第3話 秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。
第11話
宮殿東側の馬車道から入り、噴水のある広場を抜ける。宮殿の前庭まで行き着くと、リティアは庭園を楽しもうと馬車を降りてテラスまで歩くことにした。以前訪問した時とは季節が変わり、この時期の花が咲き誇っていた。もう何年も見ているはずなのに細部まで手入れの行き届いた景趣に圧巻される。
大庭園まで続く壮大な柱廊にはいくつか人影があった。その人はリティアに気が付くとわずかに目を見開き、その後、これもわずかにだが、眉間に皺を寄せた。だが、リティアに声を掛ける頃には穏やかな表情だった。
「ご無沙汰しております。リティア嬢」
「え、ええ。ヴェッティン卿、お元気そうで何よりですわ」
「あなたも。あー……ゴホン。久しぶりに会って早々ですが、あなたに苦言を。伴の者も付けずに令嬢がおひとり歩きなどいかがなものかと」
「ふふ、ご心配ありがとうございます。でも、このファサードまでの道は今、宮廷で最も安全な場所ではないかしら」
リティアがそう言うと聡明さがにじみ出た紳士の顔はふっと和らいだ。彼とは王太子も含めアカデミー時代の級友なのだ。
「では、微力ながら、私がしばらくは護衛を努めましょう」
すっと腕を出した侯爵家子息、ランハート・ヴェッティンの腕にリティアはそっと手を添えた。
「で、彼に会いにきたのかい? 」
「ええ。まあ」
煮え切らないリティアの答えに、ランハートは今度は気取らずに苦笑いした。
「わざわざ侍従を帰して一人になりたかった。ってこと? 」
「帰してないわ、馬車を停めに行ったのよ」
「うん。君が一人で大丈夫って言ったからだろう? 」
出会いを、なんて言えるわけもなく、リティアも苦笑いで返した。頭の切れるランハートにこれ以上口を開くと何もかも見透かされそうで、リティアは庭園を楽しむ素振りをした。気持ちを汲んでくれたのだろう。ランハートはそれ以上何も言わなかった。
「少し、雰囲気が変わったね」
「そうかしら」
リティアは泉から吹き出る水しぶきから、ランハートへと視線を移した。
「うーん。ドレスのせいかな」
ランハートは本当はそうじゃないとわかっていながらそう言った様子だ。リティアの微かな違和は説明しがたいものなのだろう。そっと瞳を覗かれるように見つめられれば、リティアは恥ずかしさから顔を赤くした。
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