第41話

【帰宮】

 


 ……帰り道。辺境伯の宮殿を出る時には荷馬車が二台増えた。一つは甥を溺愛する叔父からの贈り物が詰まっていた。もう一つはアン女王個人からの贈り物だった。その中にはリティアに宛てたものもあった。


 ヴェルターは揺れる馬車の中でリティアを思った。彼女は、自分の帰りを待ちわびているのだろうか、と。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 帰宮は思ったより早くなった。往路と同じように貴族たちの邸宅でもてなされたが一行の疲労具合に領主たちは早々に諦めた。実際は早く休ませたいマルティンが侍従たちの軽口に噂を乗せて牽制したのだ。“なんでもラゥルウント国が、権威ある独身の者を探しているらしい”と。貴族たちは違う意味でヴェルターの目に留まってはまずいと娘と息子を隠し、ヴェルター一行はゆっくりと休めたのだった。



 帰宮した翌日、ヴェルターは留守を任せた執事エアンから報告を受けていた。

「特に問題は無かったようだな」

「はい、書簡がいくつか届いていますが急ぎのものはございません」

 手渡されたものの差出人を確認する。とくに重要なものは無く

「これと、これは君の方から返事を書いておいてくれ」

 そう言って分別し、もう無いのかとエアンの手元を見る。仕事の物とは別に渡すだろう物、それに気づいたエアンは

「リティア嬢に訪問の手紙を書かれますか? 」

 と尋ねた。


「そうだな。今回は私のせいで会う時間が取れなかったからな」

「あ、ええ」

 エアンの煮え切らない物言いにヴェルターは首を傾げた。

「何だ? 」

「……先ほど、リティア嬢の馬車をお見かけしたので、ひょっとするとこちらに会いに来られたのでは、と思いまして。お調べ致しましょうか? 」

「ああ、いや、いい。ラゥルウントの王女からリティア宛てに贈り物を言付かっている。私が持って行くべきだろう」

 ヴェルターはもっともらしい理由を言った。

「そうですか。では、そのようにオリブリュス公爵家の侍従に手紙を言づけましょう」

「そうしてくれ」


 エアンが部屋から出て行くと、ヴェルターはそこにいる侍女に尋ねた。


「私が留守の間、リティア嬢はこの宮殿に来ていたか? 」

「はい、おそらく。オリブリュス公爵令嬢の馬車は何度か見かけました」

「リティアは? 」

「いえ、私どもは令嬢の姿までは……あ、しかし令嬢お付きの侍女は見かけました」


 リティアの侍女、といったらミリーか。ミリーがリティアを置いてここへ来るはずはない。ということはリティアはここへ来ていたのだろう。ヴェルターは何とも言えない気持ちになった。


「何度だ? 何度見かけた? 」

 侍女は不思議そうな顔をしながら指を折り

「三度です」

 そう答えた。

 一人になったヴェルターは深い溜息を吐いた。リティアがこの宮殿に来ている。ヴェルターの帰宮は予定より二日も早まったのだ。リティアはそのことを知らずに来ているはずだった。

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