第13話

けれど、内情は、あの男たちが言ってた通りで、啖呵のようにはいかないのである。


 さっきの男たちの言葉でも分かるように、うちは、大通りを入ってすぐのところで『椿』という老舗の料亭を営んでいる。


 去年までは、両親が営んでいたのだが、年末に母が突然急性心不全で他界し、それからは父と兄が一緒に切り盛りしていたのだが。


 その父も、先月くも膜下出血という大病に倒れ、現在入院療養中で。幸い手術も成功し、命に別状はなかったものの、まだ退院の目途さえ立っていない状態だ。


 昔から長年勤めてくれている板前さんや女中さんにアルバイトにと、なんとか皆で頑張ってはくれているのだけれど。


 看板女将だった母も居なくなり、父も不在ということで、なかなか厳しい状況が続いている。


 そのうえ、運が悪いことに、昨年の春に改装してリニューアルしたばかりで、その返済もあり、父の入院費も払うのが厳しいという有り様で。


 先月から、私が副業をせざるを得ない状況に追い込まれていたのだった。



 現在、私と兄は、居間の平机を挟んで向かい合って顔を突き合わせて座っているのだが……。


 兄は、平机に突っ伏して、未だに自分のしでかしたことを嘆いて、頭を両手で抱えたまま項垂れてしまっている。


 昔から、長男ということで、なにかと大事に育てられてきた、箱入り息子である兄は、真面目で心根が優しく、裏を返せば、人に騙されやすかった。


 だからきっと、今回も騙されたに違いない。そうは思いながらも、兄を責めても現状は変わらないから、頑張るしかない。


 私は、なんとか兄にハッパをかけようと大きな声を放った。


「もう! お兄ちゃんっ! いつまでメソメソしてるつもり? こうなちゃったもんはしょうがないじゃん。私も明日からバイト増やしてもらうから、お兄ちゃんは親戚中駆け回って、お金の工面して、なんとかこの危機を乗り越えるしかないでしょっ。ね?」


「そ、そうだな。分かった。明日からなんとか頑張らないとな」


 こうして、私たち兄妹の、ちっとも華々しくはないが、怒涛の日々への幕は切って落とされたのだった。

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