1. 謎の小劇団 ④

 二人の手には茶髪のカツラが握られていた。

 スポーツ少年のような爽やかな男の子と、見た目はおとなしそうな髪の長い女の子だ。

 あの二人、見るからに変わっている。不思議な空間を、僕は黙って観察していた。

「それにしても、あのいじめっ子の顔見たか? 焦ってたよな?」

「うんうん! 私たちの演技に飲まれてたって感じよね」

 演技? 二人は演技をして、須藤君を助けたってことか? あの緊張感を、演技で出せるなんて。

 どうしてそんなことができたのか……僕は開いた口が塞がらないでいた。

「ところで、さっきからそこの陰で見てる君! 隠れてないで出てきなよ!」

 ギクッ! 男の子の方が、僕に向かって声を飛ばしてきている。きちんと木の裏に隠れていたのに、僕の存在に気づいていた? 明らかに僕の方を見ているし、間違いない。汗がダラダラ流れてきた。

 でも、体が動かない。この木から飛び出たら、僕の姿をあの二人組に晒してしまうことになる。

 いじめられているところを助けられなかった僕の姿は、誰にも見られたくない……。

「ねぇ! 君のことだよ!」

「うわぁあ! びっくりした!」

「あ、ごめんごめん! 聞こえてないのかと思って!」

 いつの間に近づいていたんだ……男の子が急にひょこっと顔を出してきたから、びっくりして尻もちをついてしまった。僕の驚きっぷりに、女の子はゲラゲラ笑っている。

「大丈夫? お尻濡れてない?」

「あ、大丈夫……です」

「なら良かった。はい、立って」

 男の子が差し伸べてくれた手に掴まり、立ち上がる。話しかけられて、ちょっと怖い気持ちがあった。

 でもまあ、二人共優しそうではあるけど……。

「どうだった? 俺たちの演技」

「ど、どうだったって……すごかったよ」

 素直な感想を答えると、男の子の顔がパッと華やいだ。わかりやすく嬉しそうな表情をしている。

「本当? やっぱり俺たちの演技は凄いんだな! やったな、みこと!」

「ええ!」

 この人たち、演技が大好きなんだ……だから、あんなに危険な状況でも乗り越えられることができるんだ。

 勇気もあるし、明るいし、僕にないものをこの人たちは持っている気がした。

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君を主人公に任命します! 成木沢ヨウ @narikisawa2020

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