足動いてる!!
何と目の前の美少女の足は俺と違い滑らかに動いているのである。……す、すごい。めちゃくちゃ可愛いんですけど!?
「初心者さん……だよね?」
「そうです、ついさっき始めたばっかです」
「おー!いいね~。どう?VRTの操作方法とかはマスター出来た?」
「はい、ある程度は……このワールドがあって本当に良かったです」
「ね。私も最初はこのワールドにお世話になったよ」
……VRってすごいな。
目の前で可愛いキャラクターが動き、話しているのを見て俺は何度目か分からない感動を噛みしめる。アニメや漫画……二次元の中でしか動かないような可愛いキャラクターが本物の人間の様に動いているのを見ると感動するし、語彙力がどんどんなくなっていくのを感じる。オタクの俺にはこの光景があまりにも衝撃的なのだ。VRってすげぇ(n回目)。
「あーそういえば自己紹介がまだだったね、私はタチって言います。普段は喋んないんだけど今日は珍しく喋ってみました。よろしくね」
「ナツメグです、よろしくお願いしますタチさん。ちなみに普段喋んないって言うのはどういう?」
「無言勢って言うんだけど、ペンとかテキストチャットを使ってコミュニケーションを取るの。音声認識を使ってお話する人もいるんだけど私は前者の方だね」
「そうなんですね……タチさん声綺麗だから普通に喋れば良いと思うんですけど」
「……パブリックで話すとすぐに出会い厨みたいな人がわらわら寄って来るから普段はあんまり喋らないようにしてるんだよね。お友達になりませんか?とかSNS交換しましょうとか。流石に初対面でプラベに誘われた時は笑っちゃったよね」
パブリックにプラベ……さっき書いてあったな。確かパブリックが誰でも入れるワールドの設定でプラベが招待を送った人限定の部屋だったはず。確かにFPSやってる女の子がvcでダル絡みされるとかよくある光景だし……こういう所はVRでも変わんないのね。
「良いんですか?もしかしたら俺も出会い厨かもしれませんよ?」
「出会い厨だったらもう既にフレンドになりましょうとか言ってきてるし、それにアバターを変えてすごく喜んでる初心者には優しくしないとでしょ?」
……すごく良い人なんだけどアバターを変えて感動してるとこ見られたのはすごく恥ずかしいから何とも言えない気持ちだ。多分上京してきた田舎者が現地の人に親切にされた時ってこんな感じなんだろうなぁ。
「このゲームは自由度が高い反面、最初の頃は何をすればいいか分からないからね。初心者にはちゃんとこのゲームの遊び方を教えないと挫折しちゃうんだよ」
「自分もついさっき挫折しかけましたよ。最初のワールドからどこに行けば良いんだ……って」
「あー……最初のワールドにあるポータルは海外の部屋に飛ばされちゃうからね。あそこに入っちゃって日本人居ないじゃん!ってなる人も結構いるみたいだよ」
あのポータルに入らなくて良かった……。
タチさんの話を聞いて俺はそっと胸を撫で下ろす。あそこに入ってたら多分俺VRTやめてただろうなぁ……まじで直感に従って正解だった。
「あ、そうだ。……よし、もしよかったらどう?」
ピコンという電子音と共に画面の下に「タチさんからフレンド申請が届きました」という通知が表示される。
「え、こちらこそ良いんですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
「こっちこそよろしくね」
空白だった自分のフレンド欄にタチという名前が表示される。初めて出来たフレンドに俺は何とも言えない気持ちを覚える。
「たくさんフレンドを作るとランクが上がりやすくなるからこれからたくさん友達を作っていこうね」
「が、頑張ります……」
「よし、じゃあここからは初心者案内と行こうか。と言っても時間にも限りがあるし今日はこのワールドの残りと1個便利なワールドを教えて終わりにしようかな」
「お願いしますタチさん」
「任せてよナツメグさん」
タチさんの言葉に俺はなんだかむず痒い気持ちを覚える。自分で付けた名前だけどナツメグさんって呼ばれると何とも落ち着かないな……。
「ごめんなさいタチさん、嫌じゃなかったら何ですけどナツって呼んでもらっても良いですか?ナツメグって呼ばれること中々なくて落ち着かないんですよね」
「分かった、じゃあナツって呼ぶね。私のことも好きに呼んで良いからね」
「しばらくはタチさんって呼ばせてもらいます」
「おっけー。じゃあ行こっか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます