第42話
「私に会いに来たのではない。私がいないことを知っていて三度も。……誰に会いに来たというのだろう」
以前のように立ち上がり窓の外を覗く。だが、そこにリティアの姿は無かった。それに、ほっとして、反対に見えないことにがっかりもした。ドアがノックされ再びエアンが入って来る時にはヴェルターは複雑な気持ちは胸の奥にしまい、平静を装った。
「ヴェルター様、先ほどのリティア嬢の件ですが、侍従に手紙を言付けようにもいつもの馬車庫に停めていないようで。……確かにいらっしゃっていたはずなので、少々お時間いただいて馬車の通行を管理している者に確認を……」
ヴェルターはエアンの言葉をそこで遮った。
「急ぎではないのだから、構わない。今日は王太子宮ではない所へ向かったのだろう。構わないさ、私もまだ旅の疲れも取れていない。また改めるとしよう」
「ええ、承知いたしました」
いくら待ってもこの日はリティアが自分の執務室に来ることはないだろう。そう開き直ると待つ必要もなく、いくらか気持ちが楽になった。リティアの馬車がどこに停められているか、などと聞きたくは無かった。
ヴェルターはそこから考えるのをやめた。考えたところで良くない思考に囚われるのは分かっていた。何も考えたくなかった。それなのに、感情が口を突いた。
「ここまで来て、この部屋に立ち寄ることはそんなに面倒なことなのか」
この宮殿に来て自分を思い出さないことがあるだろうか。ヴェルターは不思議でしょうがなかった。リティアの行動に疑問を持つ、それは自分の気持ちとリティアの気持ちに隔たりがあるということをヴェルターは感づいていた。同じ気持ちではないということだ。うっすらとしたものが日々濃くなっていく。
ふ、とヴェルターの脳裏にアン女王の笑顔が浮かんだ。婚姻か。王族に生まれ、結婚に夢を持つなど、いつからこんな馬鹿げたことを考える様になったのだろうか。アンは、結婚は想い合った人と、と提案してきた。ヴェルターが一番重要としていないもので、かつ期待してきたものだった。想い合った人と、か。想い合うといことは、向こうからも想われなければならないのか。ヴェルターは当たり前のことに自虐的な笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます