第59話

「だいたい、本気で逢引きする気ならここは選ばない」

 レオンにそう言われ現在地を認識する。人通りもそこそこに、どこからも見える場所だ。

 “見晴らしのいい場所”そんなところで婚約者持ちの令嬢が逢引きなどする分けはない。

「ですが……」

 

 気落ちしたウォルフリックに今度はランハートが助言する。

「大丈夫ですよ。あなたがそんな人ではないのはわかっていますし。“本気で逢引きする場所”ならレオンが詳しいので聞いたらいいと思いますが」

 レオンが、得意げな顔をして見せ、場を和ませた。ランハートは、ウォルフリックとリティアが何度も二人でいるのを見た人がいても噂にならない理由を説明した。

「我々貴族の間で、リティアはもう王家の一員のような扱いなんだ。こんな場で堂々と他の男性といたからといって誰も軽々しく噂にしたりしない。というか、出来ないんだ。不確かな情報を安易に流してしまえば王族不敬で断罪される可能性もある」

「そんな、大袈裟な」

 リティアは否定したが、レオンもランハートも嘘じゃないと肩をすくめた。

「リティ。君はこの国の次期皇后なだけではなく、オリブリュス公爵令嬢だ。お父上の力もまた偉大なもので、とにかく君を敵にまわすと大変なことになる。誰もそんな危ない橋は渡らない。君はだいたいのことは許される身なんだってこと」

 ランハートがリティアに微笑むと、リティアは妙に居心地が悪くなった。

「だいたいのことって……」

「不貞以外、ってことだな。継承権に関わるから」

「し、しないわよ! 」

 リティアはカッっと顔を赤らめた。

「それに関しては、一切の疚しいことはありません」

 言うなり、きゅっと口を結び凛々しい表情のウォルフリックに、レオンとランハートは顔を見合わせ、吹き出した。ウォルフリックはそれをなぜ笑われたのかわからず、不服そうに見ていた。


「すみません。シュベリー卿、本当に疑っていません。あなたとのことも、リティのことも信じている。それに、あなた方はそんな人ではない」ランハート身を正してウォルフリックに話しかけた。

「ええ、誓って」

 ウォルフリックは自身の胸に手を当てた。


「そうそう。疚しくないんだから構わないさ。みんな、ちゃんとわかってる。だだ、まぁ男女である限り触れるのはやめよう。俺も今後は気をつける」

 レオンが自身の行動を含めて忠告した。

「ええ、ごめんなさい。気を付ける。もっと、ヴェルター殿下の婚約者であることに自覚を持たなくちゃ」

 ずっと婚約者として教育され、生きてきたのに、気が抜けてしまっていたのだろうか。リティアは自身に呆れ、落胆する気持ちだった。

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