第6話

そんな私達の様子を見ていた琴葉が、ゆっくり口を開く。



「ほんと仲良しなんだね。異性の幼なじみって、歳を重ねる毎に離れちゃったりするイメージだけど、ここまで仲良しな関係もあるんだね。まぁ、私の勝手な決め付けなんだけど」



「他はどうか分からないけど、僕は今までも、これからだってずっと、莉音ちゃんだけが一番だから」



自信に満ちた笑顔で言われ、顔に熱が集まるのを感じた。



私だってそうだけど、でも、いつか陸に私より大切な存在が現れないなんて言いきれない。



そうなってしまった時、私はどうするだろうか。



ちゃんと応援してあげられるだろうか。



陸の隣に、私以外が。



一瞬そう考えて、辛くなるからやめた。



そうなった時は、陸の為にちゃんと祝福出来る幼なじみを演じよう。



それが、想像を絶する辛さであろうと。



帰りのHRが終わり、部活を決め兼ねている琴葉に付き合って、部活見学に回るのを付き合う。



いつも帰りが一緒の陸は、運動部の助っ人へ行っていて、いつもなら待つのだが、有り得ないくらいの方向音痴を発揮して、いまだに校舎で迷子になる琴葉に、ちょうどいいので同行する事になった。



「いやぁー、助かるー。だってこの学校の校舎、全部同じ景色じゃん。訳分からん」



「そう? 割と違うよ?」



「私には同じに見える……。割とマジで矢印書いてて欲しい……」



周りをやたらキョロキョロ見回し、変な所で曲がろうとする琴葉を誘導しながら、文芸部を回る。



「うーん……色々やりたい事ありすぎて、体が足りん……」



部活リストを見ながら唸る琴葉が、リストを閉じた。



「よし、とりあえず運動部も回るか」



「だね。一通り見てみたらいいよ」



廊下を歩きながら、琴葉が再び口を開く。



「そういえば、莉音は部活入ってないんだよね? なんで? この学校、割と部活の種類多いのに」



「特に何かある訳じゃないけど、特にこれをやりたい、みたいなのがないから、陸みたいにたまに手伝ってるくらいが丁度いいのかも」



「もしかして、過保護な幼なじみのせいでもあったりして? 「莉音ちゃんに何かあったら危ない」とか「悪い虫が」とか」



「ふふっ、悪い虫って……。まぁ怪我に関しては、近い事を言われた事はあるかな。あ、でも、それが理由じゃないから、私がやらないだけだよ」



「そっかぁ……おや? 噂をすれば何とやら」



琴葉の声に被さる様に聞こえた、女の子達の悲鳴にも似た黄色い声が耳を刺す。



そちらに視線を向けると、丁度陸がシュートを決めていた。



「おぉー、幼なじみ君モテモテじゃん。さすがイケメンだな。あ、幼なじみとしては、複雑?」



「どうだろ。昔から陸はモテたし、取り合いなんて当たり前だったから」



「ほぉ。ま、彼には莉音しか見えてないようだけど」



そう言った琴葉が、陸に向かって大きく手を振り始めた。



こちらを見る陸が、柔らかく笑ってこちらに走ってくるのが見える。



「うわー、ほんと莉音だけに向ける笑顔は、無駄に別格だな。女子共の視線が気持ちいいわ」



痛い視線なのにも関わらず、ニヤリとする琴葉に苦笑し、ほんのりかいた汗を拭いながら近づく陸に視線を合わせる。



「お疲れ様、抜けてきて大丈夫なの?」



「うん、今一段落ついたから大丈夫だよ」



「ちょっと莉音借りてるよー」



「あぁ、見学? いい部活あった?」



「うーん、なかなかムズい」



「運動が辛くないなら、頭もスッキリするし、運動部はおすすめだよ」



言った陸の言葉のすぐ後に、陸の後ろから女子にしては背が高い、見覚えのある女子が顔を出す。



「いい事聞いてしまったなぁー。まだ決まってないなら、是非うちの部も見て行きませんか? 陸の友達なら大歓迎っ!」



明るく元気で、サバサバしている雰囲気のする女子が、私達に笑顔を向けた。



「あ、話すのは初めてだよね? いつも陸にはうちの男バスがお世話になってます。幼なじみちゃんと話してみたかったんだー」



女子バスケ部に所属しているらしく、陸とは何かと話すらしい、五十嵐八重いがらしやえさん。



ポニーテールで活発なイメージの、男女共に友達が多いだろう印象を受けた。



陸が前に珍しく女子を名前で呼んでいたので、覚えていた。



「あ、陸、またここ付け忘れてる」



「ちょ、やめろって」



いつも柔軟な言葉を話す陸が、少し粗めな言葉を話はのは、男子に向けてだけだと思っていた。



自然と陸に触れているのも、それだけ彼女が近い関係なんだというのが分かる。



胸の奥が、チクリとしたけど見て見ぬフリをする。



彼の友人関係に口を出せるような立場でもないから、目を逸らすしかない。



「ほー。なかなか興味出てきたなぁ……」



バスケ部にというより、二人にと言ったような、含みのある言い方と、何か企むような笑みを浮かべた琴葉が私を見た。



「私に任せたまえよ、親友」



軽く肩をポンと叩かれ、満面の笑みを向けられて、意味が分からず呆気にとられるしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る