第60話
「俺たちは責めたいわけじゃなくて、リティ。レオンの言う通り、誰も君たちの関係を深読みしたりしてないさ。むしろ、微笑ましいほどに清爽としている。だけどな、まぁ、気にする奴もいて、だな」
ランハートは言葉尻を濁した。
「……どういうこと? 誰も気にしないんじゃないの? 」
リティアはランハートの矛盾を指摘したが、ランハートは苦笑いで返しただけだった。わからないリティアはレオンの顔を伺ったが、レオンもランハートと同じように笑うだけだった。
ウォルフリックは、「奴……」と呟き、顎に手を当て考えていたが心当たりがあったのか、あっと小さく呟き顔を上げた。
「大丈夫です、罪にはなりません」
ランハートがウォルフリックにそう言い、リティア以外はわかっている様子だった。
「あ、これ、どっちにもやきもち大作戦だったりします? 」
レオンが唐突に言ったが
「なわけない。嫉妬誘発作戦など必要ない立場だろう」
ランハートが否定する。ウォルフリックはまた何かを考え、美しい漆黒の瞳を見開いた。
「まさか、どっちも、とおっしゃいましたか」
ランハートとレオンがまるで示し合わせたかのように同じ顔で首を傾げた。
「ええ、あなたの恋人……」
ランハートが言い切る前にウォルフリックは否定した。
「ち、違います! 私の片思いで、あちらにご迷惑をかけるわけには……」
「あ、ああ、ああ。ああ、そうでしたか」
普段は落ち着きのある、口数の少ないウォルフリックの前のめりな様子に、ランハートもレオンも後ずさり、「や、卿なら誰でも落とせるだろう」「どう見ても向こうも気があるだろう」という二人の言葉はある種の狼狽の中にいるウォルフリックには聞こえていなかった。
少し落ち着いた頃
「なぜ、私が懸想していることをご存じなのでしょうか」
レオンは「わかりやすいからです」と安易に応え、憔悴するウォルフリックを前にランハートに咎められていた。
「以前、一緒にいらっしゃるのをお見掛けして。あなたが令嬢と話されるのは珍しいですから、恋人なのかと思っただけです」
「……そ、そうですか。めったにお会いしないヴェッティン卿がそうおっしゃるのですから、私の想いは隠しきれていないのでしょうね」
ランハートもレオンも小さな子を微笑ましく見つめる瞳になっていた。
「そういえば何となく、彼女の前であなたは柔らかな表情をされていましたね」
「ははは、何がだよ。シュベリー卿はべルティーナ嬢の前では左手がずーっとぐーだぞ、ぐー」
「レオン! 」
ウォルフリックは信じられないくらい赤く染まった。
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