第二章
第8話
誰もいない廊下を忍び足で歩きながら、悪い事をしている自覚を持ちながらも、目的の場所へ辿り着く。
妙に緊張しながら、扉の前で深呼吸をする。
多分、まだ起きているだろうと確信しながら、出来るだけ周りにバレないように、小さく扉を叩いた。
静かすぎる廊下は、昼間とは違って少し不気味で、身を震わせた。
ゆっくり扉が開いて、服と髪を緩めた姿でジェードが現れた。
いつもの姿とは違う彼を見上げ、心臓が高鳴った。
疲れた顔をしているのが、更に彼の色っぽさに拍車を掛けていて、頬が熱くなるのを感じた。
話があると言った私に、妖しく笑って咎める様な言葉を掛けた彼は、別人みたいで。
彼の妖しく揺れる視線に、体にゾクゾクとした何かが走り、足の力が抜けるような感覚がする。
そんな私の耳に、足音が聞こえた瞬間、腕を引かれて部屋へ引き込まれた。
壁が薄いわけではないけれど、微かに外の足音が聞こえるけれど、今の私はそれどころじゃなかった。
触られ慣れているはずのジェードの腕の中に閉じ込められているみたいな格好に、心臓がうるさくて。
ジェードの匂いを、しっかりとした男の体を間近に感じて恥ずかしくなる。
「行ったみたいだな」
「あ、あの……ジェード……」
「ん? 何?」
「もう、離してもらって、大丈夫、だよ?」
「どうして?」
更に顔が近づいて、耳元で囁いてクスリと笑った。
普段絶対に聞く事のない声色で囁かれ、ゾクリとして体を捩るけれど、彼の腕の力は緩まない。
「俺に触られるのは……嫌?」
「んっ……ジェー、ドっ……一体、どう、したの?」
様子が明らかにおかしいジェードに、疑問をぶつけるしか出来ず、ゾワゾワとする感覚から逃げるみたいに体を離そうともがく。
「そんなに嫌がられると、俺傷つくなぁ……」
顎に指が当てられて、顔を上げさせられる。
細められた目が誘うみたいな色で、心底愛おしそうに私を見つめる。
「ジェ……ド……」
「そんな怯えたような顔しないでよ……と言っても、君はどんな顔をしていても、可愛らしいけど……」
ジェードの指が唇を滑る。その指の動きが何処かいやらしくて、ドキドキするのに、底知れない怖さもあって。
圧倒されていると、ジェードが私を軽々と抱き上げた。
部屋の中央に連れて行かれて、ベッドへ寝かされたのを理解した瞬間にジェードが覆い被さる。
「ジェードっ、何をっ……」
「何って? こんな時間に男の部屋に来るような、危機感も何も無い無防備な悪い子には、お仕置きしないといけないだろ?」
髪を掬われ、指に絡めて口付ける。
「それとも、君にとって俺は……男として見られてないの?」
手を取って、指をいやらしく絡めて指先にもキスが落ちた。
愛し合う者同士が、ベッドの上で愛を囁き合うシーンなら素敵だっただろうに。
今の状態は、お世辞にも素敵とは言えないだろう。
「ジェード……どうして……」
「セレアが悪いんだよ? 俺が必死で抑えて隠して、長年かけて作り上げた壁を、簡単に壊して入って来たんだから……」
彼が何を言っているのか分からず、ただ呆然としていたら、頬を撫でながらジェードが妖艶に笑う。
「その責任を……君にはしっかりと、取ってもらわなきゃ……ね?」
そう言って、ジェードは私の唇を自らの唇で塞いだ。
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