第12話

ランハートのオリーブ色の髪は日に当たっていつもより明るく見えた。アンバーの瞳が好奇心でいたずらっぽく輝いた。

「別に何もないんだから」

「そっか、そっか」

 からかわれたのだと気がつくとリティアはますます顔を赤らめた。リティアは記憶がぼんやり蘇ったあたりから誰かに雰囲気が変わったと言われることが多くなった。確かに婚約破棄などという考えに至ったのもそのせいでリティアにも自覚はあった。それをこの一瞬で見抜いてしまうランハートに警戒しながらも久しぶりのランハートとの時間は楽しいものだった。


 無駄に綺麗な顔をしている。ヴェルター以外を異性と認識していなかったリティアは今更ながらに知的で冷静沈着で、それでいて子供っぽい所もあるランハートに、この人、モテるだろうなぁと思ったのだった。主に、娘の相手にと親から熱望されそうな将来有望な好青年だった。

「何か? 」

「いいえ、あなたって相変わらず完璧ね」

「融通が利かないって? 」

「それは否定しないわ。でも、相変わらず、素敵ねっていうのはそのままの意味ってこと」

「あはは、君の婚約者には到底及ばないさ」

 そうかしら、とリティアは心の中で思う。素敵なのはヴェルターだけじゃないって今から知るところ。

 

 リティアが先ほどここが今最も安全な場所であると言ったのは横にランハートがいること、それと、少し先に騎士が見えたからだ。その騎士に見覚えがあり、向こうも知った顔だとわかるとそこでリティアとランハートが到着するのを待っていた。


「リティア! 随分久しぶりじゃないか! 」

 その騎士はリティアが到着するのを待ちきれんとばかりに声を掛けてきた。んんっとランハートが咳払いをする。その騎士、レオン・フリューリングは肩をすくめておどけて見せると礼を尽くした。

「レディ・リティア。ご挨拶申し上げます」

 リティアもそれに倣い形式ばった挨拶を交わした。これで満足かとランハートに視線を送るレオンに、ランハートは満足そうに頷いた。それが確認できると、レオンは相好を崩した。

「許してくれよ久々の友との再会なんだ」

「……場所を考えろ」

 じろり、ランハートがレオンを睨むが、それに省する様子もなくレオンは白い歯を見せて笑った。


「で、いつからランがリティアの護衛騎士に? 」

 レオンはさっそく軽口をたたく。

「何だ、俺じゃ役不足だと言いたいのか? 」

「はは、文官でもお前ほど腕の立つ奴はいないだろう」

 一見真逆の二人だが、気の置けない友人なのだ。

「で、リティは? 逢瀬? 」 


 改めて見ると、ランハートもレオンもとても素敵な人だ。リティアは二人が仲良く言い合う姿に見とれてしまっていて、レオンの問いにすぐに応えられなかった。

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