第6話 真のヒロイン、悪女とは……。
第43話
リティアがミリーのいない自室にこもるのを満喫し、そろそろ飽きてきた頃、どこか出かけようかと思いついた。豪勢な馬車は母親が使用しているが他の馬車はある。
リティアはふと思いついたことを試してみようと試みることにした。一つ、新しく出来たカフェに行く。二つ、今なら暫定ヒロインの自分が出かけたら誰か麗しい男性に“偶然”出会うのが目的かのように出くわすのではないか、という好奇心だった。期待したわけではない。試してみたくなったのだ。つかの間の好意を向けられるのも悪くはないのかもしれない。悪女が登場までの期間限定であることを理解しているからこそ、楽しめるのだ。
ミリーと違って他の侍女からは深く追求されることなく外出することが出来た。久しぶりの街にリティアの胸も高鳴った。誰かに出会うだろうか。そう思いながら馬車から降りた時だった。リティアは周りを見渡すまでもなく見知った顔を見かけたのだ。
あれは、マルティン・アルデモート補佐官では。
通りの向こう側をつい数時間前にヴェルターに同行し遠征から戻ったばかりのマルティンが歩いていた。貴族の馬車があれば誰だろうかと目を向けてしまうのはマルティンも同じで、目が合ったからには挨拶をとリティアに近づいてきた。なんせリティアはヴェルターの婚約者であるのだから。
「リティア嬢、こんなところでお会いするとは」
「ええ、もう帰られたのですね」
「はい。予定より二日ほど早く帰れまして。つい先ほど殿下も宮へお入りになりました」
「まぁ、では補佐官様は休む間もなくということですか? 」
「いえ、今日中に急ぎの物を終わらせておけば数日休暇をいただける予定です」
「そうでしたか」
はた、と目が合うとマルティンは不自然でない程度に目を逸らした。リティアを
「遠征はいかがでしたか? 」
リティアに尋ねられ、マルティンはまず確認する。
「この度の遠征の詳細は殿下からお聞きになりましたか? 」
「ええ、シュテンヘルムの叔父様への訪問と、それから隣国ラゥルウントの王にお会いすると。極秘ではないと聞いておりますが」
マルティンは辺境伯を叔父様と呼んだリティアに少し口元を緩めた。
「そのとおりです。このあたりに比べればまだまだですがシュテンヘルムも辺境伯の統治により暮らしやすい街になっています。季節によってはあちらの方が過ごしやすいかもしれませんね」
リティアはマルティンの表情から、楽しい旅だったのだと推測した。
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