第4話
私の実家は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島の八百神社だった。
龍神をはじめ、山神と土地神、豊穣の神と言った多くの自然神を祀っていて、神社のある島を中心に、複数の島の人達が信仰していた。
島の人々のお宮参りからお葬式までの全てに関わり、島民たちにとっては村長より尊い存在なのが、大宮司の家系である胡桃沢の家だった。
私は碧と共に、その大宮司の娘として生まれた。
自然神を祀る八百神社の代々大宮司を務める胡桃沢家には、数代に一度、神気を持った子供が生まれる。
私達が生まれた時、空には彩雲が広がり、日輪が浮かんだ。前日からの強風で荒れていた海はたちまち穏やかになり、海面には大量の魚がピチピチと跳ね回ったという。
とにかく吉兆と呼ばれる現象が重なって現れ、人々は神子の生誕を確信した。
ただ、生まれたのは双子で、最初はどちらなのかわからず、二人共そうだと思われていた。しかし、すぐにそれは双子のうち、一人だけだとわかった。
それが碧だった。
碧が泣けば空は俄にかき曇り、海は荒れた。碧が笑えば日差しが降り注ぎ、適度に雨が降る。島の人々に取って碧は、大切な大切な神子様だった。
反対に、双子のもう一人、つまり私は何の神気も持たない普通の子供だった。
私は初めから、碧のためだけに尽くすように定められていた。
碧を助け、碧を守るように教育され、同年代の子たちと遊ぶことも禁止された。
立樹は私たちより五つ上で、彼の生家である桐生家も代々胡桃沢家に仕え、禰宜を務めていた。
彼もまた、将来は大宮司となる神子の伴侶となるべく幼い頃から親元を離れ、住み込みで胡桃沢家に入った。
大人ばかりの中で、歳の近い立樹に私達はすぐに懐いた。私にとって彼は初恋だった。
小さい頃から立樹の美貌は際立っていて、碧と並ぶとまるで雛人形のようだと持て囃された。
私も同じ顔なのに、何が違うのか。
普通の家に生まれたなら、少しでも神気が私にもあれば。私が碧だったら。
成長するにつれ、世の中の理不尽さに腹がたった。
私が腹を立てた理由は、それだけではなかった。
何もかも持ち、周りから期待され、この世の全てが思いのままな筈なのに、碧は自慢もしなけれな喜ぶこともなかった。
碧が感情を動かせば、天候が荒れるので仕方がないが、ただ淡々とすべてを受け入れ、碧は感情のない人形のようだった。
高校に入る頃には私も今の自分の状況で、何かを望むのは無駄なことだと悟り、諦めの中で生きていた。
そしていつしか私は、胡桃沢家を出ていくことを考え始めた。
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