第4話
王太子来訪の知らせを受け、侍女に続いて貴賓室へと向かう。待たせたところで嫌な顔などされるわけもないが、旧友のような婚約者は時間を持て余したのか窓の側に立ち庭園を見ていた。広い窓から差し込む光が、銀糸単色の刺繍を施した白のロングコート、ウエストコート、それから彼の真珠の髪が艶やかに跳ね返していた。……眩し、い。盛装ではない訪問着だが麗しい装いにリティアは目を細めた。
リティアに気が付いたヴェルターは、リティアが形式ばった挨拶をするより先に声を掛けた。昔からの愛称で呼ばれれば、自分にもそうして欲しいという合図であり、王太子にとっても気さくな時間であった。
「やぁ、リティ。……そのドレス、とっても、よく似合ってる」
春らしいアイルトーンブルーを基調に白いレースがたっぷり使われたドレスはリティアの愛らしさを強調していた。リティアが微笑むと、ヴェルターの秋の空にさらに薄雲をかけたようなアイシーブルーの瞳が揺れ、長い睫毛が二、三打ち合わされた。微笑みあうだけの時間が過ぎる中、ミリーがそつなくティータイムを仕切っていた。やがて二人を残しミリーが部屋を出て行くまで二人は口角を下ろさなかった。
リティアはヴェルターが顔には出さずに安堵していることに気が付いた。カップにお茶が注がれていれば、カップを口へ運ぶ間は会話を探さなくて済むのだから。
いつからだろうか、探さなければ会話がなくなってしまったのは。リティアはカップに口づけるヴェルターを盗み見る。とんでもない美男子だ。この国は、リティアの知る限る従事や庭師、平民でさえ容姿の整った者は多い。お国柄だろうが、その中でもヴェルターの光を跳ね返すまばゆい容姿は珍しく、抜きんでたものであった。一目で王族の血縁かとわかる高貴な髪と瞳の色。
簡単な近況報告と、出されたお茶や磁器に意見を言い合い、それが終わるとまた沈黙の中、お茶をすする。
会話を探すのはヴェルターだけでなくリティアもだった。先ほど、ドレスを褒められた時に自分は婚約者を褒めなかったことを思い出し、良い会話を見つけたとばかりに口を開いた。
「今日は一段と素敵ね、ヴェル。窓の側に立ってたでしょう? 光を受けて真っ白で妖精と見まがうくらいだったわ」
「はは、そう? 君だって、春の知らせが入って来たのかと思ったよ」
ヴェルターは微笑んだが、この会話はあまり好ましくなかったのかふいっとリティアから視線を逸らしてしまった。まただ、とリティアは思った。ヴェルターはリティアから視線を逸らすことが多くなったように感じる。目の前の王太子は感情を表に出さないことに長けていた。それでも気づくのはリティアが昔の彼を知っているからだろう。
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