第67話

「先王のおじい様が、昔教えてくれたんだ。半分冗談で、半分本気だった。王族はどこにいても注目され、何から何まで記録され、報告され管理される。プライベートも自由もない。例えば用を足すのだってガラス張りの部屋でさせられるんじゃないかってね。実際、平民は入浴も自分でするんだってね。僕、裸を人に見られる抵抗はないもんな」

「え、そうね。私も身体を洗うのはいつも人に手伝ってもらうわね」


 ヴェルターの言う、人とはもちろん侍女のことであるが、リティアもそうだった。だが、入浴の話だなんて。リティアは深く考えてしまって赤面する。それを隠すために窓の外を見ているふりをした。


「誰にでもってわけでは無かったよ。まぁ、ガラス張りの部屋はもちろん例えで」

「ええ。では今日はあなたの貴重なプライベートということね。同行できて光栄だわ」

「ああ。楽しみだ」


 ヴェルターはリティアの赤面に一瞬首を傾げたが、直ぐに自分の失言に気づき、赤面した。そして、それを隠すためにリティアとは反対の窓の外をみているふりをした。先に窓の外を見ているリティアはヴェルターの赤面に気づくことはなかった。二人はそれぞれ違う方向を向いていたが、頭の中は同じで、それを追い払うために時々首をふるという奇妙な行動に出ていたが、幸いにも相手にその行動を見られることは無かった。


 ヴェルターは、ふとマルティン・アルデモートと馬車の乗った時の事を思い出した。自分が休まなければ、マルティンも楽な姿勢が取れなかった。ヴェルターは、ぱっとリティアの方を確認した。窓の外を見ていたがきちんとした姿勢を保っていた。


「リティ、辛かったら体勢を崩しても構わない。誰も見ていないのだから」

「ありがとう。でも平気よ」

「本当に無理してない? 」

 リティは微動だにせず座っているヴェルターにそう言われても心中複雑だった。リティアとて長くじっと座っていることには慣れていた。だがそれは、馬車のように動く場所は例外だった。乗馬ほどではないが体勢を保つには体幹がしっかりしなくてはならない。ヴェルターは細く見えても鍛えられた身体をしているのだろう。……と、リティアはヴェルターが“裸を人に見られる抵抗はない”と言ったことと相まって、自分の想像力がそれ以上掻き立てられないように努力をした。ヴェルターはリティアの返事が返ってこないことから無理をしていると判断したらしい。

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