第62話
「近々正式に婚姻の申し入れをするつもりだ」
「ラン!! どういうこと、ヴェッティン家からどこの家門へ? 家同士が決めたのよね? どんな方なの? 」
リティアは矢次早に質問をした。ランハートの得意げな顔の訳を早く聞きたかった。レオンはすでに知っていたのか、横で白い歯をきらめかせて笑っている。
「相手は俺の恋人、だよ。だが、根回しをして家同士の利害を一致させた」
「つまり、こいつは前もって周りから固めたってことだ。まぁ、有能なランハート・ヴェッティンから求婚されて断るバカはいないと思うけどね」
「念には念をだ。ああ、リティ、まだ内密に頼む」
「わかったわ」
リティアはランハートに恋人が出来たことも知らなかった。つい、ふさいだ顔をしてしまったのか、ランハートが笑う。
「寂しがる必要ないだろ、リティ。君の方が先に結婚するだろうしね。ああ、そうなるとここで気軽に話しかけることも出来なくなるかもな」
「そんなことないわよ」
リティアはそう言った。“ヴェルターと結婚することはないのかもしれないのだから”そう言う事は出来なかったが、リティアはその覚悟を持たなければいけないと思った。ヴェルターと結婚しなければ、こうやって気軽に友人と話せるか、それはまた状況が変わって来るのだ。
「とにかく! この中の誰も片思いはしたことがないってことだな。……ちなみに、シュベリー卿だって、片思いをしたことはないぞ」
リティアはレオンの言葉を理解するとぱっと顔を明るくした。
「そうなの、ああよかった。ウォルフリック! 」
「そうだな。彼、あれが初恋なのかなー。初恋はこじらせると……まぁ、大変だ」
「……そうなの? 」
「え、ああ。なあ、ラン」
「そうだな。元々立場上恋愛も平民ほど自由ではないからな。だが、幼少期やアカデミー時代の初恋は大人になってからの男女における関係に大きな役割を担っているのは事実だ」
「……最初の恋が? 」
「そう。自分の好みを形成する時期であるのだろう」
「あ、わかるな。それ。母親、親族、講師、幼馴染……級友」
レオンも同意した。リティアはなるほどと思う。異性を意識するということか……。
「最初の恋、かぁ」
「さ、行こうか。今日は殿下のところには? 」
リティアは緩くかぶりを振った。リティアはそっとヴェルターの執務室のある方向へ顔を向けた。
「そっか、ヴェルターも忙しいからな」
レオンはリティアを立たせるのに手を差し出した。レオンが申し出たエスコートを断ると、リティアは馬車へと乗り込んだ。
馬車の中、リティアは窓の外を見ていた。美しい庭園には何人か紳士の姿も見える。リティアとそう変わらない若いどこかの子息。宮廷に入ることが許されているということはそれなりの家門である。リティアは「はぁ」とため息を吐く。
何が、ヒロインだろうか。ヒロインにありがちな特徴がリティアには全く無かった。
「全然モテない」
リティアの呟きは馬車の走る音でかき消された。……別に、いいのだけど。心中複雑だった。
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