第5話

褒めたことで媚びているように思われただろうか。ヴェルターの表情は変わらず柔らかで、リティアはそれ以上読み取ることは出来なかった。

「ヴェルはほら、とても綺麗でしょ。白のコートも、中のウエストコートもヴェルの髪色も瞳も白で統一されてるみたいに見えて、眩しくて幻想的だった」

「ああ、眩しくて目を細めてたの。確かに、目には優しくないかもね」


 褒めたつもりだったが、ヴェルターの声が少し低くなったことで貶したと取られたのだろうか。リティアは次第に焦慮しすぎて饒舌になった。


「後ろから光がさしてるみたいに見えるって事よ! 高貴なあなたにはぴったりだわ」

「そう、かな」

「ええ、ええ。眩し過ぎて白飛びしちゃってるように見えるくらい。ふふ」

「白飛び? どういう意味かな」


 リティアはハッとして口を覆った。自分の言った言葉は初めて口にした言葉で、ここにはない表現だった。口にするほどだ、リティアは理解できたが、ヴェルターはそうではない。こんな時に咄嗟にここでは使われないの言葉が出て来るなんて。誤魔化すためにリティアはますます焦り、ヴェルターの訝し気な表情はそれに拍車をかけた。


「えっと、後ろから日が差してたら眩しくて見れないでしょう? 一瞬消えたように見えるの。あなたの場合は光を跳ね返すから。いえ、むしろあなたが光ってるように見えるの」


 ヴェルターは更に眉を寄せてしまう。とてもじゃないが褒めているようには受け取って貰えていないようだった。リティアははさらに取り繕うことに力を注いだ。だが、こういう心理状態の時は言葉を続ければ続けるほど、事態は悪くなる。

「私も人の事言えないのはわかっていて、だって淡い髪色でしょう? 濃い色のドレスが似合わなくて淡い色のドレスばかり着るものだから、ますます締まりがなくて、そして真っ白なあなたの横に並ぶわけでしょう? 仰々しく登場するわりには二人並んで輪郭がぼんやりしちゃうじゃない? どちらかがメリハリのある濃い容姿なら良かったわね。どちらかって、私が遠慮するべきよね。あなたの隣に立つ女性はもっと、」


 ヴェルターの微笑みを湛えた表情に、リティアはぐっと言葉を止めた。怒ってるから機嫌をとるつもりが“人の事言えない”だなんて、褒めてないって言っているようなものだった。


「君は時々面白い表現をするね」

「そうかしら」

 

 時々というのが記憶に関係する度であるとリティアは自覚していた。とはいえ、ヴェルターはさほど気にしている素振りもなく一方的に穏やかな時間が過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る