第63話

リティアを見送ると、レオンとランハートは顔を見合わせ、お互いの背中を叩いた。

 

「とにかく、ヴェルターが多忙で窓の外を見てなきゃいいんだけど」

「そうだな。見える所で会ってるくらいの純粋な二人だし、かわいいもんだが」

「……なぁ、ラン。どう思う」

「そうだな。色々思うことはあるが、結局のところ俺たちが何もしなくてもヴェルターとリティアは結婚する、ということだ」

「まぁ、そうだな。ヴェルターが変なことはともかく、リティアはどうしたというのだろうか。疑似ではない恋愛をすればいいじゃないか、ヴェルターと」

「初恋はこじれるんだろ。ラン」

「お前の方が恋には詳しいんじゃなかったのか」

「……」

「……」


「戻るか」

「そうだな」


 二人はもう一度肩をたたき合ってその場を離れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ランハート・ヴェッティン及びレオン・フリューリングの危惧していたことはその通りになっていた。


 ……見たくないものほど見てしまうものだ。

 見たくないのに見える場所にわざわざ行ってしまう。この自傷行為ともいえる行動を繰り返し、ヴェルターはひどく傷ついていた。

 

 なぜ、リティアは宮廷に来るのだろうか。その疑問を持つのは一度や二度ではなかった。その都度理由から自分は除外されるとわかっているのに自問してしまう。だが、ここ最近は自分が除外されるだけでは無かった。自分の婚約者であるリティアは確実に他の男に会いに宮廷に来ていた。


 初めはわざわざ宮園で会うなんて自分への当て付けかとまで思ったが、自分のことなどリティアの頭の隅にもないだろう事を知って余計に落ち込むことになった。ヴェルターは見なければいいのはわかっているが、敢えて見える所へ体が動いてしまうという矛盾を繰り返していた。


 ウォルフリック・シュベリーとリティアは何度か庭園で逢瀬を楽しんでいた。(ようにヴェルターの目には映った)リティアの馬車がこの王太子宮側に停まると、優秀な侍従たちがヴェルターに訪問があるかもしれないと、いつリティアが来てもいい準備をするのだ。ヴェルターはリティアが来たことを嫌でも悟ってしまう。わずかな期待が裏切られるこれほど虚しい事は無かった。……少し前、リティアが宮中でウォルフリックについてあちこちで尋ねているらしいと耳にした。噂にも満たない小さな情報だったが、ヴェルターは聞き逃さなかった。


 窓際に立って、庭園を見下ろす。ヴェルターの目はどんなに遠くにいてもリティアを一瞬で見つけられる特殊機能がついていた。この日も横には、ウォルフリック・シュベリーの姿があった。ヴェルターは、この時初めて彼も笑うのだと知った。はにかむような笑顔は同性からみても大層に魅力的で、至近距離であの顔を向けられると、たまらなくなるに違いなかった。そこで目を逸らしていればよかったのに。ヴェルターは深く後悔をした。

 

 リティアが、リティアの方からシュベリー卿の手を取った。

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