第10話

届いたドレスは、暮れかけた空のように青みを残したグラファイト。初めて選ぶ色だった。襟ぐりを開け、腕を隠すデザインで、胸の編み上げを最後にゆったりとした生地がストンと足元に落ち、リティアが動くたび裾に施した銀糸の刺繍が夜空の星のようにキラキラと輝いた。


 いつもは淡い色のドレスが多いリティアはどうも落ち着かない。

「少し大人びた感じではないかしら」

 何度もミリーに確認したが

「いいえ、もう十分大人でいらっしゃいますよ」

 ミリーは満足そうに微笑むばかりだった。言われればそうなのだが、いつもより軽く動きやすい分このドレスは体のラインを拾っている気がして落ち着かなかった。実際はとりたてて露出部が多いドレスでは無かった。


「髪も結い上げましょう。濃い色にお嬢様の髪色は映えますから、後ろはほんの少し垂らして……」

 ミリーは手際よく身支度を仕上げていった。

 

 不意に記憶が現れるようになって直ぐ、リティアはいつもにも増して令嬢たちのお茶会に足を運んだ。今までの顔見知りの令嬢たちに目ぼしい人はいなかったが、もしかしたら新たに出会う人の中に悪女がいるかもしれないと思ったからだ。


 結論から言うといなかった。どころか、王太子の婚約者であるリティアに友好的な令嬢ばかりだった。みんな、礼儀あるわきまえた人達ばかりだったのだ。このルートに悪女がいないとわかると、リティアは令嬢たちのお茶会から足が遠のいてしまっていた。


 ……だけど、今日は宮廷で友人に会えるかもしれないわね。リティアは最近社交界に出ていない言い訳を二三考え、宮廷へと向かった。

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