【友情 味】夢

 寝付きの悪い夜に決まって見る夢がある。


 それは高校生に戻った俺が親友の優斗とコンビニでアイスを食べてる夢だ。

 別にこれといった会話はない。


 ただ、照りつける日差しを避け、コンビニを陰にしてアイスを頬張る。

 アイスを食べ終えた優斗はいつものように一眼レフを取り出し、何かをレンズに収める。


 そんな記憶の片隅にしかないような思い出を社会人になった今になって夢で見るようになった。


 俺たちは高校卒業後別々の道を進んだ。優斗はカメラや映像系の専門学校、俺は総合大学。

 それから俺たちは特に仲が悪くなった訳ではなかったが、だんだんと連絡を取らなくなった。


 そして、大学を卒業し、就職した俺は起きて、働いて、食べて、寝るだけの生活だ。


 なんの目標もなく生きてきた俺だが、最近になって気になることができたかもしれない。


 でも、俺の人生は決まっている。この会社で働いて、そこそこ稼いで、そこそこ生きていく。

 正直それでいい。今更、全てを捨てる勇気なんて持ち合わせていない。


 そんな心の内を誤魔化すために、人のせいとか環境のせいにしている。そんなのは自分でもわかってる。


 まぁいいんだ。とりあえず今日も出勤すれば一日が終わる。余計なこと考えずに働けばいいんだ。


 マンションのエントランスから出ると今日も灼熱だ。


 セミの鳴き声がいっそう暑さを感じさせてくる。突き刺さる日差しが憎らしいと思い太陽を見上げると、そこには青々とした空に浮かぶ大きな大きなな入道雲があった。


 (ああ、あの時優斗が撮ってたのはこれだったか)


 俺はまた夢の中に戻ったかのように思い出す。





 アイスが溶けてこぼれてしまわないように必死で頬張る俺。そんな俺に優斗が声をかける。


 「おい、樹、あれ見ろよ」


 優斗の目線の先を見ると、我涼しげに漂う巨大な入道雲が。俺たちはそれに呆気にとられた。

 しばらくの沈黙を破ったのは優斗だった。


 「俺さ、写真家になるわ」


 そういいながら優斗はまだ呆気にとられていた。

 

 「じゃあ今こそカメラに収めなきゃだろ」

 そう俺が言っても優斗はカメラを構えなかった。


 「いいや、俺はこの感動を忘れないようにしたい。だから目に焼きつける」





 そうだった。あの時、優斗は写真を撮らなかったんだ。


 俺は最近この感動に似たものを覚えたのかもしれない。


 俺はちょっとだけ自分の気持ちに従ってみようと思った。

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